今回は、ある乗客の周囲への配慮が欠けた行動に戸惑ったという2人のエピソードを紹介する。
乗降の邪魔になる“ドア地蔵”
田中翔太さん(仮名・20代)が乗ったのは、いつもの通勤ラッシュの満員電車。肩が触れ合うほど混雑しており、“次の駅で一気に人が降りる”ことを、田中さんはわかっていたという。
「しかし、ドア前の男性が全然動かないんです。本来なら降りる人のために一度外へ出てスペースをつくるはずですが、まるで壁のようにそのまま立っていました」
巷では“ドア地蔵”と呼ばれる行為だが、ドアが開いた瞬間、降りようとする乗客がその男性にぶつかり、車内は押し合いになった。田中さんも背後から押され、バランスを崩しそうになるほどだった。
「男性はイヤホンをしてスマホを見ていました。周りが迷惑しているのに気づいていない。さすがにイラっとしましたね」
結局、降りる人たちは男性をよけるように、体をひねりながらホームへ出ていった。車内では、ため息があちこちで漏れていたという。
座った途端に流れ出した“爆音”
中村慶子さん(仮名・50代)は、12月の寒い朝に駅のホームで電車を待っていた。到着した電車に乗ると運よく座れ、「これで落ち着いて温まれる」とホッとしたという。
ところが、次の駅で乗ってきた女性が最悪だった。
「女性は座るなり音楽をかけ始めたんですが、音漏れどころじゃなくて“爆音”でした」
迷った末、中村さんは勇気を出して声をかけた。
「すみません、音漏れしているみたいなんですけど……」
注意しても伝わらない虚しさ
しかし返事はない。少し強めに言っても気づく様子はなく、やがて女性の肘が中村さんに軽く触れた瞬間だけ、わざとらしく体を離したのだ。
「完全に起きてました。聞こえていないふりをしているんだと感じました」
注意を無視された虚しさが込み上げ、席を立つか、座ったまま耐えるかの二択。どちらを選ぶにしても気が重かったという。
そして、中村さんが降車のために立ち上がったとき、若い男性がすぐに“その席”へ座った。すると、それまでの大音量はぴたりと止み、女性はイヤホンを外した。
「やっぱり、私への嫌がらせで“わざと”だったのかなと思いました。身に覚えがなかったので、気分が落ち込みましたね」
中村さんは次の駅で電車を降りながら、自分に言い聞かせた。
「明日は、違う車両にしよう」
モヤモヤは残ったが、気持ちを切り替えつつ改札へ向かったという。
電車では個人のマナーが大いに問われる。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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