高市早苗首相の「台湾有事」を想定した答弁に対し、中国政府が猛反発。日中関係が一触即発の状態に陥った。
その裏で、最も深刻な痛手を負っていたのは――日本で肥大化してきた中国系“闇ビジネス”だった。当事者たちが明かした危機と混乱とは。

日中衝突で中国系の不良たちが窮地に!

中国人訪日客の激減で白タクや闇民泊が危機。当事者が明かす危機...の画像はこちら >>
 高市首相の「台湾有事」に関連した発言以降、中国人訪日客の制限や日本人アーティストの中国公演が中止されるなど、日中関係の冷え込みが続く。

 観光業だけではなく、在日中国人が展開してきた“闇ビジネス”も大幅なあおりを受けている。

 中国残留孤児3世で、「チャイニーズドラゴン」の関係者A氏は、長年、在日中国人向けに違法な白タク事業を展開してきた。

「盗難車? そんなパッキー(パキスタン人)みたいなことしねえよ。バリバリの新車。一応全部合法だよ。そんなことより商売が……」

「信用スコア」への影響を警戒して渡日を自粛

中国人訪日客の激減で白タクや闇民泊が危機。当事者が明かす危機と混乱「このままだと、すべて手放すしかない」
「売り上げは“高市発言”前の3分の2まで減った」A氏は現在、他の闇ビジネスを模索中だという。内容は「秘密」
 A氏は高級仕様に改装したアルファードを三十数台保有し、運転手に一日2万~2万5000円で貸し出していた。

 運転手は料金設定を自由に決められるシステムで、成田空港から六本木のホテルまで通常3万円のところを2万円や1万5000円に値引きしたり、逆に「一週間貸し切りで30万円」などと営業することで、レンタル料や経費を差し引いても大きく稼ぐことができていた。

 A氏らの組織にも、毎日60万円以上が安定的に入っていたという。

 しかし「台湾有事」発言後、状況は急変する。人民の行動履歴を管理する「信用スコア」の存在もあり、中国人の間に「こんな時期に日本観光して政府にマークされるのは危険」という同調圧力が広がった。

 特に痛手だったのは、中国共産党の地方幹部クラスの客の激減だ。
彼らは日本で大金を使い、領収書を受け取ることで経費として処理していたが、こうした「優良客」が一気に減少。

「売り上げは高市発言前の3分の2まで落ちた。彼らが来なくなったら終わりだ」(A氏)

富裕層向け「裏ツアー」も売り上げが激減

中国人訪日客の激減で白タクや闇民泊が危機。当事者が明かす危機と混乱「このままだと、すべて手放すしかない」
「東京のバス会社譲ります」。どれも「緑ナンバー取得済み」とある。売却額は460万元(約1億円)というものも
 白タク運転手の一人、B氏(40代・ハルビン出身・永住権あり)は窮状を語る。

「私は口下手でうまく営業できない。だから飛行場からホテルまで運んだら終わりが多い。そうすると2万円のレンタル料、ガソリン代とか払ったら赤字になることも多い」

 客の紹介も減り、白タクの仕事がない時はウーバーイーツやアマゾンの配送で食いつないでいる。

 また、中国のSNSでは在日中国系のハイヤーや観光バス会社による「会社売ります」という広告が増えている。昨今の情勢と関係しているのだろう。

 より深刻なダメージを受けているのが、ラウンジ、売春、カジノ、民泊、薬物を組み合わせた「裏ツアー」事業だ。

 前述のとおり中国国内では訪日が制限され、党幹部への詳細な事前報告が求められるようになった。その結果、これらの売り上げも白タク同様、高市政権発足前の3分の2にまで落ち込んでいるという。

乱行パーティーまでシームレスに“ご案内”

 そもそもこの裏ツアーとは、どのような仕組みだったのか。関係者のC氏(40代・延辺出身)は語る。

「場所は届け出なしで運営する高級マンションの一室を改装したラウンジ。
ホステスは日本人か欧米系外国人のみで、基本料金は座るだけで30万円。シャンパンや指名料を加えれば、一晩で100万円は当たり前だった」

 気に入った女性がいればマンションの別室で売春も可能で、素人で10万~20万円、AV女優なら30万~100万円。さらにカネを積めば、乱交パーティや薬物も提供されていたという。

 数年前には、中国東北部のある省の党幹部が来日した際、13人の女性と覚醒剤、コカイン、MDMA、ケタミンを用意し、夕方5時から翌日深夜まで遊ばせて700万円を現金で受け取るという“景気のいい時期”もあったとか。

一晩で都内のマンションが溶けることも

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裏ラウンジで人気なのは日本人嬢。「日本女性とヤるのがステータス」(C氏)
 バカラやポーカー、麻雀が楽しめる賭博場も用意され、客が勝てば仮想通貨や現金で支払い、負けた場合は“所有するマンション”を差し出させるケースもあったという。

「5000万円近く負けた富裕層に東京のマンションで払うと言われ、そのままいただいちゃったこともあるね(笑)」(C氏)

 こうした荒唐無稽な裏ツアーがなぜ成立したのだろうか。背景には、習近平政権が’12年に導入した「中央八項規定」による贅沢禁止と腐敗摘発がある。

 中国本土で要人の遊び場が一掃され、欲望の逃げ場として日本が選ばれたのだ。そして「お遊びしたいなら、日本へ来ればよい」というキャンペーンが水面下で展開されたのだった。

 しかしそんな景気の良さも今や激変。すっかりヒマになってしまったという。

「インチキ日本料理」で一旗揚げたが…

 首都圏を中心に5店舗の和風居酒屋チェーンを展開するD氏(50代・上海出身)も、利益半減に直面している。

「コロナ禍で倒産寸前だったが、インバウンドが戻ると中国系団体客のおかげで急激に売り上げが伸びた。
でもそれが最近、突然消えてしまった」

 1994年に来日し、永住権も持つD氏は、昼の時間帯に在日中国人系の旅行会社と組んで、毎日20~40人の中国人団体客に「インチキ日本料理」を提供して一人5000~1万円を取っていた。

「超安い原価で作った天ぷらやたこ焼き」で高利益を上げ、東京都豊島区にローンで9000万円の中古マンションを購入し、車もプリウスからベンツに乗り換えたが、昨今の情勢によりピンチに。

 昼間の売り上げ一日平均15万~30万円が消失したためマンション月35万円、ベンツ月10万円のローンの支払いができなくなる見込みだ。

「このままだと、すべて手放すしかない。勘弁してほしいよ……」(D氏)

 思わぬ形で「浄化」されつつある中国人闇ビジネス。しかし、水はせき止めても行き場を変えて流れ出す。新たな闇ビジネスを生み出すことになりかねず、注意深く見ていく必要があるだろう。

取材・文/根本直樹
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