『サラリーマン金太郎』『特命係長 只野仁』、また昨年より主演を引き継いだ『大岡越前』など、多くの人気シリーズ、人気作を誇る高橋克典さん(60歳)。スター街道を走り続けている印象だが、当初は「お前は太ったら価値がない」と言われるなど、仕事の中身を相談できる相手もおらず葛藤した時期もあったとか。

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 そんな高橋さんが、「自分の中でこうなりたいというイメージを持っていれば、ちゃんと目的地にたどり着けるはずだ」と語った信念とは——。

 闘病の末、2023年に28歳の若さで死去した、元阪神タイガースの横田慎太郎さんの生涯にフォーカスした映画『栄光のバックホーム』(絶賛公開中)に出演している高橋さんに話を聞いた。

実在の人を演じる難しさ

——『栄光のバックホーム』に出演するにあたって、特に惹かれた点を教えてください。

高橋克典(以下、高橋):
横田慎太郎選手のことは知っていましたし、一生懸命に生きている彼の姿は印象に残っていました。2023年の阪神優勝の瞬間もテレビで見ていたので、胴上げの際に横田選手の24番のユニフォームが一緒に胴上げされたことも知っていました。彼を題材にした映画を、昔からご縁のある秋山純監督が作るとあって、出演させていただくに至りました。

——横田選手の父・横田真之さんを演じました。真之さんも元プロ野球選手ですが、実在の方を演じるにあたって、大切にされたことはありましたか?

高橋:
最初はもう少し設定を変えるという話もありましたし、監督からご本人のキャラは気にしなくていいと言われていました。でも最終的な台本は完全に横田選手の話になっていたんです。そこでクランクイン前に家族写真を見せていただいたり、YouTubeなどを見て真之さんに少し寄せるようにしました。

この映画での父を演じるにあたっては、野球人生の光も影も知り、自分の子どもが命に係わる病に侵されて、共に戦わなければならないところを、目を背けたいところがあったり、常に混沌とし続けている人間らしさを持った人物と捉えて演じていきました。

高校生の息子との接し方

——高橋さんご自身も高校生の息子さんがいる父親です。向き合う際に気を付けていることはありますか?

高橋:
自分がここまでやってきたやり方を、どうしても出しがちなんですよね。いいことも悪いことも、自分の経験を伝えれば、それを聞いたうえで彼は始められるわけだし。
そう思ってあれこれ言ったりもしたんですが、彼は彼でゼロから自分自身で経験したいようで。なので最近は、できるだけ家で自分の主張は押し付けないようにしています。

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高橋克典さん
——多くのお父さんもそうだと思いますが、高橋さんにも、どっしりと見守るというより、つい口を出してしまう時期もあったんですね。

高橋:
どうしてもそうなりますね。子どもの時間は人生の準備期間だけど、我々大人は勝負の毎日を過ごしている。だから良かれと思って、そのやり方だったり、自分ではできなかったことも伝えたくなってしまうんだけど、どうにか我慢して控えるようにしています。

「手探りで見つけていく」若手時代の苦悩

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(C) 2025「栄光のバックホーム」製作委員会
——高橋さんは1993年に歌手デビューからキャリアをスタートしました。その後、俳優として多くの代表作を生み出しながら、一線を走られています。当初に感じた苦労には、どんなものがありましたか?

高橋:
僕はそもそも俳優になろうと思っていない中、芝居もそれぞれの仕事でどう居たら良いか誰も教えてくれる人もなく、いきなり現場に放り出されました。そういう意味では大変でした。すべてに関して手探りで見つけていくしかありませんでしたから。

——歌は、高橋さんの希望だったのでしょうか。

高橋:
歌についてはね、もともと家族が音楽をやっていたので(父が作曲家・指揮者、母が声楽家)、そこに進むのは自然なことでした。
ただ、自分の周りには、中身に関して相談できる人がほぼいなくて、混沌とした渦の中で全方位的に必死に日々を送っていました(笑)。

——そのなかでいつの間にか俳優業も始まった感じでしょうか。

高橋:
そうですね。教えてくれる人も、相談相手もいませんでした。当時の音楽のスタッフは自分がやりたいことを僕に当てはめて形にしようとしている感じで、チームとは言い切れませんでしたね。あるマネージャーには「お前は太ったら価値がない」とも言われましたし、中身のことを相談できる人がいない中でやっていました。

少しでも多くの打席に立って「本物になりたい」

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高橋克典さん
——ビジュアルだけで求められるのは、辛かったですか?

高橋:
それはひとつのアイテムですよね。はじめはそれだけでもいい。でもビジュアルは変わっていくものですから、中身を育てていかないと。ひとりで「これは大変だぞ」と思っていましたが、どういった道を通ったとしても、自分の中でこうなりたいというイメージを明確に持っていれば、ちゃんと目的地にたどり着けるはずだと思っていました。

——そのイメージとは。

高橋:
「本物になりたい」と思っていました。芝居というのは奥が深くて、“いい芝居”とは何かといってもわからない、何が本物かもわからなかったのに。
今思えば、その役として生き切るという基本的なことだと思うのですが。でも「本物になりたい」という気持ちは持ち続けようと思っていました。

——そのなかには、「売れる」ということも含まれますか? お芝居もやはり人に見てもらわないと。

高橋:
そうですね。まずは、少しでも多くの打席に立ちたいと思いました。僕の場合、子どもの頃に同居していた家族が保証人になって、一夜にしてお金がなくなって路頭に迷った経験もあります。仕事をして稼ぎたいというのは、リベンジ的な気持ちとしても、子どもの頃からどこかにありました。

落ち込んだときこそ「自分が自分のコーチになれる」

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(C) 2025「栄光のバックホーム」製作委員会
——成功した今も、「本物になる」という気持ちがモチベーションになっているのでしょうか。

高橋:
本物になりたい気持ちというか、そこへ向けて研究していくのが好きなんだと思います。研究して試して、失敗したり、壁にぶち当たっていくことが。

——失敗したり、壁にぶち当たることが好き?

高橋:
自分のことを見ていてくれるコーチって、スポーツの世界だとしても、将来すごく有望だったり、トップの選手だったりしないといないですよね。そんな環境って、普通はないわけです。今でこそ、日本にもアクティングコーチが開かれた状態でいてくれるけども。


——そうですね。

高橋:
自分自身に対して、自分がコーチのように何かに気づける瞬間って、落ち込んだり自分の中に違和感やモヤモヤを感じたときだと思います。そういった瞬間を今もすごく大事にしています。若いときは「ダメだ」と、ただ落ち込むこともありましたが、それでも数日経つと「じゃあ、どうすればいいんだろう」となる。傷が治ってきたらポジティブになっていく。それが自分のコーチになります。

——「落ち込んだときこそ自分が自分のコーチになれる」ですか。なるほど。監督さんにすごいダメ出しをされて、落ち込んだりといったこともありましたか?

高橋:
いや、まず監督にダメ出ししてもらうまでの環境にいくのに時間がかかりましたから。叱ってもらえることは大きな一歩。僕の場合は良いも悪いもないタイプだったので、勝手に自分で良いと信じ込んでやり続けるしかありませんでした。

緒形拳に「弟子にしてほしい」とお願いした結果

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(C) 2025「栄光のバックホーム」製作委員会
——先輩からもらった言葉で、よく覚えていることはありますか?

高橋:
緒形拳さんに「弟子にしてほしい」とお願いしたことがあるんです。そしたら「俺とお前は友達だからいいんだよ。
師匠と弟子になると関係が変わっちゃうからな」と言われて体よく断られました(笑)。

——緒形拳さんとは、『ポケベルが鳴らなくて』(1993)の共演の際に、本番に本気で平手打ちされたというエピソードが残っていますね。そのあとからお友達に?

高橋:
そうですね。そこから仲良くしていただきました。大好きでした。あの方から感じる幅の広さ、懐の深さというか、芸能界という世界に縛られていない意識に憧れましたね。

自分のアウトラインを外側から埋めてしまわないで

——現在は、高橋さんが先輩の立場になっています。最後に、いま停滞していると感じている、人生の後輩である読者たちに、なにかアドバイスをもらえませんか。

高橋:
こちらの読者の方はおそらくサラリーマンの方が多いですよね。そうなると僕に言えることはないんじゃないかと思いますが……。僕は組織に入ったことがないので、あくまでも個人主義でいられますから。自分のモチベーション次第で自分を持っていける。
だから組織のなかで頑張っている人にかける言葉となると難しいです。

言えるとするなら、その業界や働き方が“自分に合うか合わないか”というのは、みなさんそれぞれにあると思います。よく聞く言葉ですけど、もしも停滞していて、そこから抜け出したいなら「自分を活かせる環境を探したほうがいい」とは思いますね。ひとつの決まった場所にいる必要はない。

――外に出ていくのもなかなか勇気が要りますが。

高橋:
自分のアウトラインを外側から埋めてしまうと、自分の脱ぎ方がわからなくなると思います。自分というものが形作られちゃって、逆に縛られてしまう。そうすると何もできないと思い込んでしまう。そこからいかに抜け出して、環境を破り、肯定していくかが大事なんじゃないでしょうか。

決して大きなことじゃなくていいんですよ。仕事に限らず、普段とは違うものを食べてみたり、違うものを着てみたり、違う人と会ってみたり。そこから何か生まれるかもしれない。何をやっても変わらないなら、それが自分だし。

僕の時代はいかに良い生活、サクセスストーリーを手にするかが大事という考えがあったけれど、いまはどんな生き方をしたいかで仕事を選ぶ時代な気がします。ハードなところへいって切磋琢磨してしんどい思いをするのが好きか、これが十分と思える生き方があるなら、それでいいとも思います。とにかく他人と比較する必要はありません。

——良いお話をありがとうございました。

<取材・文・撮影/望月ふみ>

【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi
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