「ほんまに怖いもん見たかったら、ホテルや旅館やなくて、車中泊やで」
そんなことを口にしたのは、関西を拠点に活動するちょっと変わった先輩ライターだった。オカルトに強いわけでも、スピリチュアルに傾倒してるわけでもないのに、不思議と“ヤバい場所”の噂に詳しい人で、何かと気にかけてくれる存在でもある。


※本記事は、『大阪 不気味な宿』(青志社)の内容を適宜抜粋・編集したものです。

女性記者が「夜な夜な活動する謎の集団がいる場所」で車中泊した...の画像はこちら >>

とある道の駅に、謎の集団が?

いわく、「ホテルとか旅館って、ある程度、人の手が入ってるやん。清掃とか、防犯とか。せやけど、車中泊はちがう。ドア一枚、ガラス一枚の隔たりしかない。そらもう異界と地続きみたいなもんやで」と。

なるほどたしかに。ちょっとしたレジャー感覚で道の駅で1泊なんて言う人もいるけれど、それって本当に安全なのか? 誰にも守られない空間に一人で泊まるって、考えてみればちょっとしたホラーだ。そんな話を聞いてしまったら、実際に体験してみたくなるのが人情というもの──。

今回は、大阪南部、某市の山の手にあるとある道の駅で、真夏の車中泊を決行することにした。しかも、その場所には「夜な夜な活動する謎の集団がいるらしい」と、先輩ライターから耳打ちされている。もちろん、そんな話を真に受けてはいない。いないけど、ちょっとだけ期待してる自分もいる。


有名な「幽霊トイレ」に立ち寄ってみる

このエリアは、海側が商店街を中心に栄えていて、どこか昭和の匂いを残す風景が広がっている。真夏の昼下がり、立ち寄った商店街では、原付バイクに三人乗りして爆走する男子学生(多分高校生)がいて、それを見ても誰一人驚かない。ゆるいというか、懐が深いというか。大阪らしさを感じさせる空気がそこにはあった。

けれど、そこから車で30分ほど山を登っていくと、がらりと雰囲気が変わる。急に民家が減り、ぽつんぽつんと企業の物流倉庫や工場が立ち並び、その合間に現れるのが目的地の道の駅だ。すぐ近くには交通量の多い幹線道路も走っているが、夜になると車もまばらになる。

私が選んだのは、その道の駅にある駐車場のひとつ。幹線道路に面しており、いざとなればすぐ逃げ出せそうな場所を確保した。まだ太陽が高いうちに場所取りをしておくあたり、自分でも用意周到すぎるとは思う。

でも、ちょっとでも「何かあったらどうしよう」と思ってる自分がいるのは事実だ。道の駅で待機する前に、もうひとつ気になる場所に寄っておきたかった。それが、近くの緑地公園にある、通称「幽霊トイレ」。
地元の中高生のあいだでは有名な肝試しスポットで、かつては「絶対に何かに出会える」とまで言われていたとか。心霊写真が撮れた、トイレの壁に人影が浮かんだ、真夜中に子どもの声が聞こえたなど、噂は尽きない。

実際に現地に行ってみると、トイレはしっかり封鎖されていた。入り口は板で打ち付けられており、中には入れない。外観は意外にもカラフルで、女性用・男性用の建屋に分かれているのだが、そのポップさが逆に怖い。ライトをつけたスマホをかざし、板の隙間から動画を撮ってみる。

なにかが映ったらどうしよう……と、内心ビクビクしながら再生すると、そこに写っていたのは、真っ黒なカビとヒビ割れた壁だけ。ほっとしたのも束の間、なぜか動画が二本、保存されていることに気づいた。

絶対に録画ボタンを押したのは一度きり。それなのに、ほぼ同じタイミングで始まる、真っ暗な動画が二本……。スマホの誤作動か、それとも、トイレの中からオバケが押したのか? そう思ってしまうほどホラーな場所であることは確かだった。

謎の集団「こたつ会」の噂

さて、問題の集団である。

先輩ライターいわく、もともとは天王寺のほうで活動していた「タンス会」という謎の男性グループがルーツなんだとか。
独身男性だけで構成され、同じ趣味(それも女性には理解されにくい)を持つ仲間たちが、ちょっとした悪ノリで結成したのが始まりらしい。その中の一部の過激派が暴走し、「痴漢行為」に特化した一派となり、「こたつ会」と名乗るようになったという。

活動内容は、電車での集団痴漢や、24時間プールでの“接触”など。取り締まりが厳しくなるにつれて活動場所を転々とし、いまではこの道の駅周辺で夜な夜な出没し、女性に対する露出行為や集団での追い回しなどを行っている……という話だが、もちろん都市伝説のように語られているだけで、真偽は不明だ。

午前2時、静寂を破るノック

車の後部座席をフラットにし、一人晩酌を始める。唐揚げとコンビニサラダ、缶ビール。途中からハイボールに切り替え、外の空気を浴びながら過ごす。

時間はゆっくり流れていた──まではよかった。深夜2時頃。一台の車が駐車場に入ってきた。グレーと白のツートンカラーのシエンタ。広い駐車場なのに、一列を空けてなぜか私の車の目の前にピタリと停車する。しかも、向かい合わせになるような角度。


運転席には20代か30代くらいの男性二人。その時点でちょっと不気味だったのだが、次の瞬間、さらにぞっとすることが起きた。助手席側の窓を「コンコン……」とノックする音。驚いて振り向くと、すぐそこに、学生風の若い男性二人が立っていた。

あの人たちの仲間か? 一瞬そうも考えたけど、なんか本当に困ったような表情をしている。ただ、まったく足音に気づかなかったのが不気味すぎる。

「どうかしました?」と少しだけ窓を開けて話しかけると、彼らはこう言った。

「すみません、宿を予約してるんですけど、場所がわからなくて……このあたりの人かなと思って」

こんなに深夜になぜ?

いかにも困った人を装っているけれど……。いやいや、地元の人が道の駅で車中泊なんて、しないでしょ。しかも、その宿って、車で2分の距離。スマホがあれば一発で行けるはずだ。

怪しい。でも、怖いから強く言えない。
私は丁寧に道順を説明し、彼らは軽く会釈して立ち去っていった。ふう……と息をついたそのとき、ふとシエンタを見ると──後部座席にも三~四人が乗っていて、何かを食べている様子が見えた。合計で五人以上。何の目的で、こんな深夜に……?

それを見た瞬間、私は即座にエンジンをかけ、車を発進させた。帰り道、冷や汗が背中をつたう。帰宅しても胸のざわつきは収まらなかった。あの夜の光景が頭から離れない。

数日後、私はSNSや匿名掲示板で「車中泊」「露出」「痴漢」といったワードを組み合わせて検索し、片っ端からメッセージを送った。ほとんどは無視されたが、一人だけ「こたつ会らしき集団を知っている」という人物から返事が来た。

胡散臭い空気が漂う喫茶店に現れたのは…

その人は大阪で“とある性的趣向”に特化したコンテンツをつくる仕事〟をしているという。DMの最後にこう釘を刺された。

「話はするけど、具体的な説明は避けてや」

待ち合わせは地下鉄・日本橋駅近くの喫茶店。まわりのテーブルでは、投資話やマルチ商法の勧誘めいた会話が飛び交っていて、どこか胡散臭い空気が漂っていた。


待ち合わせ時間ぴったりに現れた男は、肩まで伸びた長髪に黒光りした肌、ギラついた目をしていた。クリエイター風というより、裏稼業に近い匂いをまとっている。

「こたつ会やと思うけど、そいつらはアダルトビデオのメーカーやってん。ぼくらの世界では別の名前で活動しとったよ。知ってる人は知ってるチームで、露出系の作品を作って、一時は手広くやってた連中や。まぁ、有名っちゃ有名やわ」

こたつ会は、とある植物の名前を付けた会社で、露出モノを専門に扱うアダルト作品のメーカーだったという。数年ほど前に廃業したらしく、現在はメーカーの販売サイトも閉鎖されている。

そう言いながら彼はスマホを取り出し、中古DVDを扱う販売サイトを見せてきた。そこには、公共の場所で露出するDVDのカバーがずらりと並んでいる。どれもこれも、今の時代ではすぐ逮捕されそうな過激な内容ばかりだ。

まさに都市伝説のような集団だった

「こんなことしとったんや」

と、発売時期が最も新しい作品のサンプル動画を再生した瞬間、私は息をのんだ。女性以外、出演者である男性の顔はすべてモザイクで隠されている(素人の参加者だから?)。

だが、その中に肩までだらし無く伸ばした“今どき流行らない長髪”の男が映っていたのだ。──あの夜、窓をノックしてきた二人組の片方と同じだ。

顔の輪郭は潰されている。それでも、肩にかかる髪の長さや薄い茶髪が記憶の像とぴたりと重なってしまう。偶然かもしれない。しかし、胸に走った確信は消せなかった。

都市伝説だと笑い飛ばしていた〈こたつ会〉だったが、それは確かに存在しているのかもしれないし、しないのかもしれない。ただ一つ言えるのは、まさに都市伝説のような集団だ、ということだ。

<取材・文/茜あやめ>
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