有料会員数は3億人を突破し、テレビや映画を押しのけて、もはや映像業界で最大のインフラと化しているネットフリックス。そのなかで日本作品が世界で注目される流れをつくったドラマといえば『全裸監督』だろう。
芸術的才能はないけれど、どうにかそういう仕事がしたい、そこで辿り着いた“理論の世界”。「シナリオは国語ではなく算数だ」と語る理系クリエイターとともに、面白さの根源に迫る。
不安の中で武器にした理系的な方法論
「小さい頃から算数は100点だけど、国語とか美術は30点みたいな偏りがある人間でした。絵も下手。芸術的な才能はないんだけど、それでも表現することには憧れがあって。文系に憧れる理系という感じでしたね」その言葉通りか、新卒で入ったインターネット系の会社からテレビドラマの制作会社に転職することになる。28歳にして、一番下のADからの出発だった。果たしてやっていけるかという不安の中で武器にしたのが理系的な方法論だったという。
「スタートが遅かったので、周りとの差を知識やロジックで埋めようと、自分なりにハリウッドの脚本術や演出について書かれた本を読み漁ったんです。もちろん、最初は生半可な知識は通用しなくて、“考えるより動け”って感じなんですけど、現場で揉まれているうちに、それぞれの領域でノウハウやメソッドはあるなと気づいていきました。
実際、プロフェッショナルな人ほど言語化して自分なりの体系化があるんですよね。そのことに励まされて自分なりのシナリオメソッドを追求するようになりました。
人は全く違う「面白い」を欲しがっている
そもそも「面白い」という言葉は、使う人によって意味が全く違う。日本語の「面白い」には「笑える」「興味深い」「刺激的」など、さまざまなニュアンスが含まれているからだ。たちばな氏が制作現場で困ったのも、まさにこの点だった。「会議で『これ面白いよね』って言っても、人によって全然違うものを指しているんです。ある人はハラハラドキドキする興奮を、別の人は考えさせられる深みを、また別の人は笑えることを求めている。みんな『面白い』という同じ言葉を使っているのに、実は全く違うものを欲しがっているんですよね」
そうした「面白さ」が持つさまざまなニュアンスを紐解いていくと、それぞれの人が求める「欲求」の段階との密接な繋がりに気づいたのだという。
人は何を満たされたときに面白いと感じるのか
だからこそ、感覚のままにせず、「人は何を満たされたときに面白いと感じるのか」を一度、構造として整理する必要があったとたちばな氏は語る。
「面白いの意味は、コンテンツを受け取った人がどんな欲求を満たしたいかによって、大きく変わるんです。だから私は『面白い』を“欲求の満たされ方”として捉え直し、社会学で有名なマズローの欲求5段階説を下敷きにして、7段階に分けてみました」
日本人は本来、感動の“深掘り”が得意
マズローの欲求5段階説は人の欲求は「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5つに分かれ、基礎的な欲求が満たされるとより深い欲求を望むようになるという心理学論。
「本来、日本人はこういう“深掘り”が得意で、この流れは『推し活』に当てはめると、わかりやすいと思います。
さらには二次創作のような『創造』をしたり『承認』を求めたりと徐々に『自立』していき、最後には推しに依存せず自立しながらも、より深く繋がる『共鳴』に至るようなイメージです。エンタメに限らず、この7段階に沿って一つ一つが点で終わらず連続して受け皿を作れたものが成功していると考えています」
強い刺激と深い感動を両立した『8番出口』
また、たちばな氏は、近年エンタメがより刺激重視になり、ショートコンテンツ化が作品として「成功する難しさ」に拍車をかけていると注目する。
マズローの欲求5段階説でも、生理的欲求や、安全欲求は誰もがベースとする欲求です。自己実現の領域になると、人によって価値観が違うので、興味あるものとそうじゃないものに別れますが、生死をかけたサバイバルは、根本的な欲求だから、みんな目が離せないんです。つまり普遍性や共感性が高い。だからハリウッド映画の多くが、主人公が死の危機を乗り越えられるかどうかを物語にします」
“刺激の時代”におけるコンテンツの選び方
しかし、『8番出口』の成功は、興奮で終わらなかった点にある、とたちばな氏は補足する。「地下通路をループするというのが日常の比喩であり、異変に気づかないと抜け出せないという、我々の生きる世界にも重なるところがあります。
こうした“刺激の時代”を受け手側から見た際に、この7段階理論はコンテンツを選ぶ目線に生かせないのだろうか?
「人間、やっぱり興奮を求めちゃうんですよね。人は悪魔的なものを好むというか、高尚なものより速効性のある刺激を求めるのは当然だと思います。ただ、自分の人生を変えたもの、本当にハマったモノを思い返すと、単なる興奮で終わっていないはず。刺激的な快楽に始まり、次第に自分の欲求が深くなっていったことが分かれば、より自分が求めているものに出会える確率が高くなると思います」
面白いは外と内の変化を同時に捉える言葉
「面白いの語源は、面(目の前の景色)が白い、つまり一面に雪景色が広がったときのように、視界がぱっと開け、世界が明るく感じられる状態を表した言葉だと言われています。それが転じて、『心が明るくなる』『はっと何かに気づかされる』といった意味でも使われるようになった。
私が興味深いと思うのは、面白いという言葉が、もともと外の世界の変化と、内側の感覚の変化を同時に捉える言葉だったという点です。それは肉体的な感覚と精神的な感覚を統合した言葉でもあり、この感覚は日本人的で、興奮と感動を結ぶ糸口にもなると考えています」
ぜひ自分が感じる「面白さ」の解像度を上げてほしい。そうすれば人生はもっと豊かになる――そう語るたちばな氏だが、「とはいえ、私も深夜にTikTokで2時間溶かして毎日、後悔してます」と笑った。
【たちばな やすひと氏】
1975年、愛知県出身。
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