先週末に行われたチャンピオンズCは、3番人気のダブルハートボンドがウィルソンテソーロの猛追をしのいで勝利。2025年のJRA平地G1も、3つの2歳戦と、グランプリ有馬記念を残すのみとなった。

 年の瀬の12月に追い込みをかけたい騎手の一人が、ダブルハートボンドをG1初勝利に導いた坂井瑠星騎手である。坂井騎手は2月のサウジCと11月のブリーダーズCクラシックを勝利していたが、JRAでのG1勝利はレモンポップとのコンビで制した昨年のチャンピオンズC以来だった。

坂井瑠星騎手が迎える“勝負の1か月”

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 ちょうど1年ぶりにJRAでのG1勝ちを決めた坂井騎手だが、最終月に大きな花火を打ち上げて1年を締めくくろうとしている。今週末の阪神JFから28日の有馬記念まで、4つのG1レースに騎乗を予定しているが、いずれも有力視されている馬に跨ることが決まっている。

 手始めは14日の阪神JFに臨むアルバンヌだ。未勝利戦→サフラン賞(2歳1勝クラス)を2連勝中のアドマイヤマーズ産駒は、今回が坂井騎手との初コンビ。前走後に鞍上を務めたC.ルメール騎手が「能力があります。今日が3戦目で、自分の仕事を分かっていた」とコメントしていたように、そのポテンシャルは高い。関東馬だが、今回の舞台となる阪神芝1600mを経験している点も強みとなるだろう。

 そして来週末21日の朝日杯FSは、リアルスティール産駒のアドマイヤクワッズとのコンビで参戦予定。こちらはデビューから坂井騎手が手綱を取り、新馬→デイリー杯2歳Sと無傷の2連勝中だ。坂井騎手自身が「2戦とも良い内容で、上の舞台でもやれる力がある」とその実力に太鼓判を押しており、楽しみは膨らむ。

 下馬評ではアルバンヌ、アドマイヤクワッズともに上位人気が確実で、坂井騎手はチャンピオンズCからG1・3連勝を飾っても何ら不思議ではないだろう。


 さらに27日に行われるホープフルSにも実力馬とのコンビが決まっている。それがコントレイル産駒のバドリナート。8月の初戦はクビ差の2着に惜敗したが、坂井騎手に乗り替わってから未勝利→萩Sを2連勝中だ。前走後には「言うことのない内容だった」と坂井騎手自身も及第点を与えており、2歳王者の座に駆け上がる資格は持っている。

「月間5勝」するチャンスあり!

 そして1年を締めくくる有馬記念には、自身が所属する矢作芳人厩舎のシンエンペラーと臨むことが決まっている。同馬はこれまで重賞を2勝しており、G1で4度も馬券圏内に入っている実力派。8着に敗れた前走のジャパンCを含めて近3走はいずれも掲示板を外しているが、海外遠征帰りを一度使われた上積みに期待できそうだ。

 昨年のジャパンCでドウデュースと差のない2着(同着)に入った実力は疑いようがないだけに、思わぬ大駆けがあっても驚かない。

 つまり坂井騎手には、この1か月間でG1勝利を4つ上積みし、最大5勝するチャンスがあるというわけだ。武豊騎手でさえ、これまでの月間G1最多勝利は「2」まで。坂井騎手はあと2勝でレジェンド超えを果たすことになる。

女性ファンを虜にする“甘いマスク”も話題

 そんな坂井騎手は、騎手としての“腕”以外でも注目度が上昇中だ。もともとその甘いマスクは多くの女性ファンを虜にしており、先日のチャンピオンズCを勝利した際も場内には黄色い声援が飛び交っていた。

 10日に発売されたマガジンハウス発行の女性誌『anan』のバックカバーにも抜擢され、その知名度はまさにうなぎ上り。
また“顔”だけでなく、騎手としては高身長の部類に入る170cm、48kgという“スタイル”の良さも人気の秘訣だ。

「ポスト武豊」の最有力候補か

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坂井瑠星騎手
 まさに“三拍子”そろった坂井騎手に対しては、競馬ファンから「ポスト武豊」に推す声も聞こえてくる。

 武騎手といえば、1987年の騎手デビュー以来、長きにわたりJRAの顔として君臨してきた。JRAでの通算勝利数は4600を超え、G1・84勝、重賞366勝はもちろん歴代最多だ。しかし、武騎手もすでに56歳を迎え、引退の二文字がちらつく年齢に差し掛かっている。

 これまで「ポスト武豊」候補は何人かが現れては消えていったが、現時点でその座に最も近いのが坂井騎手だろう。ジョッキーとしての成長ぶりを見せつけるには、今月のG1で大爆発することがその足掛かりになる可能性も十分ある。

レジェンド武豊騎手との“決定的な違い”

 ただし、坂井騎手がどれだけ好成績を残したとしても、武騎手に対抗できないこともある。それがトーク力だ。

 早くから国内No.1ジョッキーに定着した武騎手は、腕、顔、スタイルに加えてユーモアのセンスも抜群。長年勝てなかった朝日杯FSを僅差で逃した際には、勝利したM.デムーロ騎手に対して「空気の読めないイタリア人」と言い放ち、笑いを誘った。とにかくその話術は天才的なのだ。

 競馬を公営ギャンブルの域を超えて、“スポーツ”、そして“エンターテインメント”へと昇華させた背景には武騎手のトーク力も大きく寄与したのは間違いない。


 坂井騎手がポスト武豊を狙うためには“第4の能力”にも磨きをかける必要があるかもしれない。

文/中川大河

【中川大河】
競馬歴30年以上の競馬ライター。競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。競馬情報サイト「GJ」にて、過去に400本ほどの記事を執筆。
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