大阪出張のため品川から新幹線に乗った吉岡さん(仮名・42歳)は、隣に座った美人女性から「荷物を見てほしい」と頼まれた。生真面目に応じた吉岡さんだったが、予想外の長時間拘束により、車内で一度も身動きが取れないという思わぬ事態に巻き込まれてしまうーー。

朝の新幹線で隣に座った美女

 吉岡さんは、新幹線での出張は慣れたもので、座席は決まって進行方向右側の窓際。朝早く、大阪へ向かう列車に乗り込むと、駅弁を手にほっと一息ついたそうです。

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 ところが、発車間際に20代と思しき女性が駆け込んできて隣の席に座ったといいます。走ってきたからか少し髪の毛が乱れていましたが、落ち着いた雰囲気の美人で、吉岡さんは少し得した気分で駅弁を広げたとのことです。

「ほのかに漂う上品な香りに満足しながら、私は幕の内弁当を食べていました。彼女は、500mlのペットボトルで水分を補給しながら、しきりにスマホを見ていましたね」

 吉岡さんが食べ終わったころ、新幹線は三島駅を過ぎたあたりでした。吉岡さんは、お腹も満たされ少し眠気に襲われていたそうです。

「荷物を見てほしい」の一言

 食事が終わってしばらくした頃、女性が小声でこう頼んできたそうです。

「すみません、少し席を立つのでスーツケース見ていてもらえませんか?」

 吉岡さんは迷わず承諾し、残されたスーツケースを少しだけ自分の方へ移動させたといいます。

「彼女の表情はなぜか真剣な眼差しでした。私も断る理由などはなく、どうせトイレかデッキでの電話だろうからすぐ戻ってくると思っていました」と吉岡さん。

 女性は席を立ち、車両の端へ歩いていきました。吉岡さんは荷物を見張りながら、駅弁の余韻に浸っていました。しかし、それが長時間の拘束につながるとは予想していなかったそうです。


全然戻ってこない女性

 30分、45分……時間が経過しても女性は戻らず、吉岡さんは次第に焦りを感じたといいます。やがて尿意が襲ってきました。

「もう我慢の限界かもしれないと思いました。でも、荷物を置いて席を離れるわけにはいかない。『頼まれたからには責任を全うする』という気持ちが勝って、トイレに行けませんでした」と吉岡さん。

 車窓の景色を眺めながら、気を紛らわせようとしましたが、効果は一時的。米原駅を過ぎるころには、完全に耐久戦となっていたそうです。

「心の中で『もうすぐ京都だ、そこまで我慢しよう』と必死でした」と吉岡さんは苦笑いします。周囲の乗客は特に気づかなかったそうですが、本人にとっては車内での1時間が長く、まさに精神的にも肉体的にも戦いだったといいます。

長時間の離席理由が明らかに

 ようやく京都駅に近づいたころ、吉岡さんは耐えきれず立ち上がりました。すると、デッキで立ったまま電話している女性の姿を発見しました。

 その場で思わず彼女を凝視していた吉岡さん。女性は電話を切ると、申し訳なさそうに平謝り。

「すみません、本当にすみません!」

 席まで一緒に戻り話を聞くと、女性は東京在住で、大阪にいる彼氏と別れ話をしていたところだったそうです。
席を立ってすぐに彼氏から電話が入り、会話が長引いてしまったとのこと。

「電話の内容を聞いたわけではありませんが、かなり揉めていたみたいです。私も事情は理解しましたけど、正直かなり疲れました」と吉岡さん。

生真面目男性の悲劇と教訓

 吉岡さんは、概ね荷物を守る任務を果たしたものの、座席で過ごした時間の大半を拘束され、駅弁の余韻も消え、尿意との戦いで消耗してしまったそうです。

「仕事の出張とはいえ、まさかこんなに身動きが取れない時間を過ごすことになるとは……。ある意味、人生で一番辛い新幹線移動でした」と語ります。

 周囲の乗客も、女性が席を離れたことに気づいていたらしく、席に戻ってきた女性を白い目で見ていたそうです。吉岡さんの生真面目さが、思わぬ悲劇を招いた大阪出張でした。

新幹線で「席を立つので荷物を見てほしい」と言われ承諾した男性を襲った悲劇。1時間以上戻らなかった女性の“呆れた行動”
出張
「なんでもかんでも安易に引き受けたらいけませんね。恥ずかしながら、この年齢になってようやくわかってきました。今までは『善意』の気持ちで結構率先して人助けをしていたのですが、少し考え方が変わりました」

<TEXT/八木正規>

【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。
将来の夢はペットホテル経営
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