『M-1グランプリ』は言わずもがなだが、「おもしろ荘」も見逃せない。
さて、「おもしろ荘」で爪痕を残した芸人を数多く育てた人物が存在するのだ。『ボキャブラ天国』(フジテレビ系列)などで、ノンキーズとして活躍したお笑い芸人・ヤマザキモータースさん(以下、ヤマザキさん)である。
ブルゾンちえみが芸人になるきっかけに
ヤマザキさんは、2007年から約10年、ワタナベエンタテインメントでお笑い部門の講師を務めてきた。また、若手芸人から「お客さんが少なくて、盛り上がっていないお笑いライブが多い」という相談を受けて、「モータースライブ」というお笑いライブも主催。
同氏の講義を受けたり、ライブに参加した面々には、「おもしろ荘」で注目を浴びる存在となった芸人は多い。具体名を挙げると、ブルゾンちえみ、宮下草薙、ちゃんぴおんず、リンダカラー∞、パーティーちゃんなど、枚挙にいとまがない。
「少し前に『ゴッドタン』(テレビ東京系列)で、劇団ひとりくんやママタルトが、『おもしろ荘を掌握しているのは僕だ』みたいなことを言っていました。ですが、おもしろ荘に照準を合わせて教えていたわけではないんですよ」(ヤマザキモータース、以下同じ)
とはいえ、「おもしろ荘」をきっかけに一大ブームを巻き起こした、ブルゾンちえみが芸人として歩み出すターニングポイントに、ヤマザキさんは関わっていた。
「彼女は、お笑いではなくタレントコースに入ってきたんですよ。マルチタレントを目指す人が通うようなところですね。そこで、『どんな番組に出たいの?』と聞くと、『アメトーーク』の名前が上がるんですよ。
一世風靡した”あのネタ”の誕生前夜は…
芸人を目指す決心をしたブルゾンちえみがライブに出始めるにあたり、ネタ見せや反省会を共にしたというヤマザキさん。彼女は、当時から原石としての秘めたる輝きを持っていたのだろうか。「最初はそうでもなかった記憶があります。当初は、友達とコンビを組んで不謹慎な葬式コントをやっていて……。正直『いけるな』という感じはありませんでしたね(笑)」
それでも、ライブの際には雑用も進んでこなし、同世代の中でリーダーシップをとる積極性はあったという。やがて、“例のネタ”に通じる光明が差してきた。
「『35億』が誕生する数ヶ月前に、アパレル業界の女社長が高飛車な訓示を言うネタを持ってきました。いわば、35億の原型みたいなもので、いいネタだねと話していたんです。気づけば、あれよあれよという間に『おもしろ荘』で脚光を浴びることに」
「ライブのエンディングに強い芸人」が売れる
ほかにも、今や売れっ子となった芸人たちが地下にいた時代から目をかけてきたヤマザキさん。「いつか売れるな」と感じた芸人はいたのだろうか。「人気は全然なかったんですけど、宮下草薙。僕のライブはエントリー料がない代わりに、お客さんを1人以上呼ぶことをルールにしていました。でも、彼らはまったく人気がなかったので、宮下のお母さんがよく来ていたくらい(笑)。
ヤマザキさんが注目していた「ブレイク前の宮下草薙」。ネタもさることながら、いわゆる“平場”での強さを感じたのだという。
「特に草薙は、今と変わらず前に出るようなタイプじゃないんですが、ライブのエンディングで十数組が舞台に上がっても、なぜか彼らを中心にして話題が回るんですよ。別の芸人が、イジって盛り上がる現場は何度も見ましたね。隅に置いておけない個性を持っていたのだと思います」
宮下草薙のように、ライブでのエンディングに強い芸人がその後活躍する傾向にあるらしい。
「ちゃんぴおんずの大崎は優秀でした。舞台上にいるほかの芸人は、先輩だったり後輩だったり、よく知った相手だったり初対面だったり様々ですが、どんな相手でもうまく立ち回れていました。それから、すがちゃん(パーティーちゃん)は、『何もプランがなくてもとにかく前に出る』という気合いを持っていました。2人に共通するのは、前に出る勇気を持っていることですね」
“売れたあと”にも続く交流
若手芸人を見守り続ける身からすると、かつての教え子が売れて行く姿は何にも代えがたい。「ちゃんぴおんず大崎と飲みに行ったときに、あいつが『少し前からさらば青春の光に可愛がってもらって、次に(千原)ジュニアさんに、今は(ダウンタウンの)浜田さんにまでたどり着いた!』と、うれしそうに話していて、僕もうれしくなりましたね」
また、そうした芸人から今でも慕われているエピソードも
「数年前に、サンドウィッチマンとアンタッチャブルの番組(『お笑い実力刃』(テレビ朝日系列))で、ノンキーズが一夜限りの再結成をしてコントをやったんですよ。放送された時に、ブルゾンが友達と一緒に番組を見ている様子を動画で送ってきましたね」
決して狙ってはいないとはいえ、結果的に数多くの「おもしろ荘出身芸人」を輩出してきたわけだから、文句のつけようがない実績だ。現状、同番組で活躍するための傾向と対策は見えてきたのだろうか。
「たとえばM-1は昨年の令和ロマンのように、ひとつの設定を広げて展開していく傾向にありますよね。
注目する若手コンビは?
そんなヤマザキさんが、今注目している芸人が気になるところ。「いっぱいいるので、個人名をあげるのは避けたい」という、後輩への心遣いがありながらも、「そこをなんとか」と無理を言って教えてもらった。「『センチネル』は、ボケのトミサットがウガンダ人と日本人のハーフなんですよ。ハーフ芸人ってものすごい数がいて、ネタもやり尽くされている感があります。だけど、彼らはお笑い力がすごく高いので、新しい領域に達する可能性を感じさせます。今年のM-1も準決勝まで行ったので、いよいよだと思います。
あと、『爆走マシン』にも注目したいところ。こちらはボケの車太郎がその名の通り車椅子に乗っている異色コンビで、ネタのなかでも自ら積極的に(車椅子について)イジっていくという。地上波では使えない部分も多いかもしれませんが、ハンディキャップを強みに変えているのは単純にすごいなと」
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どんな業界でも舞台裏には名伯楽が存在する。黒子として若手芸人のキャリアを支えるヤマザキさんの慧眼に、これからも期待したい。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。
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