忘年会シーズンを迎え、2次会・3次会での利用が増えるカラオケボックス。コロナ禍で一時は大打撃を受けましたが、市場は著しく回復しています。
2018年度の水準まであと一歩というところまできました。
 しかし、利用の中心は若者であり、長期的には緩やかな市場縮小が見えています。やがて大再編が起こり、巨大グループが誕生する可能性があります。

「中小のカラオケボックス」の苦境が続くなか「カラオケまねきね...の画像はこちら >>

店舗数でトップは「カラオケまねきねこ」

 帝国データバンクによると、2024年度のカラオケの市場規模は3200億円に拡大する見通しであり、2018年度の3485億円に近づく水準まで戻りました。2021年は1740億円にまで沈んでいたのです。

 店舗数でトップを走る「カラオケまねきねこ」のコシダカホールディングスは、2025年度の売上高がおよそ1割の増収、営業増益でした。業績は極めて堅調で、2026年度は2割程度の増収、約1割の営業増益を計画しています。

 市場回復の影響を受けているのはもちろんですが、コシダカは店舗運営が巧み。2025年5月に客単価が前年同月比で4%上昇しており、6月は客数が3%減少しました。7月も1%減少しています。客数が前年割れを起こしたのは、2025年に入って初。

複雑な料金体系は運営会社にとって都合がいい?

 しかし、客単価を引き上げたことが奏功し、売上は前年並もしくはそれ以上をキープしました。

 一般的にカラオケボックスの料金体系は複雑ですが、「カラオケまねきねこ」も例外ではありません。例えば開店から12時までの「朝うた」は、店舗によって料金が異なり、30分税込み11円から55円。
ワンドリンクまたはドリンクバー付きのいずれかを選びます。これも店舗によって規定が異なります。

 すなわち運営側は料金コントロールがしやすい仕組みになっているのです。しかし、もともと割安料金に設定されているため、深刻な客離れは起こしづらいのでしょう。実際、コシダカの客数は8月に3%増加しました。

なぜ「カラオケまねきねこ」は急増したのか

 一時は債務超過寸前の経営危機に陥った、「カラオケの鉄人」の業績も急回復しています。2025年度は1割の増収、営業利益は3倍に拡大しました。自己資本比率は4.9%から14.3%に。再成長に向けて歩き出しました。

「カラオケビッグエコー」の第一興商のカラオケ・飲食店舗事業も回復しています。2025年度上期の売上は5.8%増。営業利益は5.0%減少したものの、これは新機種導入コストが増加したためで、先行投資のポジティブなもの。繁忙期である下期の集客増に期待がかかります。


 カラオケボックス各社が回復する中でも、コシダカの強さは際立っています。2025年8月末時点の「カラオケまねきねこ」の国内店舗数は703。「ビッグエコー」が9月末で505。ゲームセンター運営のGENDAが買収した、シン・コーポレーションの「カラオケバンバン」が4月末で390です。

 そしてコシダカはM&Aを活用し、店舗数の増加に拍車をかけています。直近では株式会社スタンダードの店舗事業を取得し、今年11月1日付で70店舗を承継しました。コシダカは2025年度に50店舗も出店していましたが、70店舗が加わることで2026年度は800店舗近い体制になります。

 2027年度に売上高1000億円を計画しており、着実に歩みを進めています。

大手カラオケチェーンが強みを発揮できる理由

 カラオケボックスは基本的に立地が良好で料金が安ければ集客できます。

 中小企業基盤整備機構の意識調査によると、利用の基準で「価格の安さ」を重視する人は40.0%。「立地の良さ(生活圏からの距離)」は31.1%。3位の施設の清潔さは13.8%まで下がります(「カラオケボックス(2025年版)」)。

 この調査では女性20代が「月に2~3回」、男性20代が「週2回以上」「週1回程度」など高頻度で利用しており、若者は他の世代よりもカラオケボックスを使い倒していることが明らかになっています。
つまり、若者が多く集まる街や学生と一緒に住む世帯が多い地域、高校・大学が多く集まる駅周辺など、店舗の出店エリアをある程度絞り込むことができます。

 ここだけを切り取ると、カラオケボックスの経営の難易度は低いように見えますが、決してそうではありません。特に今は人件費と水道光熱費が高騰しているため、利益を出しづらくなっています。

 カラオケボックスはスケールメリットが働きやすい業界。会員が多ければ多いほど店舗の稼働を高めることができ、食材やドリンクの買い付けも大量に行えるため、相対的にコスト削減を図ることができるからです。

 特に中小規模のカラオケボックスは、集客力を失うと簡単に戻すことができません。値上げをすれば既存客が離れ、従業員のモチベーションが失われて活気を失い、清掃などの管理が行き届かなくなるという悪循環を招きます。

コシダカの規模、利益率の高さは他社を圧倒

 インフレ下でカラオケボックスの再編機運が高まりました。経営が苦しい中小の運営会社が大企業に店舗を譲渡することで、再生するチャンスが生まれるとも言えます。

 コシダカのカラオケ事業の利益率は18.5%。第一興商のカラオケ・飲食店舗が7.2%で、鉄人化ホールディングスのカラオケルーム運営事業が16.5%。鉄人化ホールディングスも利益率が高いものの売上は80億円規模であり、700億円近いコシダカの規模、利益率の高さは他社を圧倒しています。


 売上高1000億円に向け、M&Aを活発化する可能性があります。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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