しかし、会社上場で得た20億円をギャンブルで溶かし切ったうえに、借金は1億円にまで膨らみ、「日本の上位1%に入るギャンブル中毒」と自認する。朝から晩までギャンブルのことだけを考え、刺激を追い求める日々。しかし、ある出来事をきっかけに、清水社長の人生は大きく舵を切ろうとしている。
「ギャンブルで苦しむ人を1人でも減らしたい――」
その強い思いに至った心境の変化から、清水社長の次なる挑戦まで、詳しく話を聞いた。
◆パーキンソン病を患う母から借りた500万円でギャンブル
――清水社長は上場企業を売約して得た20億円を、わずか2年で失ったほどの「ギャンブル中毒者」だったとご自身でも語られていますが、最近はまったくギャンブルをしなくなったそうですね。なにか心境が変化するきっかけがあったのでしょうか?
清水:これまで、競馬で4億円、競艇で1億円、バカラやブラックジャックなどカジノで4億円、株式投資や先物投資で7億円負け、その他に遊興費など含めて4億円くらい使いました。ポーカーだけは3億円以上勝っているのですが(笑)。
金額の大小はあれど、ギャンブルの回数でいえば、おそらく日本の上位1%に入るくらいのギャンブル中毒でした。朝から晩までずっとギャンブルのことを考える、それが日常でした。悪いことをしているという感覚はなく、むしろやらないほうがダサいとさえ感じていたほどです。
最初は自分のお金で遊んでいましたが、それが尽きると「後で入ってくるからいいや」と将来の自分から借金を繰り返すようになり、やがて妻や知人にお金を借り始めました。その合計が、マイナス1億円くらいになったんです。
――1億円ですか!
清水:はい。
その母に、私はラスベガスで開催されるポーカー大会の出場資金として、500万円を借りたのです。これまでも海外で行われるポーカー大会では1億円以上儲かっていましたので、負ける気はまったくありませんでした。
しかし、結局はポーカー以外のギャンブルに手を出してしまい、そのお金も使ってしまった。頭では「使ってはいけないお金だ」とわかっているんです。
でも、これまでは、その「使っちゃいけないお金」で勝負することこそが、ギャンブル最大の面白さだと自分に言い聞かせてきました。
周りのギャンブル仲間も「それがギャンブルだぜ」と囃し立てる。でも、ふと我に返ったとき、彼らはその場が楽しければいいだけで、本当に自分のことを大事に思ってくれているわけではないと気づいたんです。
――お母さまから借りたお金が、一つの大きな転機になったのですね。
清水:はい。
そんなとき、母が「施設にも入りたいし、パソコンも欲しい。いろいろと買い替えたいけど我慢してるんだよね」と話すのを聞いて、「オレは何をやっているんだ……」と。
でも、そう思いながらも、私の右手はもう競馬の馬券を買っていました。ギャンブル中毒というのは、そういうものなんです。
◆「ギャンブルで悲しむ人を1人でも減らしたい」
――ご自身の状況に苦しみながらも、やめられない。
清水:そうです。そんなとき、自分のYouTubeチャンネルで「ギャンブルをやめたい」と話したところ、視聴者の方から「オレもやめたい」といったコメントが200件ほど寄せられたんです。
さらに、毎日5~6件は「私もギャンブル中毒で苦しんでいる。どうしたらやめられますか」という電話相談や、LINEでのメッセージが届くようになったのです。
そうした人たちの思いや、先輩たちの失敗談を聞くうちに、自分は何のために生まれてきたのかを考えるようになりました。そして、ギャンブルで悲しむ人を1人でも減らしたい、自分と同じような目にはあってほしくない、と強く思うようになったのです。
幸い、私にはビジネスの経験や人脈があるので、自分の人生の後半で何ができるかを考えたとき、「ギャンブル依存を治していくための事業やサービスを始めていきたい」と決意しました。
――ご自身の経験が、新しい事業への思いにつながったのですね。そもそも、清水さんが「これは依存症だな」と感じたのは、どのようなときだったのでしょうか。
清水:やはり、手をつけちゃいけないお金に手を出してしまうことですね。ただ、それは“ギャンブラー”にとっては当たり前の感覚でもあります。
もっと深刻なのは、仲間から無意識のうちにお金を借りてしまうこと、そして負けを取り返そうとして賭け金がどんどん膨れ上がっていくことです。
――お金が欲しくてギャンブルをする、というわけではないのでしょうか。
清水:違います。ドーパミンを出したい、刺激が欲しいだけなんです。「万が一でも、これを失ったらヤバいかも」というスリルを求めている。その症状は自分でもわかっているのですが、それでも止まらない。気づいたらやっている、という感覚です。
ギャンブラーのなかには、「ギャンブルをやめるのはダサい」という風潮があるんです。「俺は博打打ちだから」と、やめることをカッコ悪いと感じてしまう。特に若いうちはそう感じがちです。
また、見栄もありますね。「お前、ショボくなったな」と周りから言われるのが嫌で、賭け金を小さくできない。そして、一度10万円を賭けてしまうと、もう10万円を賭けないと興奮できなくなってしまうんです。この「ドキドキとスリルを味わうのにかかる賭け金」を私は“ドキドキコスト”と呼んでいますが、これをいかに安くしていくかが重要になります。
――賭けているお金は、もはやお金として感じられなくなるのでしょうか?
清水:お金じゃないですね。カジノならチップですし、競馬でもネットで振り込むので、ただのポイントのような感覚です。
そのお金で何ができるか、ということはわかっているつもりでも、勝って増えたお金で何かを買いたいという物欲があるわけでもない。増えたら、また次のギャンブルに使える、としか考えていませんでした。
◆「仕事」こそが最大のギャンブル
――では、具体的にどうすればギャンブルを減らすことができるのでしょうか?
清水:いくつか方法があると考えています。まず重要なのが「期待値」を知ることです。
――知識として理解することで、冷静になれる、と。
清水:はい。バカラのように特に依存性が高いものについては、いったんブラックジャックのような、より負けづらく、戦略性が高いゲームに切り替えるというのも一つの手です。
ストラテジーを学び、期待値を追いかけるゲームに変えることで、胴元側の気持ちを体験する。これが、私が考える「期待値に賭け続ける」というアプローチです。
――なるほど。特にバカラは危険性が高いのでしょうか。
清水:非常に高いです。何より、スピードが速い。
――知識でコントロールする以外に、対策はありますか。
清水:人は、暇があれば習慣でギャンブルをしてしまうので、物理的に暇をなくすことですね。仕事を無理やりにでも忙しくするんです。そもそも起業している人なら、仕事こそが最大のギャンブルです。サラリーマンであっても、一生懸命働いて転職し、収入を上げていくことのほうがよほど健全なギャンブルと言えます。
◆ギャンブルから離れてデトックスする
清水:また、ギャンブルから離れる時間、いわば「ギャンブルデトックス」を意識的につくることも効果的です。私は週に1回、高尾山を登るようにしました。山を登っている間は、さすがにギャンブルのことは忘れられます。先日、鹿児島の霧島神宮にも行きましたが、あそこにいる間は本当にギャンブルのことを考えずに済みました。
――ギャンブル以外の予定を入れることで、物理的に距離を置くのですね。
清水:はい。土日にパチンコのイベントデーに朝から並ぶのが習慣になっている人も、そこに別の予定があれば行けないですよね。そうやって回数を減らしていくことが大切です。
また、ギャンブルにのめり込んでいる人は、生活が乱れ、暴飲暴食に走り、糖尿病など身体を壊しがちです。人相も悪くなります。これから日本にもカジノができ、ポーカーも流行していくなかで、勘違いして身を滅ぼす若者が増えるのではないかと危惧しています。
ポーカーで本当に食べていけるのは、上位1%か2%の世界です。そうした現実も、きちんと伝えていきたいです。
◆「ギャンブル経験者の医師」が寄り添う、新しいサービスを
――そうしたご自身の経験と問題意識から、ギャンブル中毒を減らす取り組みを考えているのですね。清水:日本にも国の更生施設などはありますが、正直言って、そこで提供されるプログラムはギャンブル中毒者の心理をわかっていない「机上の空論」であることが多い。施設から帰る途中で競馬場に寄ってしまう人もいるくらいです。
また、ギャンブル中毒を治そうと思っても、ギャンブルをやったことのないお医者さんやカウンセラーに「やめなさい」と言われても、当事者からすれば「やったこともないヤツに言われたくない」と思ってしまうんですね。
だからこそ私たちは、ギャンブルを知り尽くした人がアドバイスをする、本当に寄り添ったサービスや仕組みが必要だと思っています。
――具体的には?
清水:まず、専門の精神科医が面談を行いますが、その医師は必ずギャンブルの経験者です(笑)。そして、海外で効果が実証されている先進的なプログラムを研究し、日本人に合う形で提供する。
アプリなどで日々の管理をしながら根本的な改善を目指す、ライザップの“ギャンブル版”のようなイメージでしょうか。
ギャンブルをただ禁止するだけでは意味がありません。おもちゃを取り上げられた子供は違う遊びを見つけるように、根本から学び、改善していくアプローチが不可欠だと考えています。
――医療的なアプローチだけではないのですね。
清水:はい。ギャンブル中毒って、収入が上がれば解決することも多いんですよ。ですから、私たちが持つ人脈を活かして、AI領域などこれから稼げる分野への転職やリスキリングの支援も必要だなと思います。
また、ギャンブルをやっている人は、多額の借金を抱えているケースもあります。借金を返すために、またギャンブルを繰り返す……。場合によっては、債務整理の専門家につなぐことも必要でしょうね。
頭ごなしに「やめろ」と言うのではなく、ギャンブルの「勝ち方」を教え、リスク管理を学ぶ。すべてを取り上げるのではなく、うまく付き合いながら、楽しんでいく方法を一緒に探していく必要があると思っています。
私は、ギャンブルはゼロにする必要はないと考えています。正しく遊べば、ギャンブルは決して「やってはいけない事」ではなく、正しい遊び方、適切な遊び方が大事だと思いますね。
――まさに、ご自身の経験のすべてが詰まった事業ですね。
清水:日本には今、ギャンブル中毒者が700万人から800万人いると推計されています。そのうち、少なくとも200万人から300万人は、「やめられるならやめたい」と悩んでいるはず。この方たちがギャンブルで失う金額をたとえ半分にでもできたら、その人の人生にとっても、日本社会にとっても、計り知れないプラスになります。
このようなサービスや仕組みは、本当にギャンブルで負け続けた私だからこそ語れる、私にしかできないものだと信じています。この社会的な意義を持つ事業で、もう一度、上場を目指したい、それが今の私の夢です。
【プロフィール】清水 望
YouTubeチャンネル「ラスワンのギャンブル魂~復活編~」
<取材・構成/三枝祐介 撮影/大倉裕一>
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