選考が前倒しになってしまえば、結果として就職活動そのものが長びく可能性も否めない。たとえば、業界によっては東京に一極集中している場合も多い。となると、東京近郊に住んでいるか否かの違いが、ボディブローのようにじわじわと効いてくる。それでも、志望企業から内定をもらうためにはリングに立ち続けなければならず……。
本記事では、筆者(26卒)が当事者目線で“地方在住就活生”のリアルをお届けしたい。
「初面接の面接官」がまさかの…
あるベンチャー企業の選考を受けていた時のことだ。1次選考のグループディスカッションを突破し、迎えた2次選考が就活での初面接だったのだが……。当日、面接官として登場したのがまさかの会長だったのだ。人事担当者からは「緊張しなくて大丈夫ですよ」と優しい言葉をかけてもらったが、就活の初回面接で企業のトップ相手に落ち着ける人など、なかなかいないだろう。
とはいえ、「志望動機」「自己PR」「学生時代に力を入れたこと(以下、ガクチカ)」など王道な質問への対策は十分に練っていた。緊張しつつも、万全に準備をしてきた分だけ自信はあった。
しかし、いざ面接が始まると、まったく違う方向に展開。というのも、繰り出される質問は家族構成や入試方式など、想定外のものばかり。
そうこうしているうちに、肝心の自己PRやガクチカは一切聞かれないまま、約1時間の面接は終了。準備していた内容を話す機会はほとんど得られず、評価基準も読み取りづらい選考だった。会長が終始テーブルに肘を置いたまま私の話を聞いていた姿は、今でも目に浮かぶ。
手痛い経験も、気付きを得られた
初面接だった私は、「これが新卒採用の面接か……」と、大きな勘違いをすることになる。自己PRやガクチカが聞かれるのは、都市伝説のようなものだと、本気で思ってしまったほどだ。もちろんそんなことはなく、その後の選考では当たり前のように準備していた内容が問われた。改めて振り返ると、初回にして、いかにイレギュラーな面接を引いてしまったかが分かる。
その企業からは、案の定お祈りメールが届いた。ただ、手痛い経験を通じて「選考の形式や重視する点は企業によって大きく異なる」という気付きを得ることができた。結果的に、就職活動を進める上で視野を広げるきっかけになったと感じている。
「大きな絶望感に襲われた」面接官の言葉
私は「気になったことを放置できない」性分である。それゆえに、これまで挑戦してきた分野が幅広く、多様な経験は自分のひそかな武器でもあった。しかし、選考を受け続ける中で、この価値観を真っ向から否定される経験をしたことがある。•色んなことに手を出すのが、かっこいいわけではない。
•君がしたいこと、してきたことは私には理解できない。
•結局のところ、何がすごいのか全く分からない。
上記は、どこか鼻で笑うような態度でぶつけられた言葉の数々である。面接のために夜行バスで東京まで足を運んだというのに、こんなことを言われるためだけに、わざわざ東京へ行ったのかと思うと、大きな絶望感に襲われた。
「何しに東京まで来たのだろう」「これまで自分がやってきたことは一体何だったのだろう」という思考に苦しみ、面接後は食事が喉を通らないほど落ち込んだ。憂さ晴らしに、帰りの夜行バスの時間までお酒を飲み続けることしかできなかった。
振り返ると、あの面接官には、私の挑戦が“全部中途半端”に見えたのだろうと思う。もちろん常に全力で取り組んできたが、そう受け取られても不思議ではないと、今なら冷静に理解できる。
ただ、今後の人生が懸かった当時の私にとって、これまでの人生を全否定されたと感じるほどに心をえぐられた体験である。そして、こうした精神的なダメージだけでなく、交通費の支給がないことによる金銭面の負担も追い討ちをかけた。
“交通費貧乏”に苦しむはめに
実は、面接の結果にかかわらず、学生が交通費を負担するケースは珍しくない。地方に住んでいる私は、東京開催の選考へは夜行バスを利用していた。
特にエンタメ企業においては、交通費が支給されない傾向が強い。業界人気の高さから、支給しなくとも志望者が多く集まるのだろう。私も“集まる側”の1人だった。これはインターンシップへの参加に向けた選考も同様で、金銭面から応募を断念したことが多々ある。
そして本選考では採用人数は限られ、選考フローも長い。終盤の選考ともなれば交通費が支給されるケースもあるが、とはいえ、それまでの選考でかかった交通費が戻ってくることはない。そのため一つの企業に対し、学生は相当な額をかけることになるのだ。
アルバイトで必死に稼いだお金が、夜行バス代に加えて東京での飲食代としてどんどん溶けていく。少しでも外食代を抑えるために、牛丼ばかり食べていた。
住んでいる場所さえもハンデに…
そして、それ以上に苦しかったのは、夜行バス代として働いた分も扶養の壁に含まれてしまう点だ。就職を機に上京する私にとって、本来ならば引っ越し費用や数カ月分の生活費を稼いでおきたいところ。
地元は大好きである。ただ、就活中に限っては、「住んでいる場所さえもハンデになるのか」と少し悔しい気持ちになった出来事だ。
まだまだ存在する地方在住ならではの苦労
地方に住む学生にとって、金銭面のハードルだけでなく、講義と選考の時間が重複した場合、どちらを優先すべきかという問題にも直面する。東京に住み、東京の企業を受ける学生は、講義の前後に選考の予定を組み込むなど、比較的柔軟に動くことができるだろう。一方、地方から選考に臨む学生にとって、それはなかなか難しいところがある。
就活の早期化・長期化により、大学3年生の6月から本格的にインターンシップが始まったことで、講義と選考が重なるケースが増加したと考えられる。私も面接やグループディスカッションのため、やむを得ず講義を休んだ経験がある。
実際、2026年3月卒業見込みの全国の大学3年生、大学院1年生を対象にしたマイナビの調査によると、73.2%もの学生が1月の状況として、就職活動の準備と学業・定期試験の両立で苦労していると答えている。
「就活を優先して学業を疎かにするのはよろしくない」と講義で言われた時は、「こちらも人生が懸かっているのに!」と反発したい気持ちが生まれた。同様の思いを抱いてた就活生は少なくないだろう。
単位は必要。
講義を休まざるを得ない状況にもどかしさ
ダメ元で先生に事情を説明し、代替課題の提出などで了承を得ることができた場合もある。一方でいくら頭を下げても一向に首を縦に振ってもらえないケースも少なくない。その時は苦渋の決断の末、講義を休んだ。幸いその授業に出席点はなかったため単位への直接的な影響はなかったが、興味があって履修した講義を自分の意思に反して休まざるを得ない状況には、やはりもどかしさを感じていた。
就活の早期化が進む一方で、学業面との両立は学生個人の努力に委ねられている部分が大きい。こうした現状には、やはり疑問を抱かざるを得ない。
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大学3年生の6月から始めた私の就活は、ちょうど1年後に第一志望の企業から内定をもらい幕を閉じた。キラキラした世界とは程遠い、不器用な就活生だったという自覚がある。だが、苦しい期間に得られた気づきや学びは、人一倍多かった。
もちろん、嫌な思い出だけではない。同じ集団面接を受けた就活生と今でも連絡を取り合う仲で、まるで同じ釜の飯を食った同期のような関係性だ。また、ひと段落してからは自身の経験を還元したいという思いから、後輩の就職活動に実践的なアドバイスを伝授している。
人見知りで内気だった自分からは考えられないほど、アクティブな人間になれたはずだ。何度心が折れても粘り強く向き合い続けた経験が、一人前の社会人になるための糧になると信じたいものだ。
<TEXT/筒井新一>
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