徹底した品質管理と熟練の注ぎ方で最上の一杯を提供するビアホール。家や居酒屋で飲むビールとの質の違いに驚く人も少なくないだろう。

 来店するお客は“ビール通”の紳士がほとんどとはいえ、アルコールの影響もあってか“ウンザリするような客”に遭遇することも。特に忘年会シーズンのこの時期は例年、トラブルが絶えない。

 都内のビアホールで働く筆者が、実際に今年の忘年会シーズンに目の当たりにした迷惑行為を紹介していく。

ラストオーダー終了後に「注文させろ」、ちゃんぽん飲みの末に…...の画像はこちら >>

宴会で無茶飲みからの粗相

 年末年始の忘年会・新年会シーズンのこの季節、筆者が働くビアホールではオープンの段階でコース料理にビール他ドリンクメニュー飲み放題がついた宴会予約でほぼ満席という日も少なくない。
 
 まず頭を悩ませるのが、「飲み放題=頼めばいくらでも酒が出てくる」と勘違いしているお客である。

 予約段階や宴会スタート時に「飲み残しなしのグラス交換制」「ドリンクのラストオーダーは宴会終了20分前」と伝えているように、基本的には1人に1杯ずつの提供。

 にも関わらず、1人でビール、ハイボール、日本酒、ワインと何杯もグラスを抱え込んでいるお客が1日に数人は見かける。

 ホテルの朝食バイキングでよく食べきれないほどの皿をテーブルいっぱいに広げている人がいるが、それの酒版である。

 ドリンクのラストオーダー時はその傾向にいっそう拍車がかかり、「ビール10杯、ワインをボトルで2本」なんていう注文もざらに入る。5名客なのにだ。
 
 このような無茶飲み、ちゃんぽん飲みの末路は大体が同じである。グラスの破壊、嘔吐、ひどい時は脱糞まである。
 
 先日、筆者が営業中にトイレの定期清掃に行くと、ドアや個室の壁に大便が塗りたくられていたことがあった。


 粗相をしたのはおそらく同僚が「テーブルから異臭がした」と言っていた宴会利用のお客だろう。

 一応言っておくが、生理現象をコントロールできなくなるまで飲むものではない。

乾杯ビールが来なくて逆ギレ

 「いつまで経ってもビールが来なくて乾杯できないんだけど!」

 このようなクレームが来るのも大抵が宴会テーブルだ。

 ビールカウンターの注文伝票を見ると、案の定ピルスナー系のビールが人数分入っている。これでは時間がかかって当然だ。

 ビールに少し詳しい人なら当然の知識だが、ビールには種類や飲み方によって様々な注ぎ方がある。

 注ぎながら泡を作る「一度注ぎ」、液体の上にきめ細かい泡を乗せる「二度注ぎ」、そして最も時間のかかる「三度注ぎ」だ。

 粗い泡が落ち着くまで三度注ぎ足しスフレ上の泡を作るピルスナー系は通常のグラスなら1杯で1分はかかる。

 店側はわざと提供を遅らせているわけではない。人数分のビールをクオリティを落とさずに提供しているのである。

 せっかく全種類ビール飲み放題コースを利用するなら少しでも単価の高いものを、という気持ちは分からないでもないが、一刻も早く乾杯をしたいのならまずは提供の早いスタンダードなビールをおすすめする。

暴走する老人客「もう一生来ねえよ!」

 昔ながらの伝統あるビアホールで極上の生ビールを堪能できるからか、筆者の働くビアホールの来客平均年齢はかなり高い。

 平日の日中などはほとんどのテーブルが70代以上のお客で占められていることも少なくない。

 利用していただくこと自体はありがたいし、ほとんどがマナーをわきまえたお客であるという前置きのもと、筆者の肌感覚としてカスハラの多くが高齢者という印象だ。


 この間も、宴会のラストオーダー終了後に「酒の追加注文をさせろ」とごね出した高齢のお客がいた。

 店舗責任者ができない旨を説明するや、「詐欺だ」「もう一生来ない!」と捨て台詞を吐かれたという。

 話を聞くと、このお客は来店の段階で1万円札2枚をすべて千円札に両替するよう言ってきたという。両替を断われた時点で腹の虫の居所が悪かっただろう。

「一生来ない!」

 というのは彼らにとって定番の捨て台詞なのか、筆者も一度浴びせられたことがある。

 会計時、クレジットカード払いでタッチ決済できなかったお年寄り客である。こちらがカード差し込みでお願いすると、「面倒なことやらせやがって」とご立腹の様子。かなり飲んだようだ。
 
 続いて暗証番号の入力を促すや、口から出てきたのは「そんなことまでさせるのかよ!」「こんな店もう一生来ねえから!」。

 年をとると感情の導火線が短くなるのだろうか。さっきまで抱き合って飲んでいたのに、数分後には口ゲンカしている場面も目撃したことがある。

 とにかく、先ほどのタッチ決済できなかったのは利用限度額の問題である。


まさかの客席でマウスウォッシュ

 手を叩いで店員を呼ぶ、という時代錯誤の行為をするのも高齢男性の特徴だ。

 さらに、客席でマウスウォッシュをしたあと、うがい水をそのままお冷のグラスに戻して帰るという場面も目撃したこともある。

 このようなお年寄りは少なからず「こっちは客なんだから何もしてもいい」という意識があるのだろう。

 お客である自分も「昔ながらの伝統あるビアホール」の雰囲気を作っている一部だということを認識してもらいたいものだが。

<文/ボニー・アイドル>

【ボニー・アイドル】
ライター。体験・潜入ルポ、B級グルメ、芸能・アイドル評などを中心に手掛ける。X(旧Twitter):@bonnieidol
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