発達障害、軽度知的障害(IQ60)があり、親からの苛烈な虐待を受けた当事者として、いくつかの大手メディアで発信をしてきた女性がいる。ゆきさん(@simasima2425)、25歳だ。
「家庭を持つことが怖かった」と話す彼女も、現在は結婚3年目を迎えるという。これまでメディア取材には顔を出さずに応じてきたが、「私の発信が役に立つなら、顔も出して発言します」とのこと。人生の軌跡と現在の心境を聞いた。
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ずっといじめられていた学生時代

――幼少期から虐待を受けて育ったとうかがいました。

ゆき:はい、事実です。父はアルコール依存症、母からはスパルタ教育を受ける環境に生まれました。都内の、一般には山の手と呼ばれるエリアです。よく「実は金持ちなのではないか」とネットで難癖をつけられるのですが、邪推なんです。給食費も支払えず、いつもボロボロの洋服を着ていて。父が作った借金な多額だったらしく、いわゆる闇金の取り立てが家に来ていました。また、小学校から高校までずっといじめを受けていたんです。

――どのような類のイジメですか。

ゆき:殴る、蹴る、首を絞められる――などでしょうか。
もっとも、家庭においてもそのような仕打ちを受けているので、どこにいっても自分は疎まれると思っていつも悲しい気持ちでいました。

――現在、ご実家とのご関係はいかがでしょうか。

ゆき:19歳で家出をし、水商売で生計を立てていました。学歴も職歴もない人間を受け入れてくれるのは、そうした業種しかなかったからです。ただ、当時の19歳は未成年なので、何度か親に連れ戻されたことがあります。そこで20歳で夜逃げ同然で家を出て、住民票の閲覧制限をかけたんです。これによって、親は私がどこにいるのかわからなくなり、現在に至ります。

結婚して「実家の仕打ち」の酷さに気づく

――ゆきさんはストリートピアノミュージシャンですよね。いつからピアノをやられているのでしょうか。

ゆき:3歳からです。ただ、家にあるのは安物の電子ピアノでしたし、週に1回のレッスンに何とか通っていた感じだと思います。当然、発表会に着ていくドレスもなくて、制服で出たりしていて、当時の惨めな気持ちをまだ覚えています。実は夫との出会いもストリートピアノなんです。
21歳のとき、演奏が終わって、声をかけられて。

――そうなのですね! おめでとうございます。ゆきさんは現在、ご実家と絶縁しているとのことですが、旦那さんのご家庭と比較していかがですか。

ゆき:ありがとうございます。旦那のご両親は私にとても親切にしてくれて、率直に「うちと大違いだ、こんないい家庭があるなんて」と思いました。私は19歳で家出をするまでは、奴隷同然の扱いを受けていました。父は朝から晩まで飲んだくれていて酔っ払っているので、そのほとんどは母からの仕打ちですが。そうした家庭しか知らない私にとっては、かなりの衝撃でしたね。

1年間の交際期間を経て、結婚を決意

――家族を築くことに抵抗はなかったですか。

ゆき:かなりありました。たとえ子どもを産んでも、虐待をしてしまうのではないかと悩んだこともあります。自分の家と同じような家庭を作ることになったらどうしよう、とはずっと思っていましたね。でも、1年間の交際期間で、「この人と家庭を作りたい」という思いが強くなっていきました。


――いま幸せそうで安心しました。

ゆき:良い家庭を築けたことで、生活面でも精神面でもよくなったとは思います。昔の生活を抜け出せたことの安心感もかなり大きいです。ただ、過去を思い出してフラッシュバックすることがしばしばあるので、気持ちに折り合いをつけるため、旦那に助けてもらうことがたびたびあります。

働きたいなとは思いつつ、働けない

――日常生活で困りごとはありますか。

ゆき:たとえば私は肩書としては専業主婦になるのですが、働きたいなとは思いつつ、働けません。これは、過去にアルバイト先などで差別にあったりからかわれたりしたトラウマがあるからです。大声で怒鳴られたり、胸ぐらを掴まれるなどの暴力行為もありました。社会人になったらそうしたことはないと一般には思われていると思うのですが、知能指数が低くて「何をしてもいいやつ」だと思った瞬間に粗暴な行為をする人間はいるんです。社会生活を送りたくても送れない、というのはストレスになります。

――そのような状況のなかでも、これからの展望などがあればお願いします。

ゆき:今やっているストリートピアノをやっていきたいという思いはあります。
人の感情を高揚させるような演奏ができたとき、とっても嬉しくなるんです。また、そうした活動の発信も続けていきたいですね。

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 もっとも身近で頼れるはずの両親から虐げられて育ったゆきさんは、何かと標的にされやすい。徹底して軽んじられ、雑な扱いを受ける。だがひとりの男性が転機となった。配偶者に出会ったストリートピアノで、これからもきっと幸せの音色を奏でる。

<取材・文/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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