東京23区の中古ワンルームマンション中心に不動産投資を行い、総資産約10億円、年間家賃収入約4000万円を誇る個人投資家の村野博基氏。不動産投資において「管理」の重要性を強調する村野氏は、現在、所有する38戸の物件のうち、27棟で管理組合役員(うち11棟は理事長)を務めている。
そんな村野氏は「マンションの管理を巡ってはビックリするトラブルがよく起きている」と言います。『戦わずして勝つ 不動産投資30の鉄則』(扶桑社刊)を上梓した村野氏が見た「タバコのトラブルから、泥沼に陥ったマンションの話」とは。
「タバコの煙で耳の中が黒くなった」と騒ぐ住民に理事長が激ギレ...の画像はこちら >>

タバコの煙で「耳の中が黒くなった」と主張する住民

複数の物件で管理組合の役員をしていると、住民同士のびっくりするようなトラブルに遭遇することも珍しくありません。トラブルの要因は騒音、ニオイ、ゴミ捨てのマナーなどなど。マンションという共同住宅で生活をしていれば、皆さんも日々トラブルを目にすることがあるかもしれません。

以前、私が理事会に参加していたマンションでこんなトラブルがありました。

ある階の住人が階下の住人に対して「タバコを吸うな!! 止めろ!!」「お前が毎日タバコを吸うから、こっちは耳の中まで黒くなったんだ!!」と大声で叫びながら、玄関のドアをガンガン叩きまくる、という事案です。あまりの騒ぎに警察が出動することになりました。

そもそも、このマンションでは管理規約により共用部は禁煙となっていました。ですが、部屋の中は専有部なので、タバコを吸う吸わないは住んでいる人の自由です。しかし、なぜかクレームを付けられた部屋の住人は喫煙者ではありませんでした。

では、玄関をガンガン叩きまくった人は何を「タバコの煙」だと勘違いしたのでしょう? 路上喫煙の煙が風に乗って部屋に入ったのか。はたまた、別の部屋の住人の煙なのか……。
耳の中が真っ黒になるぐらいの煙ならば、相当な量だろうと現地を調べてみましたが、タバコのニオイは感じられません。ただ、あるときわずかにお香のニオイがしました。そう、このマンションは道を挟んで反対側に墓地があったのです。おそらくお墓参りでお供えされたお線香の煙を「階下の人がタバコを吸っている!!」と思ったのが事の真相だったようです。なお、耳の中まで真っ黒になった原因は最後まで分かりませんでした。部屋内はまったく煤汚れていないのに、耳の中が黒く汚れるのは摩訶不思議です。

腹の虫がおさまらない理事長は…

さて、この時に穏やかに対応していれば、さらに大きなトラブルにはならなかったかもしれません。

しかし、この管理組合の理事長はクレームをつけた人物を「勝手に線香の煙をタバコと勘違いして騒ぐ頭のおかしい人」として呼び出し、「我に正義あり!!」と高圧的に大声で説教をはじめたのです。結果、マンションのフロア全体に響き渡る怒鳴り声の応酬が繰り広げられました。

その場は管理会社の担当者のとりなしで一旦は落ち着いたのですが……。実は玄関ドアをガンガン叩いていてタバコのクレームを付けていたのはマンション管理組合の副理事長だったのです。彼は副理事長として「共用部は喫煙禁止。タバコの煙は健康にも良くない! 共用部に煙が漏れるくらいタバコを吸っているような奴は懲らしめるべき」とでも思って、実力行使に出てしまったのでしょう。


一方、腹の虫のおさまらない理事長は「先日のタバコのトラブルで話題に上がった人はちょっと頭がおかしくて、認知症に違いない。管理組合の役員を継続させることは出来ないので、次のマンション総会で役員を退任させます」と書いた臨時総会の招集通知をマンションの掲示板に貼り出しました。

すると、今度は副理事長が怒り「俺を認知症扱いするとはどういうことだ!?」と理事長を名誉毀損で裁判所に提訴したのです。これに対して、理事長は「私は理事長として正しいことをしている! 私が訴えられた際の弁護士費用は管理組合で負担すべきだ!!」と言いだし、勝手に弁護士を探して裁判で係争を始めてしまいました。

管理を巡ってのトラブルにご注意

本来、個人的に訴えられた事案を管理組合の費用で負担するのはおかしな話です。しかし理事長が「管理組合の為に行ったことが発端なので、管理組合で負担する」と主張し、その議案を総会に付議してしまいました。もちろん総会の決議で反対する人が多ければ止めることは可能です。しかし、そのマンションでは管理に無関心な組合員が多く、結果、賛成多数になり可決されてしまいました。

当時、理事会に参加していた私は「お互いマンションの所有者同士、まずは裁判沙汰にするのではなく、話し合いをして解決策を探っていきましょう」と提案していたのですが……。双方共に「正義は我にあり!」と思っているようで「お前はあいつの味方なのか?」とお互いから詰問され、理事会にも呼ばれなくなる始末。私はそんな状況に「本来、マンション管理や修繕に使うお金が裁判に使われる一方で、このままじゃ埒が明かない」と考え、この物件は売却しました。

さらにその後は、この副理事長だった人物から複数回の提訴がなされ、いずれも弁護士費用は管理組合が負担することになったようです。

管理費等が値上げされるのは当然の結果

マンション管理組合のお金は理事長、副理事長を含む各組合員から集めたものです。
結局、この訴訟は自分で自分の懐を痛めつけているに過ぎません。元々このマンションでは管理費や修繕積立金にそれほど余裕はありませんでした。こんなトラブルに対してお金を使うと、昨今の物価高の影響もあり、そろそろ管理組合側の費用が尽きてくる頃でしょう。必要な修繕や管理が行われておらず、徴収する管理費や修繕積立金が値上げされているかもしれません。

トラブルが発生しても感情的にならず粛々と対処していれば……。「かかってしまった裁判費用や弁護士費用は修繕や管理に充当できただろう。値上げもせずに済んだだろう」と思うと残念でなりません。

そもそも、タバコの煙や騒音などのトラブルを止めさせようとするのは大事なことでしょう。しかし「自分だけが正しい」「間違っている人には何をしてもいい」と考えるのは、気持ちはわかりますが最低最悪な思考です。少なくても冷静に損得を判断できる人間であれば、その愚かさがわかるはず。安易に自身だけの正義を振りかざすと、思いもよらぬしっぺ返しを食らうこともあるのでご注意を。

<構成/上野智(まてい社)>

【村野博基】
1976年生まれ。
慶應義塾大学経済学部を卒業後、大手通信会社に勤務。社会人になると同時期に投資に目覚め、外国債・新規上場株式など金融投資を始める。その投資の担保として不動産に着目し、やがて不動産が投資商品として有効であることに気づき、以後、積極的に不動産投資を始める。東京23区のワンルーム中古市場で不動産投資を展開し、2019年に20年間勤めた会社をアーリーリタイア。現在、自身の所有する会社を経営しつつ、東京23区のうち19区に計38戸の物件を所有。さらにマンション管理組合事業など不動産投資に関連して多方面で活躍する。著書に『戦わずして勝つ 不動産投資30の鉄則』(扶桑社)、『43歳で「FIRE」を実現したボクの“無敵"不動産投資法』(アーク出版)
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