「年末年始のサポート担当になりませんように!」
宿泊業向けITツールメーカーで営業を担当する大谷綾香さん(仮名・29歳)。彼女の会社が提供するシステムは、24時間365日のサポート体制がウリのひとつ。夜間や休日のトラブル対応は、営業職が持ち回りで担当する決まりになっているそうです。
「大体月の中ごろに翌月の当番スケジュールが総務から送られてくるんですが、10月頃から年末年始は誰が当番になるのか一喜一憂していますね。
問い合わせ内容は主に操作方法。私が説明できればすぐに解決するし、その他のことも『今対応できないから、休み明けまでまって欲しい』って言えば大体は飲み込んでもらえます。だから社用携帯とパソコンを持ち歩いて、荷物が増えるくらいのストレスで済みます。ただ、稀ではあるものの、システムやサーバーに異常が出るとヤバい」
休み明けまで心が休まらない「システムやサーバーに異常が出ませんように…」
宿泊業にとって、年末年始は最大の稼ぎ時。
「システムが止まるということは、ホテルの予約管理や売上に直撃します。だから、休み中に知らない番号からの着信があるたびに、背筋が凍ります。しかも、そんなことが起きたら、私にできることは営業部とシステム部など関連部署の上司に連絡することなんです。でも、その年齢層って大体が小学生くらいの子持ちで、出掛けてたり、親戚と集まってて酒盛り中だったりで電話になかなか出てもらえないんです。上司に休みの日に鬼電をかけることが輪をかけて憂鬱です。
異常が出ないことを休みが明けるまで祈りながら過ごします。
過去に自身がこの時期にトラブルに見舞われた際は、システム部が休み返上で解決に至るまで働いて事なきを得たのだそう。ただ、その対応中にも1本、2本と電話が増え、復旧後に1件1件謝罪の電話を大谷さんが入れたといいます。その稼働については「元々営業手当が支給されているから」という理由で、なにも報酬は得られず……。
大谷さんは「最悪の年末年始だった」と眉間に皺を寄せていました。
繁忙期は冗談抜きで帰れない
名古屋で大型スーパーのチラシの企画営業をしている、三木結月さん(仮名・25歳)。印刷所が稼働を終えるまでが超繁忙期で、その壮絶な働きぶりを教えてくれました。「今までスーパーの繁忙期はGW、お盆、年末年始くらいだったのが、昨今は11月末の『ブラックフライデー』が台頭したことで、10月中頃からクリスマスまで自分が何時出勤で何時退勤なのか忘れるくらいに忙しいです。
定時は18時半ですが、この時期は朝4時過ぎにタクシーで帰宅し、シャワーを浴びて少し寝て、また昼過ぎに出社します。ある日、出勤したら上司の服が変わってなかったんです。『あ、この人帰ってない』って気が付いたとき、近い将来の自分を見ているようで、“転職”の文字が頭をよぎりました」
疲労困憊の人間に細かいチェックをさせないで
三木さんの仕事は、レイアウト作成や、掲載商品の情報集め、出来上がった紙面に正しく情報が記載されているかの確認、打ち合わせなど幅広い。この中で帰れない原因となっているのが、「掲載情報の確認」と「クライアントとの打ち合わせ」だという。
「打ち合わせは毎週2日、決まった曜日、時間に行われる約束ですが、それが守られることは稀で、2時間待ちは当たり前です。彼らは自社のビルが閉まる時間には帰れますが、私たちは2日後の打ち合わせに備えなければいけない。打ち合わせが終わっても、私たちの仕事はそこから始まります」
入社当初は夜遅くまでみんなで残って仕事をするのが、まるで高校時代の文化祭のようで楽しかったそう。
「翌日、修正紙面のチェックをします。これが地獄です。この時期はブラックフライデー号、クリスマス号、年末号、お正月号って最低4本分のB2チラシを一気に作ります。そして、巨大な紙面に並ぶ無数の商品名、価格、産地。一言一句、先方の資料と間違いがないか目を皿のようにして確認するんです。睡眠不足でフラフラの人間に、一文字のミスも許されないチェックをさせる。上層部の気分次第で、印刷直前に一から作り直しになることもザラ。気が狂っているとしか思えませんね」
そんな極限状態では、当然ミスも起きる。三木さんが最も冷や汗をかいたのは、店舗ごとの「営業時間」の記載ミスだった。
「大晦日や元旦の営業時間は店舗ごとにバラバラで、しかもギリギリまで決まらない。その修正依頼を見逃して印刷までいってしまったんです。
携帯のバイブ音はトラブルの予兆
「年末年始って、スーパーはものが飛ぶように売れるから、利益を上げやすいって思われがちですが、実際、一番キツい時期です。特売商品が多く、メーカーや配送業者が止まるため、どの商品も余裕を持たせて発注されます。つまり、限りある倉庫のキャパを、生鮮食品や日用品を含むすべての商品で奪い合う状態になるので、営業としては競争が厳しくなるんです」
そして現場における「読みのズレ」が彼への直撃弾となる。
「スーパーの担当者が発注を絞りすぎて欠品すると、最悪の場合、年末年始で休んでいる最中の僕らに連絡が来ます。でも、配送がストップしているから物理的に補充は不可能なんです。なにもできないことを丁寧に説明して、納得してもらうしかありません」
神村さんにとって、携帯のバイブ音は「トラブルの予兆」でしかない。とはいえ、メーカーの営業職として、電話に出ないのが一番信頼を損なうことが分かっている。
神村さんの憂鬱はそれだけではない。このタイミングで想定より売れず、在庫に余剰が出てしまうと、当然ながら翌月の発注が減り、売り上げは下がってしまう。自身のノルマを毎月達成できるように慎重に提案しなければならず、年末年始の休み前は毎日胃が痛いと神村さんは語ります。
世間が休みモードになる年末年始の裏側で「休みであっても心が休まらない」という人たちも少なくないのだ。
<取材・文/後藤華子>
―[年末年始の憂鬱]―
【後藤華子】
サブカルと外食が生きがいのアラサー人妻ライター。ライブハウスと居酒屋は実家みたいなものです。短所は好きなものの話になると、早口になるところ。
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