都市部の生活に疲れ、人間らしい暮らしをしたい人の地方への関心が高まっている。そんななか猟師免許を持ち、北関東の山間部で狩猟生活をしながら役者業をし「山の中で楽しく遊んで暮らしているだけ」と話す東出昌大のもとには、山の生活に憧れ、彼の生き方に共感した仲間が集まる。
東京での舞台稽古の日々を送る中で、そらぁまぁやっぱり「あ~、山帰りて~!」となる。
演劇を目一杯やることで得られる充実感もあるのだが、山でしか得られないヒリヒリが恋しい。黄色い冬の陽に暖められた屋外喫煙所で、世田谷のぬるい風に煙を吐き出しながら、100㎞先の冬山を思う。
「もうあの山々のてっぺんは、真っ白になってるのだろうか」
手の中に握りしめた山仕様のライターは、今はタバコに火をつけるしかその用を成さない。
山の道具は年数を経るにつれ段々と洗練され、また個々人の好みも反映される為に、猟師が集まってお互いの持ち物を紹介し合うだけでも面白い。そして、指の太さが違う為にペンの好みの太さも違うように、性別、体格、猟法などによって至高の道具が変わるので、物の説明は哲学の発表でもある。
私は山に、コンビニでも売られているフリント式のBicのライターを持っていく。100均で売られているようなライターはブタンと呼ばれるガスが入っており、氷点下の環境では着火し難い。一方、Bicはイソブタンガスの為、マイナス10℃の環境でも火がつく。フリント式とは歯車をヂャッと回して火打ち石で発火させるタイプだが、ボタン式よりも構造が単純な為、壊れても修理がし易い。
また、数日来の雨で山のどこもかしこも濡れている時に、千切って丸めればかなり長く燃える着火剤にもなる。この際に布タイプであったほうが火持ちが良い。
山=自然=死が近い。とすぐに連想できるが、山に通うようになって全くその通りだと思う。そして本当の怖さは、コンビニが無いことでも、毒キノコを食べることでも、獣に襲われることでも、ましてや幽霊に遭遇することでも無く、寒さだ。
小学生の頃、5000年前のミイラが表紙になった本が図書館にあり、怖い物見たさで開いたことがあった。
今私には地図があり、地図を読めばこの先にどんな景色が広がり、どんな植物が自生し、焚き火に使える薪が確保できそうかも予想がつく。そして、寝床の設営が夕暮れに間に合わなければ、ヘッドライトを使うこともできる。
「彼らのほうがきっと、ヒリヒリした生の実感を謳歌していたのだろうなぁ」
さて、タバコも吸い終えた。暖房の効いた稽古場に戻るか。年末年始の稽古休みは、雪山を歩こう。冬山のヒリヒリした厳しさは、豊かさを教えてくれる。
<文/東出昌大>
―[誰が為にか書く~北関東の山の上から~]―
【東出昌大】
1988年、埼玉県生まれ。’04年「第19回メンズノンノ専属モデルオーディション」でグランプリを獲得。’12年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。
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