前回の記事では、栄養士だった母の影響を受けた子ども時代から、大学での学び、ラグビートップリーグでの挫折、そして、現場でつかんだ「食事は心理戦」といった考え方までをうかがった。
今回は、そんなスポーツ栄養学の現場で培われた知見の中から、「一般の人でも今日から取り入れられるプロ級の食べ方」について教えてもらった。キーワードは、ベジファースト、朝たんぱく、コンビニ活用、そして、ファストフードとの上手な付き合い方だ。
ベジファーストと食物繊維で「健康の土台を整える」
──たとえばアスリートに勧めている商品で、「一般の人にもそのままおすすめできるな」と感じるものはありますか。吉谷佳代(以下吉谷):入手しやすい商品ですと、コンビニでも買えるヨーグルト飲料ですかね。「夜中のお菓子をやめましょう」というより、「ここで一回それに切り替えてみませんか」と提案すると、意外とすんなり話を聞いてくれるケースもあって。ざっくり言うと「腸内環境を整える」役割を持っています。腸って、栄養の吸収だけじゃなくて免疫にも深く関わっているので、腸内環境が乱れると不要なものがきちんと出ていかなかったり、必要な栄養がうまく吸収されなかったりするんです。
──プロ野球選手にとっては、どんなメリットがありますか。
吉谷:選手たちは、毎日ハードなトレーニングや試合で体に負担をかけていますし、遠征での移動も多いので、どうしても免疫力が落ちやすいんですね。そこで、腸内環境を整えることは、単なる栄養摂取以上の意味を持ちます。日々の“体調管理”の質を高め、「風邪をひきにくい体づくり」を強力にサポートしてくれます。うちの球団でも、インフルエンザ対策などの一環として取り入れてもらっています。
──一般の方が取り入れる場合、どんな飲み方がおすすめでしょうか。
吉谷:おすすめは、夕食時や夜ですね。夜は腸がよく動く時間帯なので、そのタイミングで乳酸菌を入れてあげると、翌朝のお通じがスムーズになりやすいです。風邪が流行り始める時期に、少し早めに飲み始めるのもいいと思います。もちろん、これだけ飲めば何とかなる、という魔法の飲み物ではないんですけどね(笑)。毎日の食事と組み合わせて、「免疫の土台を整える」ツールの一つとして考えてもらえるといいかなと。足りないものを少し足してあげるだけでも、体ってちゃんと応えてくれるんですよね。
──ほかに、仮に普通の会社員が簡単にマネできるような健康法はありますか?
吉谷:まずは「ベジファースト」と「食物繊維を意識すること」です。食事の最初に野菜や海藻、きのこ類から食べる。それだけで血糖値の上がり方がゆるやかになりますし、食物繊維がしっかり入るので、腸内環境にもプラスになります。
──忙しい社会人でも、無理なく続けられそうですね。
吉谷:コンビニでお弁当を買うなら、「まずサラダかカップみそ汁を一緒に買う」。
──野菜が苦手な人にも、なにか良い方法はありますか?
吉谷:無理にサラダを山盛り食べる必要はなくて、具だくさんの味噌汁から始めるのもおすすめです。大根、にんじん、玉ねぎ、きのこを入れるだけでも、かなり食物繊維を稼げますし、温かい汁物は満足感も出やすい。あとは、千切りキャベツやカット野菜をストックしておいて、「とりあえず毎食ひとつかみ足す」と決めるだけでも良いと思います。
「朝たんぱく」の理想は牛丼屋の定食!?
──もうひとつ、よくお話をされているのが「朝たんぱく」ですね。吉谷:アスリートにはもちろんですが、一般の方にも「朝にたんぱく質を入れてあげてください」とよく言います。朝ごはんがパンとコーヒーだけ、あるいは何も食べない、という方が本当に多いんですけど、それだとエンジンがかからないまま一日をスタートしているイメージなんですよね。
──具体的には、どんな朝ごはんが理想でしょうか。
吉谷:なにも完璧を目指す必要はなくて、「たんぱく質源をひとつ足す」ぐらいでいいと思います。卵、納豆、ヨーグルト、チーズ、ツナ缶なんかは、すぐ取り入れやすいですよね。具体例を挙げると「トースト+目玉焼き+ヨーグルト」とか、「おにぎり+納豆+お味噌汁」とか。
──朝から、そういったメニューを作るのは大変かなと少し感じました(笑)。
吉谷:特に、お料理が得意じゃなかったり、朝は食べないという人には、少しハードルが高いかもしれないですね。そんな時は、牛丼屋さんがおすすめなんです。よく朝の時間帯だけ提供されているメニューって、あるじゃないですか。ご飯とみそ汁、小鉢にお野菜と納豆、メインのお肉かお魚がセットになったもの。そのバランスが理想的なので、出勤前にパッと寄って食べるなら簡単に取り入れられると思います。
コンビニと外食を「敵」にしない選び方
──忙しい社会人にとっては、コンビニや外食は切っても切れない存在です。そこはどう考えればいいでしょうか。吉谷:いずれも「敵」だと思うとしんどくなってしまうので、選び方を変えるだけと捉えてもらうのが一番だと思います。アスリートにも、「完璧な自炊ができなくてもいいから、組み合わせで整えよう」と話しています。
──たとえば、コンビニご飯で例を挙げると?
吉谷:おにぎりだけで終わらせずに、「おにぎり+サラダチキン+サラダ」みたいに、たんぱく質と野菜を足してあげる。パスタを選ぶなら、具材が多いものにして、追加でゆで卵をつける。
──飲み会や外食が続く時期は、どう調整すればよいでしょうか。
吉谷:「全部セーブしよう」と思うとストレスがたまるので、まずは〝前後どちらかで調整する〟ことを意識してもらっています。飲み会の前は軽めにしておく、翌朝は和食寄りにして野菜とたんぱく質をしっかり入れる。完璧に帳尻を合わせようとせず、「トータルで見てプラスマイナスを整える」くらいの感覚で大丈夫かなと思います。
ファストフードがNGじゃなく、ポテトの重要性を考える。
──とはいえ、たまにはファストフードも無性に食べたくなります……(笑)。そこはどう考えればよいでしょうか。吉谷:アスリートにもファストフードが大好きな選手、多いですよ(笑)。だから私は、「ファストフードを全部やめましょう」とは言いません。その代わりに、「ポテトは一回やめて、ハンバーガーだけにしよう」とよく提案します。
──ポテトではなく、ハンバーガーだけにする理由は?
吉谷:栄養素で見ると、実はハンバーガーってすごくよくできたメニューなんです。
──とっても良いことを聞いた気持ちになりました(笑)。ちなみに、ポテトは?
吉谷:ポテトは、ほとんどが「炭水化物と脂質」のかたまりです。たまの楽しみならいいんですけど、セットでLサイズを頻繁に食べると、どうしてもエネルギーオーバーになりやすい。なので、「ハンバーガーチェーンに行くな」ではなくて、「ハンバーガーチェーンに行くなら、ポテトを控えて、ハンバーガーだけにしよう」という代替え提案をします。
──では、ハンバーガーだけを注文するのが理想なのですね。
吉谷:シンプルに「ハンバーガー単品+飲み物」にする。飲み物は、できれば糖分の少ないお茶や水、無糖のコーヒーが理想です。どうしてもポテトが食べたい日は、キッズサイズをシェアするとかでもいいと思います。大事なのは、「全部禁止」にしてストレスをためるのではなくて、「どこをどう代替えするか」を一緒に考えることですね。
──スイーツについても、同じ考え方が使えそうですね。
吉谷:そうですね。「スイーツを一生やめましょう」は現実的ではないので、「毎日ではなく週に2~3回にする」とか「夜ではなく、お昼から15時くらいにする」など、“頻度とタイミング”を変えるだけでも違います。ケーキをやめて和菓子にする、アイスをミニサイズにする、といった代替えも使えますね。
「意志」に頼らず仕組みで整える
吉谷:そう言ってもらえると嬉しいです。スポーツ栄養って、特別なサプリメントや難しいルールの話だと思われがちなんですけど、実は「一般の人がそのまま真似しても効果のある、シンプルな工夫」がほとんどなんです。
──読者の方にも健康や体型維持などで食事に悩みを持つ人が多いと思います。そんな方々に一言、メッセージをお願いできますか?
吉谷:「意志が弱いからできない」と自分を責めないでほしいな、と思います。私自身、アスリートに対しても、意志に頼らずに「どう代替えするか」「どういう仕組みにしたら続くか」を一緒に考えるようにしています。
今日から全部を変えなくても大丈夫です。まずは「最初に野菜を食べる」「朝にたんぱく質をひとつ足す」「ハンバーガーチェーンではポテトをやめてハンバーガーだけにする」といった、小さな一歩からでいい。そうした積み重ねが、結果的にはプロの現場でも通用するような、“プロ級の食べ方”につながっていきます。やっぱり、食事をする時は楽しく食べるのが、何より大切ですからね。
<取材・文/橋本未来 撮影/吉村竜也>
吉谷 佳代(よしたに・かよ)
パワーニュートリション代表。管理栄養士、公認スポーツ栄養士。
2001年徳島大学医学部栄養学科 卒業後、食品メーカーの研究員として健康食品開発や、スポーツサプリメントの研究開発に従事。その傍ら、多くのアスリート、学生スポーツ、ジュニアへの栄養指導、食育イベントに携わる。2013年に独立。以降、ジュニアからトップアスリートまで幅広い競技の選手に対し、栄養サポートを行う。現在、プロ野球阪神タイガース、実業団女子バレーボール大阪マーヴェラスのチーム専属栄養士。
【橋本未来】
主に関西圏で広告関係やマガジン系の仕事をしながら、映像の企画・構成なども手掛ける。芸人さんやちょっと変わった経営者さんなどの話を聞くのがライフワーク Twitter:@h_mirai1987
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