劇場版アニメ『チェンソーマン レゼ篇』の主題歌として話題に
曲目は劇場版アニメ『チェンソーマン レゼ篇』の主題歌「IRIS OUT」です。注目すべきは、歌詞の大胆な表現。<頸動脈からアイラブユーが噴き出て>とか<ザラメが溶けてゲロになりそう>などの刺激的な言葉が印象に残ります。
“頸動脈から噴き出て”という言い方からは大量の血液が飛び散る光景が想像されるし、<ゲロになりそう>は、そのものです。
歌詞の変更はあるのか?
もちろん、いずれも表現の自由から大きく逸脱するものではありません。特定の誰かを誹謗中傷するのでもなければ、著しく公序良俗に反しているわけでもない。アニメの世界観を理解した米津玄師の姿勢が生み出した筆圧の強さ。それが「IRIS OUT」の大ヒットにつながっているのだと思います。
NHKも『チェンソーマン』と「IRIS OUT」に通底するコンセプトを認識したうえでオファーしたのでしょうから、歌詞の変更はないはずです。大晦日のテレビで、<頸動脈からアイラブユーが噴き出て>、<ザラメが溶けてゲロになりそう>という歌が聴けるのであれば、それは静かな革命と言っていい出来事でしょう。
紅白史に残る“逸脱”の系譜
これまでにも紅白には伝説的なパフォーマンスがありました。まずは1990年に東西統一したドイツのベルリンから計3曲17分にも及ぶ演奏を披露した長渕剛です。予定を大幅にオーバーしてしまったため、その後他の歌手の曲を短縮せざるを得なくなってしまった逸話も残っています。
他には、1992年に井上陽水のカバー「東へ西へ」で出場した本木雅弘。首から大量のコンドームをぶら下げ、当時世界的な問題となっていたエイズの啓発を兼ねた伝説的な演出でした。
その前年には「情けねえ」を歌ったとんねるずがパンツ一枚で登場。しかし二人の背中には「受信料を払おう」の文字が。今思うと、ただの悪ふざけではない重層的なユーモアを感じます。
当時いずれも大きくニュースで取り上げられ、その後も語り継がれています。
アウトサイダーが紅白を変化させる
けれども、「IRIS OUT」を歌う米津玄師はこれらとは質が異なります。そのインパクトは、ゴシップ的に世間を派手に騒がせるようなタイプのものではないからです。彼の曲が持つざらついた質感が、根本的に紅白の書き割りの世界にそぐわないこと。その決定的な違和感の中にこそ、米津玄師の曲がそのままの形で放送される価値があるのですね。
根っからのアウトサイダーが、大晦日をジャックする。
米津玄師の「IRIS OUT」には、漆黒の夢が映し出されているのです。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。
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