中国政府が日本への渡航自粛を呼びかけ、旅行業界が揺れています。
 2025年11月の中国人観光客は前年同月比で3%の増加。
1月から11月までの伸びは37.5%であり、明らかに鈍化しています。

 改めてインバウンドに依存しすぎることのリスクが顕在化しました。本質的な解決策として、日本人の旅行需要を喚起する必要がありそうです。

中国人宿泊者“4割”の観光地も…中国の渡航自粛で見えた「イン...の画像はこちら >>

バブル崩壊後の観光地を救ったが…

 中国人観光客の減少はエリアによって濃淡があります。それは観光地ごとの国別宿泊者割合を見ると明らか。例えば、2025年9月に中国人宿泊者の外国人宿泊者に占める割合が最も高いのは静岡県で40%でした。全国平均は19%ほど。静岡は9月に限らず、慢性的な依存状態が続いています。

 これはバブル崩壊後に熱海などの主要な観光地が衰退したことを受け、2010年ごろから県内の各観光地で補助金を活用した中国人観光客の誘致活動を積極化したため。

 富士山静岡空港が2024年に行なった訪日客の実態調査によると、外国人利用者の2割を中国人が占めています。調査対象となった中国人の日本への訪問回数は平均で8.5回、静岡県中部地域への訪問回数は4.4回と、他の国の観光客と比べて多いことがわかりました。しかも、滞在期間中の平均宿泊数は11泊で、そのうち静岡県中部地域は8.8泊とこちらも最も多くなりました。

 つまり、静岡県を気に入った中国人リピーターが多く訪れていたのです。
観光地にとっては贔屓客と言えるかもしれません。バブル崩壊以降の観光業の衰退を中国人観光客で補えたわけですが、日中関係の悪化で再び暗黒期に入ってしまったのです。

 中国人観光客に依存しているエリアは他に、宿泊者数の39%を占める和歌山県、32%の兵庫県、30%近い山梨県、奈良県などがあります。

 特に宿泊を伴う旅行は観光地に落ちる金額が大きく、大打撃となる可能性があります。

 そして、中国人観光客は旅行消費額全体の2割以上を占めており、百貨店や免税店、ドラッグストアでの購買意欲が強いことも特徴的。阪急阪神百貨店は日中関係の緊張の高まりを受け、2025年11月後半は海外VIP顧客以外のツーリスト客の売上高が約2割減少したといいます。

政治問題で韓国人観光客が激減した年も

 インバウンドに依存することの危険性は、かねてより指摘されていました。それが顕著に出たのが2019年の韓国人旅行者の減少。海外観光客数は全体で2.2%増加したものの、韓国人観光客は26%減少したのです。

 日本は2019年に安全保障上の理由を挙げて韓国向けの半導体素材などの輸出管理を強化しました。背景には徴用工など歴史認識問題や韓国海軍による自衛隊機への火器管制レーダー照射問題があったと言われています。

 韓国の反発は強力で、日本製品の不買運動に発展。日本への旅行もそのターゲットになりました。


 インバウンドは政治の動向に左右されやすいうえ、為替の影響を受けやすいという特徴もあります。中長期的な視点で観光業を盛り上げるためには、国内の観光客を増やすことが重要。実際、国土交通省による観光白書では、「国民の旅行ニーズを適切に把握し、ニーズに沿った需要喚起策を検討することが求められる」との提言がなされています。

 ポイントは2024年の日本人国内宿泊旅行の消費額が20.3兆円で、2019年の17.2兆円を2割近く上回っていること(日本旅行業協会「数字が語る旅行業2025」)。宿泊者数も消費額もどちらもコロナ前を超えているのです。つまり、旅行業界は新たな体験価値を生み出して旅行者に提供し、盛り上げていく必要があります。

「第2のふるさとづくり」は成功するか?

 観光庁が目を付けたのが都市部に住む若者でした。

 コロナ禍で、旅行における混雑や密を避けて自然に触れる旅のニーズが形成され、日常生活ではリモートワークの普及でライフサイクルも変化しました。

 そうした状況を受けて、「何度も地域に通う旅、帰る旅」という新しい旅のスタイルを推進するため、「第2のふるさとづくり」プロジェクトを立ち上げたのです。このプロジェクトは地域との交流や地域運営への参画を通じて、繋がりを生み出すというもの。伝統工芸や祭りなどのイベント、観光資源などを軸に若者が何度もその地を訪れるロールモデルを創出しようとしています。

 ただし、「第2のふるさとづくり」は2021年10月にスタートしましたが、目覚ましい成果が出ているとは言い難いのが現状です。
認知度も高くはありません。

 しかし、若者の移住者が増加しており、地方への関心は高まっています。また、消費動向も「モノ消費」「コト消費」を経て、現在は「トキ消費」の時代。「トキ消費」とは、博報堂生活総合研究所が提唱する概念で、同じ志を持つ人とその場でしか味わえない盛り上がりを楽しむ消費行動。

 イベントなどの貴重な瞬間に立ち会うといったものや、貴重な体験を創出する場を応援するという意識が背景にあります。

 バブル期はモノを消費して他者とのコミュニケーションや差異化を図っていましたが、それ以降は他者と共感する体験に価値が置かれるようになりました。

 そこから、SNSが発達したことで貴重な体験が可視化されるようになると、それを共有してコミュニケーションを図ることに新たな価値を見出すようになったのです。

 中国人観光客の減少が経済に与える負の影響ばかりが取り沙汰されています。しかし、今こそ苦境にある観光地を応援したいところ。観光地側も「貴重な体験ができる」ということをもっとアピールするべきなのではないでしょうか。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。
得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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