2025年はビール会社にとって激動の年でした。アサヒグループホールディングスは9月に大規模なシステム障害に見舞われ、生産ラインが停止。
投資ファンドの傘下にあったオリオンビールは9月にプライム市場への上場を果たしています。
 とりわけインパクトが大きかったのが、サッポロホールディングスが虎の子の不動産事業売却を決定したこと。3300億円という巨額の利益が見込まれる一方、中期的な苦戦も予想されます。

アサヒは「1兆円超」、キリンは「撤退」…サッポロが直面した“...の画像はこちら >>

安定した収益基盤を構築するために…

 サッポロホールディングスの不動産事業は、サッポロ不動産株式会社を中核企業とし、「恵比寿ガーデンプレイス」「サッポロファクトリー」など、複合施設や商業施設、オフィスビルなどの開発、運営を行ってきました。

 2024年7月にアクティビストファンドの3Dインベストメントが、サッポロ不動産開発をスピンオフすることなどを提案。物言う株主との対立が鮮明になりました。3Dインベストメントは2024年1月にサッポロの筆頭株主になっています。

 3Dインベストメントといえば、富士ソフトを巡るアメリカの投資ファンドKKRとベインキャピタルの激しい争奪戦のトリガーを引いたやり手のアクティビスト。西武ホールディングスが、赤坂プリンスホテル跡地に建設した「東京ガーデンテラス紀尾井町」を売却するきっかけを作ったとも言われています。

 3Dインベストメントはサッポロの主力である酒類事業の業績不振を不動産事業がカバーしていると批判。不動産事業を切り離すべきだと訴えました。

いかんともしがたい海外事業の不調

 サッポロの酒類事業の不調の要因は主に海外。2025年度の海外酒類事業の売上収益予想を、当初の950億円から865億円に85億円下方修正。4億円としていた事業利益はゼロへと引き下げています。


 海外事業の不調は以前から表面化していました。2023年12月期にアンカー・ブリューイング・カンパニーを解散。60億円の損失を計上しました。アンカー・ブリューイングは2017年に全株を取得した会社で、「アンカースチームビール」というクラフトビールをアメリカで販売していました。

 2024年12月期にはストーン・ブリューイングののれんの減損損失139億円を計上。ストーン・ブリューイングは2022年6月に買収したばかりのクラフトビールメーカーでした。

 3Dインベストメントは短期間でストーン・ブリューイングののれんの減損損失を計上していることを特に問題視し、公開質問状を送付。資本規律を欠いていると、経営陣の責任を厳しく追及しました。

不動産事業で「事業利益全体の3割」を稼いでいた

 サッポロの不動産事業の売却額は4770億円。3300億円の計上益を見込んでいます。不動産事業の切り離しによって得たキャッシュは、会社の長期目標であるROE10%以上の達成、2030年のROE8%以上を達成するための投資に使われる予定。2024年12月期のROEは4%程度であり、高い目標が掲げられています。

 ROEは純利益を株主資本で除して算出するもので、自社株買いで数字を高めることもできますが、巨額の事業売却を行ったサッポロの場合、手元資金を有効に活用し、純利益を高める必要があります。


 サッポロは2025年1-9月において連結で201億円の事業利益を出しています。そのうち、3割に相当する61億円は不動産事業が生み出したもの。酒類事業は162億円もの事業利益を創出しているものの、成長事業に位置づけている海外酒類は1億円の赤字。国内は大幅な増益ですが、これはビール類の価格改定効果によるもの。日本のビール市場は緩やかな縮小が続いており、中長期的な収益基盤としては当てにできません。

積極的に大型買収を進めるアサヒ

 サッポロは海外ビール事業強化などを目的として、3000~4000億円程度の成長投資を計画しています。

 しかし、海外のビール会社の買収は巨大化しており、成功へと導くのは簡単ではありません。

 競合のアサヒグループホールディングスは2025年12月にイギリスの蒸留酒大手ディアジオから東アフリカ事業を買収すると発表しました。この買収には4654億円もの巨額資金が投じられます。

 アサヒは2016年以降、1兆円を超える海外企業を対象とした大型買収を次々と決めてきたのです。

キリンの事例が示す「一寸先は闇」

 一方で海外企業の買収は何が起こるかわかりません。そのリスクが露呈したのがキリンホールディングスによるミャンマーのビール会社ミャンマー・ブルワリーの買収でした。

 キリンは2015年に同社を700億円ほどで取得。
しかし、2022年に撤退を宣言しました。

 ミャンマーは2010年代に市場開放が進み、「アジアで最後のフロンティア」などと呼ばれるようになりました。急速な経済成長が見込まれていたのです。キリンが投資を決めたのはちょうどそのタイミングでした。

 しかし、2021年にクーデターが起こると、実質的な指導者だったアウンサンスーチー氏が拘束され、再び政情不安へと陥りました。

 キリンは2011年にも買収したブラジルの大手ビール会社が創業家間の権力闘争に巻き込まれるという不運にも見舞われていました。

 ビール会社の買収は伸びしろのある新興国で活発に行われますが、それだけに事業以外の要因で会経営が不安定になりやすいのです。

 海外企業の買収で失敗しているのはサッポロも同じ。しかし、巨額資金を手にした今、大型のM&Aが視野に入ります。次は決して失敗できません。その手腕が問われます。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。
大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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