同作はヤンキーやギャルの男女11人による恋愛リアリティショー。
この作品をプロデュースしたのは、元ヤンという経歴をもつMEGUMIだ。まず、まともに学校に通ってこなかったであろうヤンキーの男女を学校に集めて共同生活を送らせるという設定が素晴らしい。
ヤンキーの気質があれば「停滞」が起こりにくい
同時に衝撃でもあった。1978年生まれの筆者が中学生の頃にはこういうヤンキーがわずかながら存在したが、令和の現在にもいたという衝撃。海外で『ラヴ上等』は「ヤクザテラスハウス」と呼ばれているそうだが、この通り名は土台が狂っているからこそである。恋リア飽和時代の昨今、みんなどこかで新しいものを求めていた。そのタイミングに、「反社会性×恋愛」というかけ合わせを思いついたMEGUMIの目の付けどころに「まだ、この手があったか!」と膝を打った。
ヤンキーという軸を加えたことで生じる効果として最も期待できるのは、恋リアにとって最大の敵である「停滞」が起こりにくいという点だ。うれしくなったり怒ったり、なにかしらの感情が生まれたら即行動。だから、恋が生まれるのも秒。結婚年齢が早いでおなじみのヤンキーだが、この生理が『ラヴ上等』にナチュラルなスピード感を与えてくれるはず。
見世物小屋のように消費してしまうのは…
加えて、世界中に向けて配信される番組内でコンプラ度外視のヤンキーたちが思いっきり「殺すぞ」と口走る直球勝負ぶりは、多くの人にカルチャーショックを与えるはずだ。懸念する点がないわけではない。
後述するが、『ラヴ上等』には複雑な出自や背景を持つ参加者が少なくない。それらをネタとして消費してしまう危うさである(参加者当人は納得しているのかもしれないが……)。
同様の出自、背景に悩む人が『ラヴ上等』を見てダメージを受けるもケースだってあるかもしれない。そういう意味の危うさがある。とはいえ、一気見してしまったのだが。
開始5分30秒で始まった参加者同士の喧嘩
『ラヴ上等』初日は、参加者が一人ひとり登場するお披露目回。一人目は、特攻服を着て登場した30歳。現在はキャバクラを経営しており、かつては暴走族総長を務めていたという男性「つーちゃん」だ。顔つきとのギャップが激しい「つーちゃん」というニックネームに爆笑しつつ、「最終学歴:少年院」という経歴にいきなり心掴まれた。
二人目は、川崎の暴走族で総長を務めていた22歳の建築業の男性「ミルク」だ。
ミルクが教室に入ってきた途端、「なに見てんだ、コラァあああー!」とつーちゃんは激昂。再生して開始5分30秒で、いきなり角刈りメガネと角刈りメガネによる喧嘩が始まるのだから、あきらかに我々の知っている恋リアではない。
「角刈りメガネ同士の押し相撲」は必見
そもそも、教室内にいるのは一人だけなので見られるに決まっているが、その当たり前をすっ飛ばして喧嘩をふっかけにいく攻め気が我々には非日常すぎる。しかも、2人のつかみ合いが始まったら、喧嘩を制止する役割として屈強なセキュリティ3人が登場。恋リアなのに喧嘩を止めるためのセキュリティが常駐しているのもすごい。
また、そのセキュリティがGoProを装着しており、セキュリティ目線の迫力ある映像が視聴者に届けられるという気の利いたシステムである。ハナからセキュリティを発動させる気まんまんなのだ。
結果的にこの喧嘩は殴り合いに発展せず、胸筋を押し付け合うだけのカブトムシバトルみたいな押し相撲で収まり、ホッと一安心。お互いが威嚇し合った後、ミルクが凄みながら「座れよ、テメエ! 恋しに来たんだろ!!」と、急に正論を言いながらキレだすその緩急には息ができなくなるほど笑った。
そして、一触即発かと思いきや着席した途端「よろしくなあ!」と声を掛け合って素直にコミュニケーションを取り始める2人。いったい、どういう情緒なのだろう?
血の気が多いくせにすぐ仲良くなるヤンキーの特徴が出た、重要シーンである。ネチネチ引きずるようなインターネットの世界観に染まっていた筆者からすると、ここもカルチャーショックだった。
参加者に「元ヤクザ」が…大丈夫か?
このように、教室で次々に挨拶と自己紹介をしていく参加者たち。各々のバックグラウンドが、また軒並み壮絶だった。「施設で育って本当に憎い人を殺すために格闘技を始めた」と信じられない自己紹介をし始めたのは、塗装業/タレントの25歳女性「ベイビー」。ほかにも、いじめてきた先輩を階段から突き落として高校を退学した「てかりん」、木刀を片手に登校して力尽きるまで殴り合いをしていた「きぃーちゃん」など、全員のエピソードがハードモードだ。
最後に登場した30歳の男性「ヤンボー」は「元ヤクザ」という過去をはっきり口にしていて怖すぎる。世界中へ配信される『ラヴ上等』で過去の逮捕歴を堂々と明かしてしまっていたが、彼は大丈夫なのだろうか?
昭和と同じく、令和のヤンキーも綺麗だった
そして、22歳の女性「おとさん」である。「海外で人身売買されそうになった」「海外でさらわれたときに教えてもらったアインシュタインの名言を背中に彫った」と驚愕のパワーワードを連発させた彼女だが、その背景には壮絶な過去があった。「ちっちゃい頃は両親が過保護で、送り迎えや門限があるタイプ。生徒会長をやったり成績はオール5だったけど、16歳でレイプされて」(おとさん)
真面目にがんばっていたのに、他人のせいで人生を変えられたおとさん。こんなふうに過去を打ち明けられるようになるまで、たくさん悩み傷ついたことだろう。そう思うと苦しい。絶対に幸せになってほしいと思った。
第一印象として、女性陣がみんな綺麗だ。昭和の頃から「ヤンキーは美人が多い」と言われていたが、令和のヤンキーも綺麗である。
一方の男性陣は、見た目はヤバいが実は経営者だったり職人だったり、本質的にはちゃんとした人が選ばれている印象だ。
薬物使用疑惑で参加者が退場…むしろ見せ場に
エピソード3が、ひときわ波乱づくめだった。なんと、ヤンボーが薬物使用疑惑で退学になってしまったのだ。大人になってから退学させられるという憂き目……。そもそも恋リアなのに薬物使用疑惑で参加者が退場するという流れが意味不明だし、恋愛以外の情報量が多すぎる。
また、そういう疑いがある者を退学させる倫理観はいいが、一方で「クスリを吸っていたのでは?」というヤンボーへの疑惑をそのまま放送してしまう番組の人権意識には疑問符がつく。彼は警察にマークされてしまわないだろうか? 『ラヴ上等』に倫理観があるのかないのか、よくわからない。
本来ならば番組存続さえ危うくなるはずのハプニングが、むしろ見せ場になってしまう『ラヴ上等』。やはり、ヤンキーたちを一つの箱に入れて高みの見物をする貴族感が同作にあるのは否定できない。
あと、この後の展開を考えるとヤンボーの退場はつくづく残念だった。参加者のなかで最も本物っぽく、それでいてセクシーで、『ラヴ上等』の顔的存在に据わっていたのは、まぎれもなく彼だったからだ。
“逮捕歴トーク”で打ち解け合う男女
ヤンボー退場後、転校生として参加したのは25歳のホスト「てんてん」である。途中参加組である彼は、おとさんを乗馬デートに誘った。このときの2人のやり取りは、『ラヴ上等』ならでは。乗馬しながら、こんな会話だった。
てんてん「捕まったりしたことあったの?」
おとさん「海外でね」
てんてん「すごいやん」
アイスブレイクは逮捕歴トークから。乗馬しながら懲役の話をする治安の悪さである。
おとさん「グレたのは高校1、2年くらいのとき。レイプされたのがきっかけで」
てんてん「マジで? 僕、16のときに一回鑑別所に行って、そこから次は少年院」
女の子がレイプされた過去を告白したのに「マジで?」で済ませ、「僕は~」とあっさり自分の話をし始める流れはホラーだ。しかも、「水泳習ってたよ」くらいのテンションで「少年院入ってたよ」と口にする世界観。この界隈にはこの界隈のコミュニケーションがある。
「水はヤベえだろ」で『ラヴ上等』の世界観が成立
女性陣のほうでも1人の転校生が途中参加した。エピソード4から登場した27歳のショーダンサー「あも」だ。メンバーは彼女を迎え入れるべく、あもが働く六本木のクラブを訪れた。全員が客席で見守るなか、ショーダンサーとして取り組むパフォーマンスを披露したあも。
その最中、客席にあもが水を飛ばす演出があり、これがベイビーの逆鱗に触れてしまった。3回も水を飛ばされ、怒髪天を衝く勢いでブチギレるベイビー。あもが自己紹介のために近づいてきた途端、彼女は自分が飲んでいた氷入りのレモンサワーとコップをあもへ投げつけた。
そのまま店を後にするベイビー。
たしかに、ショーダンサーの尻や素足が浸かった濁り色の水をかけられたら不快になる人もいるだろう。そんな思いから発せられた「水はヤベえだろ」。この怒りの一言に対し、スタジオにいるMC・永野が被せた「グレムリンかよ」という指摘は大正解すぎる。
さらにすごかったのは、「水はヤベえだろ」の後にベイビーが口にした「水きめえだろ」という言葉だ。水をかけられたのは嫌かもしれないが、「水がキモい」という世界線はまったく理解不能。水に罪はないのに「水はきめえ」と乱暴にキメウチしてしまうあたり、とことん『ラヴ上等』的だ。
そして、その後に続く「水かけてくる奴、一番嫌いなんだよ」というぼやきは、我々にはまったく意味がわからない。聞いたことのない吐露である。
炎属性のヤンキーに水は厳禁
作品全体を考えるうえでも、エピソード4はターニングポイントだった。男性陣に比べてヤンキー感が足りていなかった、それまでの女性陣。しかし、おっとりキャラだったベイビーも、実はしっかりヤンキーだった。それが、ここで明らかになった。『ラヴ上等』の世界観を成立させるうえで、非常に有益な覚醒だったと思う。あと、水をかけられた直後にあもへガンを飛ばすベイビーのにらみ顔は本当に美人だった。さすが、ヤンキー。炎属性のヤンキーに水は厳禁。だからこそ、このパンチラインは生まれたということ。
恋リアに沿った解釈をすると、それまでベイビーといい雰囲気だった27歳の男性「二世」があもを見た途端「かわいい」を連呼していたのもおもしろくなかったはず。ベイビーがマジギレした瞬間、隣にいた二世が「見てはいけないものを見てしまった」という表情をしていたのも見逃せない。
逆効果だった「体を擦り寄せるスキンシップ」
いつしか、あもに向かっている“モテ男”二世の矢印。そんな彼に一途なのがおとさんだ。好きというより「執着している」という言い方が合っているかもしれない。2人でサウナに入ったら体を擦り寄せ“いつでも抱ける感”を出し、一方的なスキンシップ(性的な)で男の気を引こうとするやり方が切ないのだ。
しかも、まだ付き合ってもいないのに「寂しかった。ほかの女の子を誘わないで」と泣きだすおとさん。見ているこっちのほうが苦しくなる。
ほかの恋リアと比べると、『ラヴ上等』は人とのつながり方を観察するだけで参加者の過去が見えやすい。過干渉の親に育てられたために“見捨てられる恐怖”と闘い、女性の武器を差し出して愛を手に入れようとするおとさん。「施設で育った」という過去の不幸を打ち明けて愛を手に入れようとするベイビー。
しかし、脈のない男に向けたボディタッチ系のアピールは逆効果だ。事実、体を擦り寄せてくるおとさんのことを、いつも二世は死んだ目で見ている。
用意した手紙から垣間見えた本来の姿
いいシーンがある。子ども食堂で社会奉仕活動をするイベントが用意されていた、羅武上等学園での2週間。このイベントの最終日に、おとさんは子ども食堂のオーナー・しょうこさんに向けた手紙を読み上げたのだ。そこに書かれていたのは、「私たちのような(タトゥーの入っている)見た目で元ヤンという経歴もあるにもかかわらず、大切な子どもたちを関わらせてくれたことに感謝します」という言葉だった。
手紙の節々から、おとさんが大人であり才女であることが垣間見える。二世の前以外では素敵な彼女。意中の相手に対しても、子ども食堂のときのような女性でいられたならばおとさんは強い。彼女の武器は、男にしなだれかかることではないと思うのだ。
“Z世代のヤンキー”が持つ意外な価値観
22歳のミルクは序盤からベイビーに一途だった。しかし、エピソード5あたりから彼の恋の炎は消え始めた。「今まで付き合った彼氏からは頼られてばかりだった。本当は私は弱音を吐きたいけど、ミルクには弱音を吐けない」と、現在の心境を告白したベイビー。彼女は年下のミルクに頼りがいのなさを感じたのだろう。その言葉を受け、ミルクの心境に変化が生じた。
「22の俺に『甘えたいんだよね』と言ってきて。いや、俺だよ甘えたいのは!」(ミルク)
さらにミルクの恋心が覚める要因に、子ども食堂で行われるイベントの準備中の一コマがあった。“職人”という自分との共通項を持つベイビーに心惹かれていたはずが、食堂内の壁を塗装する際にマスキングをしっかりやらず、「調色」という言葉を知らなかった彼女の仕事ぶりを目の当たりにし、憤るミルク。「本当に職人? あんな完成度で!?」と、ベイビーに幻滅し始めたのだ。
22歳のミルクには、「男らしい」「女らしい」という概念があまりない。だから、「おれがベイビーを守る!」というモードに入りにくい。あくまで対等なパートナーシップを求めているし、相手をリスペクトできるか否かがなにより重要。好きな人の仕事を見て気持ちが冷めていく過程が、たまらなくリアルだったのだ。
自分に振り向いてくれず、嫉妬の感情から“好き避け”になったという見方もたしかにできる。でも、異性に対する評価軸のベースが仕事への熱意だったために気持ちが揺れたという事実もきっとあったと思う。
いい価値観だ。ミルクはZ世代のヤンキーである。
昔ながらのヤンキー気質を持つ最年長が座長的存在に
ミルクとは違い、昔ながらのヤンキー気質を持つのがつーちゃんだ。事ある毎に「施設育ちだから愛されたことがない」と口にし、試し行動をしがちなベイビー。そんな彼女が素直な気持ちを吐露した。
「結婚しても不倫する人だっている。ならば、『最初から永遠なんて誓わなきゃいい』と思っちゃって。彼氏・彼女という形にならなくても、付き合う前の関係なら永遠の別れとかないし、変にお互いが期待して傷つくこともないのかなって」
こんなベイビーの苦悩に、つーちゃんが大人の言葉でアンサーした。
「でも、付き合ってみないと見せない顔、わからないことってあるからね。いいところもあるだろうし、悪いところも見るだろうし」
出会いは最悪だったはずのミルクでさえ、終盤では「信じられるのは塚原(つーちゃんの本名)だけっすよ」と口にしている。気づかないうちに、『ラヴ上等』の座長的存在へと躍り出ていたつーちゃん。
SNSを見ると、視聴者内でも男性陣の一番人気は彼だったらしい。恋愛は「イケメン」や「女子力」の勝負ではない。やはり、恋愛は「人間力」で決まる。
恋愛面が進むにつれて作品の魅力が減退
エピソード10は卒業式。北九州のド派手成人式ばりに登場する参加者一同の出で立ちには驚愕した。特に、これから盃を交わしにいくような恰好で現れたつーちゃんから目が離せない。ここで男性陣→女性陣への告白が行われたが、結果がどうなったかはぜひご自身の目でご確認いただきたい。
ただ、いかんせん2週間で恋をするというスケジュールは厳しかった。あきらかに恋愛スイッチがまだ入っていない者が数名いたからだ。あと数週もあればおとさんの新しい魅力が出ていただろうし、ミルクには別の展開もあったはずだ。
とはいえ、釈迦寝しながら一気に見てしまったのも事実。ヤンキーを一つの箱に入れるだけで名作になるのだから、『ラヴ上等』は企画力の勝利である。
ただし、おもしろさのピークはエピソード4(「水はヤベえだろ」)までだった。恋愛面が進んでいくにつれておもしろさが減退するという、不思議な現象が起きていたのは否定できない。ヤンボーの退場によりギスギス感が薄れて斬新な魅力が後退、次第に普通の恋リアっぽくなってしまった感がある。
ヤンキーやギャルは感情最優先かと思いきや、意外にくよくよ、なよなよすることもわかった。妙に行儀よく恋していたものだから、最終話あたりはヤンキーである必要性をほぼ感じなくなっていた。
加えて、「この2人を応援したい!」という推しが生まれず、恋リアではなくただのリアリティショーへと化していった感覚もある。参加者のバックグラウンドを掘り下げるイベントがもう少しあってもよかったか?
ちなみに、『ラヴ上等』はシーズン2も行われるようだ。今度の舞台は海になるらしい。今回は山奥で、次回は海。夏のほうがヤンキーは映えるし、海とヤンキーの相性は抜群。まさに、「水はヤベえだろ」だ。
シーズン2はヤベえだろ、となる神展開を期待したい。
<TEXT/寺西ジャジューカ>
【寺西ジャジューカ】
1978年、東京都生まれ。2008年よりフリーライターとして活動中。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレス、ドラマ評。『証言UWF 最後の真実』『証言UWF 完全崩壊の真実』『証言「橋本真也34歳 小川直也に負けたら即引退!」の真実』『証言1・4 橋本vs.小川 20年目の真実 』『証言 長州力 「革命戦士」の虚と実』(すべて宝島社)で執筆。
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