好立地のタワーマンションに、惜しみなくかけられる教育費。一見すれば、誰もがうらやむ“親ガチャ成功組”に映る。
だが高層階の窓の内側には、静かに心をすり減らす子供たちがいた――。

逃げ場のない無菌室が子供の発育をねじ曲げる!

都内のタワマンに住む12歳の少女は「トー横が一番ラク」…心を...の画像はこちら >>
 都内湾岸エリアにそびえ立つ40階超の高級タワーマンション。その31階にある青山結衣さん(仮名・14歳)の部屋は、日中でも遮光カーテンが閉め切られたままだ。

「学校に行こうとすると、吐き気がするみたいなんです。最近は何を話しかけても『別に』『どっちでもいい』としか言わなくなって……部屋も荒れ放題になってしまった」

 そう肩を落とすのは、父親の健一さん(仮名・52歳)。都内の有名企業に勤める健一さんにとって、名門私立中学に進学した結衣さんは、自身のキャリアを投影するような自慢の娘だった。

 だが、現在登校は稀で、一日の大半をベッドの上でスマホを眺めて過ごしているという。

「塾に家庭教師と、中学受験には500万円以上はかけてきたが、このままでは中卒になってしまいます……」

 そう語る健一さんが積み上げてきた期待やカネは、今や水泡に帰そうとしている。

子供にも伝わっているタワマンの階数マウント

都内のタワマンに住む12歳の少女は「トー横が一番ラク」…心を病む“タワマン住みの子供たち”が増加しているワケ
「10年ほど前に買ったタワマンは1億円弱。娘にも部屋を与えましたが、すっかり荒れ果ててしまった」(青山さんの父親)
 過熱する中学受験の裏で、こうした「早すぎる燃え尽き」が深刻な影を落としている。文部科学省の調査(’25年公表)によれば、小・中学校の不登校者数は約35万人と過去最多を更新。

 その要因のトップが「無気力・不安」という心の摩耗だ。将来を嘱望されたはずの子供たちが、スタートラインに立つ前に力尽きてしまう――。

 こうした悲劇は今や日本中の教室で起きているが、「とりわけ、タワマンに住む子供たちの間に心を病む児童が増えていると感じる」と語るのは、不動産ジャーナリストの榊淳司氏だ。

「高い密閉性と、近隣関係の閉鎖性。
これがタワマンの特徴でしょう。母親たちはお互いを『何階の◎◎さん』と呼び合い、タワマン内には見えない序列が張り巡らされている。その空気は幼稚園児でも察知しており、友達の家を訪ねる際も、階数や家庭の“格”を無意識に測ってしまいます。あからさまなマウントではなく、むしろ特徴的なのは最初から一定の距離を保ち、深く関わらないという態度です。そんな歪んだ“選民意識”が人と人の間に壁をつくり、子供の心を静かに孤立させていく」

中受ラプソディが描くのは育児の外注化による歪な家庭像

都内のタワマンに住む12歳の少女は「トー横が一番ラク」…心を病む“タワマン住みの子供たち”が増加しているワケ
※画像はイメージです
 そこに中学受験の狂騒だ。教育現場に詳しい東京高校受験主義氏は、タワマンが密集するエリアの公立小学校で頻発する学級崩壊を指摘する。

「タワマン密集地では、中学受験率が生徒の5割を超える小学校もあり、塾のランクや志望校による子供同士のマウント合戦が日常化。下位クラスを馬鹿にする言葉の暴力が不登校を誘発し、家でのストレスを学校で爆発させる子や、学校の授業を軽視して荒らす子が後を絶たない」

 プロ家庭教師の西村則康氏も、タワマンに住む高所得層の育児について、ある顕著な傾向を指摘する。

「幼稚園の年長あたりから週7日の習い事は当たり前。中学受験塾の最高峰であるSAPIXの授業さえ『復習』にするための早期詰め込み教育が横行しています。親たちが口にするのは『コスパ』や『PDCA』といったビジネス用語ばかり。育児をビジネスのように外注し、最適化すべきプロジェクトと考えている人も少なくありません」

 教育の外注化が進んだ結果、本来の「親子のつながり」が希薄になり、先に述べたタワマンの閉鎖性も相まって、少なからぬタワマン・キッズが苦悩しているのだ。

「娘がトー横で補導」…わかりにくい非行が横行

 家にも学校にも居場所のないタワマン・キッズの中には、自由を求めて夜の街へと漂流する児童もいる。新宿・歌舞伎町、通称「トー横」。
深夜の喧騒の中に、彼女はいた。美月さん(仮名・12歳)だ。

「家は中央区にあるタワマンの高層階です。けど、パパもママも仕事でほとんど家にいない。テーブルにお金が置いてあって『これで何か食べて勉強してなさい』って。家も学校も嫌い。ここが一番ラク」

 美月さんはその後、深夜徘徊で警察に補導され、現在は児童相談所に一時保護されているという。前出の東京高校受験主義氏は、この歪んだ状況を俯瞰してこう語る。

「今の非行は、かつての“窓ガラスを割って回る”ようなわかりやすい形ではありません。表面的には『おとなしい子』に見えても、そのリスクはSNSを介して深夜徘徊や闇バイトなど見えにくい場所へ深く潜り込んでいます」

 タワマンという「外に逃げにくい住環境」もまた、子供を追い詰める材料となる。前出の西村氏は、ある医師家庭で起きた出来事を振り返る。

「日替わりで5人もの家庭教師をつけ、息子さんを無理やり超難関校にねじ込みました。
しかし、合格した途端に糸が切れ、成績は低迷。父親が激高して締めつけを強めると、中学3年の冬、息子さんは自宅でバットを振り回したんです。今は自主退学し、引きこもっているそうです」

 2週間後、西村氏がその自宅を訪ねると、凄惨な現場は跡形もなくなっていた。

「部屋はすべてリフォームされ、何事もなかったかのように『タワマンの日常』が復元されていました。壁の傷跡と一緒に、息子さんの悲痛な叫びまで塗り潰してしまった」

「育児の最適化」こそが現代の教育ネグレクト

 子育ての外注化という意味で、特筆すべき先進性を見せるのが渋谷区内のタワマン高層階に住む立花さん夫妻(仮名)だ。

「私たちにとって教育は『複利』で資産を増やす投資のようなもの」と語る彼らは、出産から外注した。

「妻のリスクを抑えるため、東南アジアで代理出産。早期教育に力を入れ、息子には月20万円以上かけて右脳学習からEQ教室まで、最高級の教育を与え続けました」

 だが、長男が小学校高学年になった時、彼らの「資産」は一瞬で崩壊する。

「カッとなり衝動を抑えられず、同級生を文具で刺そうとしたんです。学校で大問題になって転校させざるを得なくなり、途方に暮れています」

“窓も開かない”タワマンでは過剰管理に要注意

 西村氏は、こうした「育児の最適化」こそが、子供の心を放置する現代的な教育ネグレクトの正体だと断じる。

「タワマンの、特に高層階は子供にとって物理的に『外に逃げる』ハードルが高い場所。窓も開かず、常に空調が効いた逃げ場のない『無菌室』です。そんな密室で過度に管理され、泥にまみれる経験を奪われた子供たちは、挫折に対して極めて脆い。
タワマンがダメではないが、細心の注意を払う必要がある」

 親のエゴのために子供を犠牲にしてはいけない。愛だけは、外注できないのだ。

【不動産ジャーナリスト・榊 淳司氏】
年間500か所以上、新築マンションの建築現場を現地調査し、資産価値評価のレポートを提供。購入者視点で取材を重ねる

【塾講師・東京高校受験主義氏】
塾講師の傍ら教育系インフルエンサーとして活動。首都圏の中学・高校を訪問し、区議会議員とのイベントも開催。X:@tokyokojuken

【プロ家庭教師・西村則康氏】
プロ家庭教師集団・名門指導会代表。塾ソムリエ。難関中学・高校受験指導に約50年携わる。著書『中学受験は親が9割』(青春出版社)

取材・文・撮影/週刊SPA!編集部

―[心を病む[タワマン・キッズ]の肖像]―
編集部おすすめ