―[誰が為にか書く~北関東の山の上から~]―

都市部の生活に疲れ、人間らしい暮らしをしたい人の地方への関心が高まっている。そんななか猟師免許を持ち、北関東の山間部で狩猟生活をしながら役者業をし「山の中で楽しく遊んで暮らしているだけ」と話す東出昌大のもとには、山の生活に憧れ、彼の生き方に共感した仲間が集まる。
ここでは、東出昌大の実体験を綴ったSPA!の人気連載を公開。今回はスマホについて。現代人にとって欠かすことのできない便利アイテムが山では邪魔というお話をお伝えしていく(以下、東出昌大氏による寄稿)

 今日は久しぶりの出猟。日の出の20分前に自宅を出る。

 歩いて狩りをすることを渉猟(しょうりょう)と言うが、自宅を徒(かち)で出発し、近所の山で獲って担いで自宅へ帰る行為は、車を使って遠い山域に赴いて行う狩猟より動物を身近に感じられる。早い話が「オレこの地域の動物達と共生できてる~」ってな気持ちになれる。自己満と言っちゃあその通りだが。

発信への義務感が気色悪い…山にスマホを持っていくのが億劫なワ...の画像はこちら >>
 それでいて「連載に使う写真も撮らねば」と思い、奥さんのスマホをカメラ代わりに借りてきた。この発信しなければならないという義務感は私の仕事柄でもあるが、現代では世間一般にも浸透している強迫観念のようになっちゃいないだろうかと思って、いつも気色悪い。

 昭和生まれの諸兄は「インスタ映え」という言葉に違和感を覚えて久しいかもしれないが、それである。獲れるか分からない獣の写真を、山の一瞬のドラマを、記憶ではなく記録に収めようという企みを持っている時点で、昔の狩人のような純粋さを失ってやしないだろうか、と。

 まぁでもとりあえず家を出て、薄暗い山の谷間にキリッと浮かぶ三日月をパシャッと撮ってみた。
慣れないスマホを操作しながら画面を覗き込むが、ムムムッ、実物のほうが100倍綺麗だ。星を見た目の魅力そのままに写真に撮るってのはどうも難しい。

発信への義務感が気色悪い…山にスマホを持っていくのが億劫なワケ/東出昌大
誰が為にか書く
 気を取り直して静かに歩き出す。明け方を少しすぎたくらいの森は全体的にまだ暗く、自身が陽を浴びる位置にいながら、陽の差さない針葉樹林の中を覗き込んだ時は、夜のコンビニの店内から真っ暗な外を見た時くらい何も見えない。だから目を凝らし、耳を澄ませる。

 しかし、せっかく太陽が昇り始めた朝には獣たちも日光を浴びながら移動したいらしい。暗いところで何かが動く気配があれば、大体がリスだ。

 1時間歩いていないくらいで、里のほうから爆音のチャイムが流れた。

 過疎化が進んだこの里では高齢者が多く、朝も7時ならみんな起きているからチャイムも早朝から流れる。山の中は静かなので人工の音にビクッ!とするが、きっと動物もビクッ!と警戒心を高めているだろうと思い、歩みを止めてしゃがみ込んだ。

 タバコを吸おうか考えたが、この先の目標が数十メートルの尾根を登った反対斜面で、ニオイは届かないにせよゼェハァ言いたくないから我慢した。2分ほど休み、歩き始める。
尾根まで上がり、下り斜面を見下ろすと……いた。

発信への義務感が気色悪い…山にスマホを持っていくのが億劫なワケ/東出昌大
誰が為にか書く
 鹿が木の後ろに身体を隠すように“木化け”しながら、こちらを見ている。距離40m。木化けできているつもりになっている鹿は、こっちが余程大きな動きをしない限り、やり過ごそうと思っているようだ。

 息を凝らしながら射撃姿勢を確実にする時間はある。スコープの倍率を3倍から6倍にし、木と木の間に見えている上半身をレティクルの真ん中に入れ……撃った。

 鹿が転がった。追いすがり、耳を掴み、ナイフで胸を刺す。生まれてまだ1年と経っていない、顔の丸さにまだあどけなさの残る子供だった。事切れる前に、苦しそうに目を細めていた。

 スマホは取り出さなかった。撮る気にならなかった。


 鹿が最後に立っていたのは柳の木の裏で、足元に転がる鹿から魂が抜け出るまで、柳の樹皮の曲線を、ずっと眺めていた。

<文/東出昌大>

―[誰が為にか書く~北関東の山の上から~]―

【東出昌大】
1988年、埼玉県生まれ。’04年「第19回メンズノンノ専属モデルオーディション」でグランプリを獲得。’12年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。現在は北関東の山間部で狩猟生活をしながら役者業をしている
編集部おすすめ