ハンドルを握ると、人は性格が変わるとよく言われます。ドライブレコーダーの普及にともない、無謀な運転は減る傾向にありますが、それでも常に日本のどこかで起きているのも事実です。

 今回は、そんな無謀な運転が理由でせっかくのチャンスを棒に振った男性のエピソードです。

「面接に遅刻しそうで、あおり運転してしまって…」面接会場につ...の画像はこちら >>

新卒で味わった人生初の挫折

「今まで順調だっただけに、初めて人の痛みがわかりました」

 そう語ってくれたのは、今回取材に応じてくれた吉田さん(仮名・24歳)です。幼少のころから何でもよくできて、周囲からも「頭いいね」とほめられて育ったそうです。

 将来は生物学の研究者になりたくて、某有名私立大学のバイオテクノロジー関連の学科に現役で入学、そして大学院にまで進んだ吉田さん。

 その先への進路は、在学中に知った最先端のバイオテクノロジー系のベンチャー企業でした。ところが、就職試験に失敗したそうです。

「ゼミの先生にも太鼓判を押されていましたし、自分自身でも受験勉強以上にいろいろと努力していましたので、役員面接後に送られてきた“お祈りメール”を目にした時、それはまさに晴天の霹靂でしたね。こんなにショックを受けたのはもちろん初めてですし、同時に、『どん底ってこんな感じなんだな』と感じることができました」

 それから1ヶ月ほどは何も手がつかず、自室でぼーっとする毎日が続いていたそうですが、ある日、学生時代のバイト先だった塾から「講師を手伝ってくれないか」という連絡が入ったそうです。

バイト面接の道中で失態

 昔お世話になっていたとはいえ、勤務先の教室は新規開校だったため、改めて面接を受けることになった吉田さんは、早速面接に臨んだといいます。

 面接当日は平日の夕方5時。吉田さんは大学時代に中古で購入した軽自動車に乗り、アパートの駐車場を出ようとします。しかし、そこで想定外の事態が起きたそうです。

「出口に工事用車両が停まってたんです。無断駐車っぽくて、しばらく出られなかったんです」

 ようやく車の持ち主が到着し、駐車場から脱出できた吉田さんですが、時計を見ると予定より15分のロス。
余裕を持って出たはずが一気に焦りが募ったといいます。

 ところが、運悪く少し走ったところで、前方のコンビニから一台の車が出てきて強引に割り込まれたそうです。

「よそ見していたら衝突しそうなくらい強引に割り込んできたんです。しかも、その後もかなりなノロノロ運転で、私のイライラは募るばかりでした」

 前方のノロノロ運転にしばらくは我慢していた吉田さんでしたが、イライラが沸点を超え、車間距離を詰めたり、少し右側に寄ってアピールしたりと、運転が荒くなっていき、とうとう前の車を追い越して強引に割り込んだといいます。

「気がつけば、ハンドルを右に切ってアクセル全開にしていました。ところが、追い越した瞬間、前方の信号が赤に変わったので思わず急ブレーキをかけました。今思うと、割り込まれたドライバーはさぞかし怖かったでしょうね」

 信号が青に変わるや否や、吉田さんは教室を目指して急いだといいます。ただ、せっかく追い抜いたにも関わらず、吉田さんの前方は渋滞していて、結局ノロノロ運転は変わらなかったそうです。

目的地に到着するも嫌な予感が……

 なんとか開始5分前に目的地に到着した吉田さんですが、さきほど追い抜いたノロノロ運転の車が自分の横に停車したのを目撃しました。

「目を疑いました。さっき思いっきりあおり運転して追い抜いたノロノロ車がしばらくして入ってきて自分の横に車をとめたんです。反射的に『ヤバっ』と思い、視線をそらしたのを覚えています」

 中から出てきた中年男性は、少し急いだ様子で備校の建物に入っていったそうです。吉田さんも、少し時間をずらし、時間ギリギリに建物に入り、そのまま面接会場となる4階の教室に上がったといいます。


「失礼します。本日面接にまいりました吉田です」と言って椅子に腰掛けた吉田さん。なんと、目の前にいたのは、さっき車から出てきた中年男性だったそうです。

 その男性は、淡々と質問し、吉田さんが提出した履歴書に目は通すものの、特に視線を向けることはなく面接は進みました。

 そして、最後にその面接官は「君、あの運転は乱暴だよ。気をつけたまえ」とひとこと言って、その場を離れたといいます。

人生2度目の挫折

 数日後、声をかけてくれた恩師から一本の電話が入りました。声のトーンで察しはついたものの、吉田さんは直接耳にした恩師の言葉にショックを隠しきれなかったといいます。

「面接に遅刻しそうで、あおり運転してしまって…」面接会場についた男性が「不合格を確信した」ワケ
暗い部屋で落ち込むアジア人男性
「吉田くん、あんな無謀な運転はだめだよ。面接担当が私にドライブレコーダーの映像を送ってくれたんだよ。あの車、大学時代から乗っているヤツだよな。なんであんな運転するかな……」

 どうやら、今回、吉田さんがヤラかしたあおり運転の一部始終は完全に録画されていたようでした。
恩師も擁護してくれたらしいのですが、講師という立場を担う人物には相応しくないという判断が下されたようでした。

「3度目はあるのかな、なんて考えるほど、あれ以来落ち込む日々が続いています。今までが順調だっただけに、ショックが大きいんですよね。人として1からやり直しですね」

 その後、吉田さんはボランティア活動に従事しながら、アルバイトで生計を立てているとのこと。自分なりの“修行”に目処がついたら、また1からやり直すと言っていました。

<TEXT/八木正規>

【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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