栃木県の高校での動画が映し出す現代の歪みについて考えます。
暴行の“加害者”と思われる人物の「X」アカウントが発掘され物議
男子トイレ内で一人の生徒がもう一方の生徒を袋叩きにしているシーンが、世間に衝撃を与えています。栃木県警も暴行事件として捜査しているとのことです。栃木県の福田知事も「絶句した」、「弱いものいじめはやめろ」と、ショックを隠しきれない様子でした。当然ネット上でも非難轟々。“退学にすべきだ”とか、“傷害罪なのだから刑事事件として逮捕すべき”など、厳しい声が相次いでいます。
そんななか、動画内で暴行の“加害者”と思われる人物の「X」アカウントが発掘され物議を醸しています。特に注目を集めたのが、<そもそもブレイキングダウンなんて幼稚な格闘技ごっこが流行ってたから友だち(筆者註・原文では個人名)がやろういいだしたんだよ>という投稿です。
全国のケンカ自慢が殴り合う格闘技イベント『ブレイキングダウン』のような遊びをしていただけであり、動画に映っていない部分では自分もやられている場面があったと主張しているのです。
「ブレイキングダウン」が社会に与える影響についても議論が紛糾
筆者個人の考えでは、「ブレイキングダウン」やそれに類するものを規制したとしても、この手の暴力を完全に排除することは不可能だと思います。ネットを検索すれば「ブレイキングダウン」より過激な動画はいくらでも出てくるし、年頃の男子が集まれば、多かれ少なかれ発生するのもやむを得ない出来事だからです。
だからといって野放しにしろというのではないけれども、臭いものに蓋をするようなことをすれば、ますます大人や社会の目につかないところで、別の形の陰湿な暴力が発生してしまうでしょう。
そちらのほうが、より凄惨な悲劇の温床となるはずです。
加害者と思われる生徒の投稿に現れる“軽薄さ”
それよりも、加害者と思われる生徒の投稿が醸すものは、ネット全般のカルチャーに毒されている浅はかさです。たとえば、自分に対する批判をしてきた人たちのことを「陰キャ」と呼んだり、また批判への抑止力として「俺の親警察関係者だからアンチしたやつ全員覚悟しとけよ」という、いかにもなレスバの定型文をそのまま使っていたりすることからわかります。
他人の言葉をまるっきりパクっただけなのに、思う存分に反撃したと納得できてしまう単純さに、いまの時代ならではの軽薄さが現れているのですね。
馬鹿げた動画をわざわざ全世界に発信する理由とは?
そう考えると、トイレ内での暴行動画も、殴ったり蹴ったりする動きは派手に見えますが、そこに暴力が持つ深刻な実体は伴っていない。本当に相手を怪我させてしまうかもしれない、下手をすれば殺めてしまうかもしれないという真実味がないところで空虚な過激さだけがエスカレーションしていく。全ては、見知らぬ他者からの承認を得るための行為なのです。でなければ、自分の将来を危うくさせるような馬鹿げた動画をわざわざ全世界に発信する理由はありません。
だから、これは暴力でもイジメでもなく、バイトテロと同等のむなしい愚行なのです。
自我の充実をSNSでの承認欲求に全振りした、哀れなモンスター。
これが大量生産されていること自体が、社会に対する“暴行”なのです。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。
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