アーティストの古山菜の花さん(25)は、創作活動と並行してラブホテルの清掃アルバイトをしている。時には汚物の清掃が発生したり、客とのトラブルも起こったりする、なかなかハードな職場。
それでも古山さんがアルバイトを続ける理由とは。(記事は全2回の2回目)

酔っ払って寝過ごし「延長料金払えない!」

ラブホテル清掃バイトの25歳女性が「働く前のイメージとは全然...の画像はこちら >>
——アルバイト中は、どんなトラブルが起きますか?

古山:酔っ払って入室する人が多いので、ショートタイムで2~3時間過ごすつもりが、寝過ごしてしまいそのまま朝を迎えてしまうということはよく起こります。本当ならニーキュッパで済ますつもりが1万円を超えてしまったとなると、「払えない」とか「払わない」とお客さんからフロントに電話がかかってくる。そうは言ってもこちらもお金を払ってもらわずに返すわけにいかないので、どうしても退室したかったら代わりに身分証とスマートフォンを置いていってください、そしてお金を持って戻ってきてください、という対応をせざるを得ません。

ある学生のお客さんは銀行口座にも払えるお金がなかったみたいで。マネージャーから「どうにかして金持ってこい」と言われて、身分証とスマホをマネージャーに預け、ホテルの前を通ったカップルに頭を下げて「お金を貸してください」と言ってまわったそうです。私はそんな彼の様子を明け方の退勤時に見かけました。

ラブホテル清掃バイトの25歳女性が「働く前のイメージとは全然違った」と語るワケ。「底辺の仕事」と罵られても…
古山菜の花
——その学生さんにとっては相当強烈な社会勉強になりましたね。

古山:他にも、部屋にもお風呂にも血溜まりが残っていたり、一緒に来たお客さんの片方が慌てて逃げていったと思ったら残された方の荷物が盗まれていたり。日々いろいろあるんですが、私は退勤の時間が来たら帰ってしまうし、あまり大ごとにしたくないお客さんも多いので警察沙汰にまでなることは少ないです。部屋の中で本当は何が起こって、その後お客さんたちがどうなったのか、私が知る機会はほとんどありません。

「底辺の仕事」と罵られ 曲に込めた思い

古山:延長料金についてトラブルになったお客さんから「お前、ばかだからこんな底辺職にしか就けないんだろう!」と罵られたこともあります。

——ひどい言いがかり……。古山さんは「ラブホテルで働くということ」という曲を作られていて、今のエピソードも盛り込まれていますね。


古山:ラブホテルで働きはじめてからは、職場の人たちがみんな温かくて「ああ、好きな職場だな」と思っていました。でも周囲の評価は必ずしもそうではなくて。両親は「面白そうだからいいんじゃない?」という感じで反対していませんでしたが、親族には「4年も大学に通ったのに」、「ラブホテルで働いている人たちなんてろくでもないんだから」と言われて頭にきたこともありました。

そんなもやもやがあった上に、お客さんからも自分の上司にあたる人たちのことをズケズケ言われて「ここで働いている人たちのことを何も知らないのに」という思いが強まりました。決して「ラブホ清掃が底辺なんかじゃない」とか主張したいのではなくて、ラブホテルが職場として機能している、もう一つの日常のようなものを純粋に知ってほしいという気持ちが湧いて、曲ができていきました。

最近では職場の人の通勤ソングの定番に、今までの純烈に加えて私の曲が追加されたと聞いて喜んでいます。

ラブホ清掃バイトが「私の人生の彩り」

ラブホテル清掃バイトの25歳女性が「働く前のイメージとは全然違った」と語るワケ。「底辺の仕事」と罵られても…
古山菜の花
——「職場の人たちが温かい」ということでしたが、どんな方が働いているんでしょうか?

古山:私のような20代は少なくて、年配の女性が多いです。最初に私の指導係をしてくれた人は、まあぶっきらぼうな人で。初日に「よろしくお願いします」と挨拶をしても、「さっさとサンダルに履き替えてくれる?」とだけ返されました(笑)。その時は「なんだこの人、もうこのバイト先には来ないかな」なんて思ったんですが、夜中に一緒に休憩に入ってタバコを吸ったりしているうちに、徐々にお菓子をくれたり、一人暮らしで大変だろうと夕飯を持ってきてくれたりするようになりました。他のおばさんたちも決して分かりやすい形ではないけれど、とても優しいんです。今までのバイト先では周りの人からの扱いに傷付くことも多かったので、こんな職場今まで見たことないな、と感動しました。


ラブホ清掃バイトを始める前は、他の人と会話もせずに黙々と働くイメージだったんですが全然違っていました。クリスマスシーズンはお客さんの誰にも見られないのに、サンタ帽を被らされたりするんですよ。「本当の家族か?」と思うような口喧嘩も時折しています。

仲が深まっていくのと同時に、みんなさまざまな事情を抱えているということも分かってきました。例えば、勤務時はとても威張っている人が、実は家に帰ると一人で孤独を感じているとか。ラブホテルという職場が、そういう人たちの居場所になっているというのを知ったし、 気付いたら自分にとっての居場所にもなっていました。

——古山さんは「音楽深化論」というYouTubeのオーディション番組で優勝したことをきっかけに音楽活動が徐々に忙しくなっているそうですね。今後さらに忙しくなったら、ラブホテルでのアルバイトはやっぱり辞めてしまうんでしょうか?

古山:いえ、もう絶対に続けたいですね。それこそ私が70歳ぐらいになって、しゃがれた声になっても続けたいです。職場の人たちも、ラブホテルで起こる出来事も、私の日々を面白くしてくれている大きな要因です。人生の彩りになっています。

——極彩色の彩りですね(笑)

ラブホテル清掃バイトの25歳女性が「働く前のイメージとは全然違った」と語るワケ。「底辺の仕事」と罵られても…
古山菜の花
◼︎古山菜の花
YouTube:古山菜の花
X:@kkkk_k1109
Instagram:@kkkk_k1109
note:清掃員:N

<取材・文・撮影/菅野真沙美>

―[古山菜の花]―

【菅野真沙美】
フリーライター。
全国紙記者、ブランディング会社ライター・ディレクターを経て現職。暴れん坊の猫3匹を飼っています。
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