売掛3千万…「金づる」と知りつつ通ってしまう
――早速本題ですが、歌舞伎町という日本一の繁華街でおこなわれる“相談”は、ヘビーなものが多そうですね。清水葵:そうですね。当団体は生活に関するさまざまな相談事を無料で受け付けておりますが、やはり立地からか、壮絶な人生を経験している人たちが相談にみえることもしばしばあります。
――たとえばどのようなことでしょうか。
清水葵:印象に残っているのは、ホストにハマってしまった女性のお母様が相談にみえたことでしょうか。そのとき、すでに女性は海外に出稼ぎに行っていて、女性の部屋からホストの売掛金3000万円の伝票が出てきたということで、相談にみえました。
――相当な金額ですね。
清水葵:はい、ただ売掛金に関しては、当団体で相談できる、ホストクラブに詳しい弁護士の先生がいらっしゃるので、法律的な側面での解決は可能でした。しかし問題は、3000万円をつぎ込むほど熱中してしまっている女性の心理状態にあります。当然、お母様は「もう行くのをやめなさい」と言いますが、そう簡単に割り切れるものではありません。
“自己責任論”では語れぬ「少女の注射痕」
清水葵:そうなんです。この例に限らず、トー横界隈にいる子たちに「早く帰りなさい」「ドラッグはやめなさい」と正しいことを言っても、彼女たちも本当はそんなことはわかりきっているので、響きません。まずは何でも相談できる関係性を構築して、そこから誘導していくのが結局のところ、近道なのだろうと思います。
――そうした誘導の過程は、ややもすると「甘やかしている」と捉えられることもありませんか。
清水葵:おっしゃる通りで、それが歯痒く感じます。トー横にいる子たちに対して、世間はときに自己責任論を振りかざして厳しい論調で迫るのですが、実際には、何らかの理由があってあの場にいる子たちが多い印象を持ちます。
たとえば、16歳くらいの女の子で、「両親ともに薬物依存症で、覚醒剤を打たれてしまうから、トー横なら居場所があると思って」と話してくれた子がいました。腕には注射痕がいくつもありました。居場所を追われた子たちが集まる場所にもなっているのだと思います。
「実子ではない」中2で告げられた衝撃
――話は変わりますが、清水さんはまだお若いのに、紆余曲折のあったこの日本駆け込み寺で、理事長として生きていこうと奮闘されていますよね。それは、ご自身の成育歴とも何か関係がありますか。清水葵:無関係ではないと思います。簡単に言うと、歌舞伎町で相談者たちと知り合って、この場所を守りたいと思ったから、離れないでいるのだと思います。
私も、中学2年生のとき、絶望のさなかにいたんです。その日は平日だったのですが、朝、母に起こされて「実はあなたは私たちの子どもではないの」と聞かされました。これまで非常に可愛がってくれた両親で、親戚とも仲が良かっただけに、突然の告白に呆然としました。赤ん坊のときに乳児院に入り、特別養子縁組によって迎えてもらったということでした。
――お母様からの告白は、なぜそのタイミングだったのでしょうか。
清水葵:それがよくわからないんです。父もいたのですが、あえて気を遣ってくれていたのか、「学校、行けるよな?」みたいな楽観的な感じで。裏腹に、私はとてもショックを受けていました。育ててくれた2人に対して、「これまでの時間は何だったんだ」と反抗的な気持ちがもたげてきました。
告白をした日にちの理由はついぞわからないものの、その日を境に、母が統合失調症に罹患してしまいました。
「血の繋がり」を超えた両親の愛
――統合失調症のお母様と暮らしながら、気持ち的にはもやもやを抱えた生活はつらかったでしょうね。清水葵:当時は視野が狭く、見聞もじゅうぶんではないので、「親と血が繋がっていないなんて、自分だけに違いない」とショックを受けました。これまで普通に行っていたお墓参りも、「血も繋がっていない人間の墓なんか行かないよ」と言って、両親を困らせたりしました。
母は統合失調症によって幻聴・幻覚に悩まされたり、家を勝手に飛び出すなどの奇行が目立つようになったりしました。現在は治療によって症状は抑えられていますが、それでもまだ母は伏せていることが多いですね。
――しかしそのあとも、ご両親は変わらず愛情を注いでくださったんですよね。
清水葵:そうですね。本当の両親が娘を心配するように心配してくれて、また叱ってもくれました。基本的に私がやりたいことは否定せずに見守ってくれる、良い意味での放任主義だと思います。たとえば、中学生のときに「最終日にディズニーランド行けるらしいから行きたい」と冗談半分で出したアメリカへのスタディーツアーも、頭ごなしに否定せずに行かせてくれたり、大学時代も留学をさせてくれたり、私の意思を尊重してくれる両親です。
孤独な心に寄り添う、最後の居場所に
清水葵:自分が両親の本当の子どもではないとわかったとき、単純に「人生がつまらないな」と感じてしまったんですよね。そのときの気持ちは今も思い出します。そして、歌舞伎町に集まる子たちは、それが道徳的でないとはわかっていても、似たような虚無感を抱えているのだと思います。けれども、先ほどお話したように、私には日本駆け込み寺という守るべき場所が見つかりました。歌舞伎町に来ている子たちも、今は人生に期待できなくても、いつか失いたくないものに出会う日がくると思います。また、相談に来てくれる子たちがそういう未来に出会えたらいいなと思っています。
――今はさまざまなツールがありますが、この場所で対面で相談を行う意図はどのようなものでしょうか。
清水葵:AIの発達などで、「正解」に行き着くのが早くなったとは感じます。けれども、対面相談でのぬくもりや温かさでしか、得られない安心感があるのではないかと私は思っています。今、夜遅くまで歌舞伎町にいる若い子たちは、孤立感や孤独感を抱えていることが多いと思います。ただ、みんな「いつかは変わりたい」と思っているんです。そのきっかけに、この場所がなればいいですよね。
とはいえ、私たちは相談者を救っているようで、実は自分たちが救われていると思う場面も非常に多いです。相談者として来た人たちがボランティアスタッフになってくれたとき、相談者の方で特技のある人が何かを買って出てくれるとき、改めていろんな人の絆に支えられてここまで来られたなと思いますね。
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絶望は人によって異なる。それなのに社会は、「そんなのは甘い、それは絶望じゃない」と比較し、定義したがる。”正しいこと”に嫌気がさし人生に絶望感を抱えた人たちが、清水さんの話に耳を傾けるのは、単に年代が近いからではない。彼女が彼女の絶望を克服し、その先に光があることを知ったうえで、他人の絶望に介入しない思慮があるからではないか。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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