どんな商品やサービスでも、特色がなければ生き残れない。まして、あらゆる個性がしのぎを削り合い「笑い」を届ける芸人の世界ではなおさらだ。

“○○芸人”は、すでに出尽くしたようにも思っていたところに、ニューカマーが現れた。車いすをネタにする漫才コンビ「爆走マシン」である。

ボケの車太郎さんは、国の指定難病である先天性の骨形成不全症により、車いすで生活をする人物。もちろん一つの”個性”でもあるが、笑いに昇華するには、いささか誤解を生みやすい領域でもあるだろう。

率直に本人たちのスタンスが知りたい。車太郎さんにくわえ、ツッコミの坂井宣大さんを直撃した。

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M-1準々決勝進出。地獄から掴んだ快進撃

ーー2025年は、車いすを笑いにすることが実を結び始めたのではないですか? M-1の成績でいうと、2023年が2回戦敗退、2024年は1回戦敗退でしたが、2025年は準々決勝まで進出。手応えを感じましたか?

車太郎:前回までとは違いましたね。特に昨年は1回戦で2度落ちて、地獄のような気持ちになったので、準々決勝まで行けたのは嬉しかったです。

坂井宣大:普段のライブではウケていても、M-1ではなかなか受からなくて辛かったんですが、今年の2回戦は人生で1番くらいウケましたね。2回戦なのにトロフィーが出てくるかと思いましたもん。


ーー何が変わったんでしょうか?

坂井宣大:もともと、車太郎が車いすに関する自虐を言って、僕が戸惑うみたいなネタをやっていました。だけど、お客さんも引いてしまうことが多かったんですよ。今は逆に、「車いすのお前にやれるか!!」みたいに僕が振り切って突っ込むようにしています。下手したら傷つけるんじゃないかくらいの勢いで。

車太郎:実は、そのスタイルで2024年もやっていて。落ちてはいるんですけど、続けてきたことで、僕らの息も合ってきているのかなとは思います。

ラルクか、とんねるずか。消去法で選んだ道

ーー芸人を目指したきっかけはなんですか?「ハンディキャップを武器にして芸人に……」といったストーリーを想像してしまうのですが……。

車太郎:申し訳ないんですが、そんなことは全くないんです。24歳まで大学に通っていたんですが、卒業ができないことも決まって。それでもやりたいことが見つからなくてフラフラしていました。そんな時にふと「あれ? 僕の人生ヤバいな」と思って。


ーーヤバいと思ったけど、堅実な道に向かおうとはしなかったんですね(笑)。

車太郎:そうですね(笑)。僕が子どもの頃から憧れていたのは、とんねるずさんとL’Arc~en~Cielだったんですが、ラルクみたいな曲を作れてラルクみたいな歌声が出せても、誰もキャーキャー言ってくれないだろうし……。

坂井宣大:車太郎のラルク、おもろいけどな(笑)。

車太郎:なので、とんねるずを目指そうと。でも、バラエティ番組で縦横無尽に暴れる姿が面白いと思っていたから、ネタを作ることなどまったく考えないまま、養成所に入りました。

ーーなぜ太田プロにしたんですか?

車太郎:太田プロ以外に受けた4社は全部断られました。はっきり言われてはいませんが、車いすがネックになったとは感じましたね。ちなみに太田プロだけ、顔写真のみの書類選考だったんですよ。だから、車いすであることは隠して入りました。入学式ではざわついていましたけどね(笑)。

「飛び道具」に託した、売れるための覚悟

「指定難病で車椅子生活の男性」が芸人になった意外なワケ。自虐ネタで「お客さんが引いてしまう」経験から得た学び
「普通のやり方では無理」と思っての決断だった
ーーお二人はそれぞれ、いくつかのコンビを経て2023年に爆走マシンを結成されました。コンビ結成を持ちかけたのは?

坂井宣大:車からですね。


車太郎:彼は、それまで自分が関わってこなかった圧倒的陽キャなタイプ。今までと違う可能性が見えるかなと思いました。

ーー声をかけられた坂井さんは最初、どんな気持ちでしたか?

坂井宣大:最初は断ったんですよ。そこから、1年後くらいに改めて熱量高く誘ってくれたので、物は試しでやってみることにしました。

ーー「車いすの相方」ということは、武器にもなりますがネタとして制約にもなりそうです。その点はどう思っていましたか?

坂井宣大:確かにそうですよね。ただ、僕もそれまでに組んだコンビやトリオがなかなかうまくいかず。もう普通のやり方で売れるのは無理だと思っていて。このくらいの飛び道具に頼らないとダメかも……と思って組みました。

「笑っていい」を作る。空気を変える言葉選び

ーーネタはどちらが作っていらっしゃるんですか?

車太郎:最初は僕がざっくり作ったものを持っていって、相談しながら詰めていきますね。

ーー初見のお客さんだと、「笑っていいのかな?」という空気になることもありませんか?

車太郎:めちゃくちゃあります。
つかみの調整は念入りにやっていますよ。

ーー今年のM-1準々決勝の動画も上がっていますが、冒頭で車さんが「大縄跳びをやりたい」というのに対し、坂井さんが逡巡しながら気まずそうにする。そこに車さんが「お前にできるわけないって言えよ!」と叫んでから、会場も「笑っていいんだ」になった感じがありました。

車太郎:笑っていい空気感もそうですし、まず「こいつ面白いやつなんだ」と認識してもらわないといけないので、言葉選びも言い方もかなり考えますね。

一括りにされたくないから、独自の個性を貫く

「指定難病で車椅子生活の男性」が芸人になった意外なワケ。自虐ネタで「お客さんが引いてしまう」経験から得た学び
「誰かを楽にする」より、「やりたいことをやる」スタンスだ
ーーキツくつっこまれたり、ディスられても笑えるようなネタを作られていると思います。ただ、車いすを使われている一般の方にとばっちりがいかないように気を回さないといけないですよね。

車太郎:例えば、素行の悪い人がいたら「だから○○の人は」って属性を使って非難されたりしますよね。みんな他者をカテゴリで見てしまうので、そこは気を使いますね。

坂井宣大:ただ、各方面を気にしすぎると面白さも減ってしまうので、まずは気にせずに作ってから、その後どう考えるかですね。

車太郎:思いっきりはやるんですが、「常に迷っておく」ことは大事だと思っています。思い切りながらも最大限の配慮を。

ーー R-1王者の濱田祐太郎さんは盲目です。カテゴライズという意味では「障がいのある芸人さん」と一括りにされてしまうことはありませんか?

車太郎:濱田さんがR-1で優勝された頃は、ネタ見せに行くと作家さんなどから「濱田君はこうしてた」と言われることが多かったですね。
僕からしてみると、細かいところは全然違うのにと思うんですが。

ーー個人として見てもらえてない感覚ですかね。

車太郎:ただ、苦労を重ねてチャンピオンにまでなられているので、濱田さん自身のことは、ひたすらかっこいいなと思います。

メッセージより笑い。芸人としての純粋な欲求

ーー芸人として「ただただウケたい」という気持ちが根底にあるはず。でも、世間は「障がいを乗り越えて」とか「差別のない世の中に」のような、真面目なメッセージを乗せてセンチメンタルな方向に引っ張りがちでは?

車太郎:それはあって、いつも抗おうとしていますね。

ーー実際のところ、「障がいのある人も生きやすい社会を」という主張を伝えたいですか? それとも、シンプルに笑ってほしいですか?

車太郎:「誰かを楽にしよう」という思いを念頭に置いてはいませんね。でも、自分がやりたいことをやって、結果的に楽になってくれる人がいるなら嬉しいです。

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“普通との違い”を武器にすることへの覚悟と執念。ようやく車輪が噛み合い始めた爆走マシンは、これから唯一無二の走りを見せるのではないか。さらなる活躍に期待が高まる。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。
またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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