東京23区の中古ワンルームマンション中心に不動産投資を展開する個人投資家・村野博基氏。東京23区で合計37戸の物件を所有し、時価資産額約10億円、年間家賃収入約4000万円の村野氏が「築古物件がタワマンに建て替えられ、5000万円で権利を売れるので売却を悩んでいる」という話題に突っ込みを入れます。
『戦わずして勝つ 不動産投資30の鉄則』(扶桑社刊)もある村野氏の判断とは。
「不動産売却は資産を減らす判断」タワマン建て替えの権利を「5...の画像はこちら >>

5000万円で売却するか否かの決断

先日、とある不動産を巡る判断についての記事が話題になっていました。親から生前贈与でもらった築古ワンルームマンションが再開発の対象になり、タワーマンションになることが決まった人の話です。

その方に提示されている選択肢は3つ。(1)5000万円でマンションの所有権を売却する。(2)所有権の権利交換をして、自己負担の4000万円を出してタワーマンションの1部屋を所有する。(3)所有権の権利交換と自己負担4000万円を支払い、タワーマンションの1部屋を所有し、完成後に売却する。このなかでどの選択肢を取るのがよいのでしょうか。

ひとまず「所有権を売却して5000万円を手に入れる」のがいいのか。それとも、それなりに立地がよい「タワーマンション」なので、その後の更に値上がりを期待して売却を目指して保有するのがいいのか。タワーマンションを保有しても、部屋はワンルームであることは変わらず、管理費や修繕積立金は上がるので、賃貸に出しても利回りが低いかも知れないと懸念していました。

記事にはさまざまなコメントが寄せられており「より多くを儲けようと欲をかかず、さっさと売却して利益確定した方が幸せでは?」や「駅前の一等地ならば売出価格以下にはならなさそうだから、タワマンを所有してから売っては?」といった内容も。なかでも「最後まで建て替えに反対して、ごねるのが一番儲かるのでは?」という声が一番賛同を得られていましたが、この状況は世も末だなと感じました。
自分の利益のためだけに、ごねて人様に迷惑をかけるガリガリさん(注:仏教由来の言葉「我利我利亡者」のこと)になるのを勧めるのが一番賛同を得られるだなんて、他人事とはいえ残念な仕上がり具合です。

「売却」は「税金」がかかるので悪手

私はこの方の記事を読み、そもそもの判断で「税金」を念頭に置いていないことが気になりました。不動産の所有権を売却して利益が出たときには「譲渡所得」という税金がかかります。個人の場合、5年以上所有していた物件の場合には20.315%、5年以下の短期の所有の場合には39.63%という税率になっています。

この税金支払いを考慮した場合、資産形成を考えるなら……。個人的には選択肢(1)と(3)の「売却」は選びません。理由は単純明解で、売却によって「資産が減る」からです。

シンプルに「資産が大きくなるか」で考えた際、利益が出て税金を支払う形になると、資産は税金支払いの分減ってしまいます。「5000万円の価値がある不動産を現金に変換する」のが売却ですが、ただ変換しただけで資産が減るのです。

もちろん、今は5000万円の価値ですが、将来的には下がってしまうかもしれません。一方で上がっていくかもしれないのです。「未来はわからない」という前提に立つと未来のプラスマイナスはイーブンなはずです。すると、売却した場合は確実に税金や手数料支払いで資産が減ってしまうので、資産形成のみを考えると売却は悪手であると言わざるを得ないのです。


一方で、(2)のように自己資金を拠出した場合、同じく現金を不動産に変換するだけなので、資産が減ることはありません。そして、もし投資用ローンを4000万円組むとしたら……。もちろん借金も4000万円増えますが、資産も9000万に増えます。そのタワマンを賃貸に出して居住者さんに家賃を払ってもらうことができれば、その借金は居住者さんが支払ってくれる家賃で補填することもできます。

売却することで生じる損失

物件を売却するというのは「資産を減らす判断」です。だからこそ「賃貸に出して居住者に住んでもらって稼ぐのがよい」と感じました。

株式投資でも同じですが「利益確定」は一番難しい判断です。なぜなら、当たり前のごとく未来は分からないから。現在「5000万円で所有権を買い取ってくれる」というのは分かっていても、この先上がるかも知れないし、下がるかもしれません。ただ、売却して利益を確定させたら「税金」や「仲介手数料」などを確実に支払わなければならない分、資産は減るのです。

「5000万円で売れる」ということは、いくらで手に入れたものであっても、現在の価値は5000万円なのです。投資に取り組む際、つい利益に目が眩みこの真理を忘れてしまう方が多いように思います。


もし3000万円で購入したものが5000万円で売れるのであれば、みなさんは「2000万円の利益が出た!」と考えるのではないでしょうか。しかし売却のタイミングでは「5000万円の価値の『不動産』が、5000万円の価値の『貨幣』に変換された」だけなのです。元々持っていた「含み益」の2000万円が表面に現れ、その利益に税金がかかり、結果として自身の時価での資産規模が小さくなると私は考えます。

「所有している不動産を5000万円で売却できる」と聞くと、売却すれば色々なことができるでしょう。お金は使ってこそ価値があるもの。「何か購入したいもの」「やりたいこと」のためにお金が必要であれば売却するのはよいと思います。

しかし、「儲かるから」という観点だけで判断するのであれば、その判断の前に「元々その価格で売れるものを所有している」「利益が出たら税金を支払う必要がある」「その支出分、資産価値は減ってしまう」ということを思い出し、手に入れたお金は有意義に使って欲しいと願っています。

<構成/まてい社>

【村野博基】
1976年生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、大手通信会社に勤務。社会人になると同時期に投資に目覚め、外国債・新規上場株式など金融投資を始める。その投資の担保として不動産に着目し、やがて不動産が投資商品として有効であることに気づき、以後、積極的に不動産投資を始める。東京23区のワンルーム中古市場で不動産投資を展開し、2019年に20年間勤めた会社をアーリーリタイア。
現在、自身の所有する会社を経営しつつ、東京23区のうち19区に計38戸の物件を所有。さらにマンション管理組合事業など不動産投資に関連して多方面で活躍する。著書に『戦わずして勝つ 不動産投資30の鉄則』(扶桑社)、『43歳で「FIRE」を実現したボクの“無敵"不動産投資法』(アーク出版)
編集部おすすめ