外国人による土地取得は全国3498件(内閣府調査)。都市部を離れた山林や原野が目立ち、買い手の約半数は中国人だ。
政府は国家安全保障上の懸念から規制強化に乗り出したが、その網をかいくぐるように彼らは各地で「山」を買い漁っていた――。

老後を考え“業者”に売ったが最後……

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 東京駅から特急電車で2時間ほどの伊豆高原。台湾有事を巡り日中関係が冷え込む前、大勢の中国人が人気観光地の大室山に詰めかけていた。静岡県伊東市は東京からのアクセスがよく、富士山を眺望できるのが人気の理由だろう。

 西口征太さん(仮名・62歳)は1年ほど前、伊豆高原の別荘とその周囲の山を中国人に売却した。外国人による北海道や沖縄の土地取得が問題視されていた頃だが、全国的な問題として受け止められてはいなかった。

「持病が悪化し、東京の病院に通院しなければならず、引っ越すことになって。転居後も別荘として持っているつもりでしたが、この年齢になると雑草取りや管理が大変で……。もともと中古で買った物件で、修理や維持も難しくなって、売りに出したんです」

 所有していた山林は280㎡、建物の敷地面積は110㎡。仲介する不動産業者から提示された価格は、相場の倍近くの3400万円だった。

「値段もよかったし、話もとんとん拍子に進んで、肩の荷が下りました。空き家のまま放置して不審者が出入りしたりして、近所に迷惑をかけるわけにもいきませんから」

 ところが、西口さんの安堵は吹き飛ぶ。近隣住民から、苦情が相次いだのだ。


「解体業者が土日も構わず作業を行い、騒音をまき散らしたうえ、瓦礫もうず高く積んだまま放置していたんです。ご近所さんからは『挨拶もなしにいきなり工事が始まった』『古い建物だからアスベストの健康被害が心配』と苦情が殺到したけど、東京からはすぐに現地に行けず平謝り……。売った先が中国企業と知ったのは、この後でした。この辺りの不動産屋はリゾート物件を扱う業者ばかりで、買った人の国籍なんて気にしない。仲介した業者さえ、売ったが最後、相手と連絡が取れないと言う。まさか、伊豆で中国人が土地を買い漁ってるなんて考えもしませんでした」

東京から好アクセスのリゾート地も標的!

“高値で現金一括”に目がくらみ…中国人に土地を売った人の苦悩。近隣住民からの相次ぐ苦情、「売ったことが知れれば裏切り者扱い」
中国人による旅館の買収が続く石和温泉。中文表記の「旅館」の看板も少なくない
 山梨県・石和温泉も、東京駅から特急で2時間弱の好アクセスを背景に、熱海と並ぶ人気温泉地として栄えた。しかし、バブルが崩壊すると、60軒以上あった組合加盟の旅館は32軒へ半減。溝渕和正さん(仮名・59歳)も、経営する旅館と里山に広がる敷地を売却した一人だ。

「コロナで売り上げが落ち、資金繰りが一気に厳しくなったところに、ボイラーと屋根の修繕で数千万円単位の出費が必要になった。売るか、潰すかの二択を迫られたんです」

 不動産業者に相談すると、すぐに反応があった。所有する土地は約700㎡。相場は7000万円ほどだったが、建物込みで2億円という提示だった。

「金額を見た瞬間、目の前が明るくなりました。
しかも、支払いは現金一括。当時は預金通帳の残高が日々減っていき、家族が崩壊する寸前。買い手の国籍なんて気にしていられなかった」

 相場を大幅に上回る金銭を手にした溝渕さんだが、思わぬ事態に直面する。

「生まれ育った土地にいられなくなった……。石和では中国人による旅館の買収が続いて、住民から反感を買っており、売ったことが知れれば裏切り者扱い。商売人同士は噂が早く広まるし、誰かに何か言われる前にこちらから関係を断ち、家族で引っ越しました。もう故郷には戻れないし、親戚とも絶縁状態です」

「旅館の売り手も買い手も中国人」というケースまで…

 笛吹市議で不動産業を営む樋口滝人氏は、生々しい現地の状況を明かした。

「旅行業界が大打撃を受けたコロナ禍以降、急速に買収が進み、現在、石和温泉の旅館組合に加盟する32軒のうち、13軒が中国人に買収された。その結果、日本人従業員が大量に減らされたり、地域経済への影響も出ている。東京からアクセスがいいわりに不動産が割安だから、中国人には買い得なんでしょう。買った土地に建てられたメガソーラーや産廃用ヤードに囲まれてしまった畑も珍しくない」

“高値で現金一括”に目がくらみ…中国人に土地を売った人の苦悩。近隣住民からの相次ぐ苦情、「売ったことが知れれば裏切り者扱い」
石和温泉のある笛吹市では、農地の買収も進む。ソーラーパネルとヤードに挟まれた畑
 取材を進めると、旅館の売り手も買い手も中国人というケースさえあった。中国人が買収した旅館では、従業員も客も中国人で完結する“閉じたビジネスモデル”が成立している。こうした異変が、前出の伊豆など全国のリゾート地で起きているのだ。
実際、中国の不動産サイトは、「伊豆」「軽井沢」「富士山麓」などのリゾートや旅館の売り物件情報で溢れている。

無人島にも中国人の食指が伸びている

 中国人が買い漁るのは、温泉地やリゾートにとどまらない。副島直彦さん(仮名・65歳)は、山口県周防大島町の瀬戸内海に浮かぶ島の1500㎡の土地を中国人に売った。

「この辺の島は景色がいいから引き合いは多い。登記簿で所有者を調べた中国人営業マンが『売ってください』と訪ねてきたりする。ただ、島を買うときはマンションと違ってローンを組むのが難しいから、取引はめったに成立しない。現金一括払いというから、即決しました」

 副島さんの島は相場なら500万円程度だが、チャイナマネーの勢いからか2500万円の買値が付いたという。

「水道も電気も自分で引かなきゃならないし、大変ですよと伝えましたが、『どうしても欲しい』の一点張り。今思えば、何が目的なのか……。島を売ったことは、工事が始まって初めて周囲が知る。日本人の領土意識の高まりを痛感した今は、後悔してます」

 副島さんが売却した島の約20km先には米軍岩国基地、対岸には伊方原発が立地する。無人島を扱う不動産業・BRIGHTSハウスの佐藤政信代表は、こう懸念した。


“高値で現金一括”に目がくらみ…中国人に土地を売った人の苦悩。近隣住民からの相次ぐ苦情、「売ったことが知れれば裏切り者扱い」
日本の物件を専門に扱う中国不動産業者のHP。価格表記は人民元、香港ドル、台湾ドルだ
「無人島購入の問い合わせの8割は中華系です。中華系に島の売却を仲介する日本の業者も多い。評価額1000万円の島を3000万円で売ったりするが、中華系はそれでも買う。大多数は転売目的ですが、中国の“領土”として日本の土地を購入する中国人は実在します。取得した北海道の土地を、中国と同じ赤で塗った地図さえあるという。だから、中華系バイヤは入念に調査して、気をつけています。領土的野心を隠さない隣国だし、第一、責任を持てないんです。実際、中華系に島を売った元オーナーのところには右寄りの方々から苦情が殺到しましたから」

 中国人に土地を売った人々は故郷を捨て、関係を断ち、元の場所に戻れなくなった。残された土地は、今も静かに所有者を変え続けている。

【山梨県笛吹市議・樋口滝人氏】
山梨県PTA協議会長などを経て現職。建設経済常任委員会委員。市民参加型の政策を推進する。
山梨県社会教育委員。宅地建物取引士

【BRIGHTSハウス代表・佐藤政信氏】
日本で唯一の無人島専門不動産会社アクアスタイルズを設立。豪州に拠点を移し、現職。著書に『無人島売ります!』(主婦の友社)

取材・文/山本和幸 齊藤武宏

―[中国人に土地を売った人の苦悩]―
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