米国にとって中南米は「外国」ではない。アメリカの対外政策における優先度は、中国やウクライナ、中東を上回る最優先事項――いわば「第ゼロ」だ。
米国にとって中南米は外国ではない
かねてから指摘してきた通り、米国は中南米を外国と思っていない(本誌’25年11/25・12/2合併号)。現に、米国がベネズエラに侵攻した。まず、軍事面では見事である。
外交(というより一方的な恫喝)で追い詰めつつ、その間に万全の準備を進める。諜報機関が入り込み、政権の一挙手一投足を丸裸にした。その成果か、ベネズエラ大統領官邸の一分の一セットを造って訓練したと報じられている。空母を展開、地上軍を動員して、逃がさぬ態勢をつくる。そして1月3日、中国製の防空網を突破して空爆、大統領の警護隊を鎧袖一触(がいしゅういっしょく)。火の手が上がってから5分で、特殊部隊がマドゥロ大統領夫妻を拘束した。
この一件で、「中国が台湾に攻め込む口実を与えた」などと愚論が日本に蔓延っているが、逆だろう。
ちなみに、米国がベネズエラに攻め込もうが攻め込むまいが、中国は台湾に攻め込むときは攻め込むし、やれないと思えばやらない。ただし、口実には使うだろう。現にロシアと一緒になって「米国の国際法違反」を宣伝している。
軍事侵攻だけ取り出せば国際法違反だが……
確かに、そこだけ取り出せば、米国の国際法違反は明白である。そこだけ取り出せば。米国のベネズエラに対する所業は、侵攻(aggression)である。侵攻とは、「挑発もされないのに、先制軍事攻撃を行うこと」である。漢語の侵略は定訳だが誤訳であり、aggressionに「奪い掠めとる」の意味合いは無い。
米国は武力行使前、「べネズエラは麻薬と犯罪者の輸出」を大義名分に掲げていた。だから自衛行動なのだと。米国は、これを「挑発」に当たると解釈しているようだが、同盟国も含めて認めている国は少ない。実際、軍事侵攻の口実にするには無理があり、外交交渉で解決すべき問題である。少なくとも、米国が交渉を尽くしたとは言い難い。最後通牒を突きつけて考える時間を与えたら、マドゥロが逃げるかもしれず、軍事行動に支障をきたすからだろうが。ついでに言うとトランプ米国大統領は、武力行使の後は「麻薬と犯罪者」を言わず、「奪われた石油を取り返す」しか言っていない。それ、略奪の宣言でしかないのだが……。
「自衛」と「人道的干渉」の大義名分
最大限弁護すると、保障占領までは許される。マドゥロはマフィアの親玉で、ベネズエラの国全体を支配していて、条約遵守能力が無い。つまりベネズエラはまともな外交交渉が通じる国ではなく、国内に責任ある法秩序が保てる国でもない。あまつさえ、米国に麻薬と犯罪者を輸出している。たとえば、ポル・ポト圧政下のカンボジアは、大虐殺で人口の四分の一が殺される地獄絵図だった。そこへ隣国のベトナムが侵攻したので、大虐殺を止めることができた。これはベトナムの人道的干渉である。ただし、カンボジアから見れば侵攻(俗に言う侵略戦争)である。これ、客観的に見れば「正義の侵略戦争」ではないか。
国際社会には、国の数だけ正義がある
国際社会には、国の数だけ正義がある。この現実を認めるところから、国際法は出発している。日本でも外国でも、「トランプのせいで国連や国際法が無力になった」とパニックになる連中が後を絶たない。しかし、国連など最初からただの会議場だ。何を期待しているのか。そして国際法を国内法と同じように解釈したがる人々の何と多いことか。
国内法は、立法府が法律で定め、行政府が執行し、司法府が強制する。刑法など国内法は、主権者(主権を代行する政府)が万人に等しく適用する強制法である。
さて国際法を、誰が万人に等しく適用するのか。そのような主権者はいない。国際社会は主権国家が並立し、話し合いで解決しなければ、最終的に武力で解決する。いわば、「裁判官のいない民事裁判」のようなものだ。別名、「決闘裁判」。国際法は「決闘のルール」として発展してきた、主権国家間の合意法にすぎない。それでも「戦争の悲惨さを少しでも軽減できるように」との現実主義で発展してきた。
戦争は根絶され、代わりにすべて紛争になった
ところが世界大戦の前後で、国際社会の決闘、すなわち戦争を根絶しようとの青臭いアホ臭い理想論が条約化された。その一つが不戦条約。最初は「戦争を根絶しよう」などと空想的平和主義で会議が始まったが、自衛を否定するのは愚かなので、侵攻戦争だけを否定することになった。
そして第二次大戦後に国際連合憲章が国際法化し、誰も宣戦布告に伴う正式な戦争を行わなくなった。国際法違反になるからである。そして、戦争は根絶された。代わりにすべて紛争になった。
現代国際法とモンロー主義の矛盾にどう向き合うか
現代の国際法では、不戦条約の精神に基づき国連憲章が成立したのであり、主権国家平等・国境不可侵の原則・力による現状変更の不可が前提とされる。ついでに、第二次大戦における日本は数々の国際法違反を行った犯罪国家にされた。この現代国際法に照らすと、今回の米国の行動は侵攻であり違法だ。だが、その例外として米国にモンロー主義(中南米は米国の勢力圏)を認めてきた。
この矛盾と、どう向き合うかが大人の態度だ。
―[言論ストロングスタイル]―
【倉山 満】
憲政史研究家 1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『噓だらけの日本中世史』(扶桑社新書)が発売後即重版に
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