今年に入り、SNS上でいじめや暴力の動画が爆発的に拡散している。学校や部活、教師の不祥事まで次々と可視化され、警察や教育委員会が動くケースも少なくない。
その裏で渦巻くのは、正義と私刑、告発と収益化が交錯する異様な空気だ。なぜ今、いじめ暴露はトレンド化したのか、その正体に迫った!

私刑が横行する異様な空気。正義感なのか、収益目的なのか?

 
「騒ぎにならないと大人たちは動かない」栃木県立高校の暴行動画...の画像はこちら >>
 発端となったのは、年明けに投稿された栃木県内の公立高校での暴行動画だった。男子生徒が同級生に暴力を振るう様子が映され、インフルエンサーが拡散したことで巨大なインプレッションを記録(現在は削除済み)。学校は保護者向けに説明会を開催し、県教育委員会も被害生徒に謝罪する事態となった。

 その後も、各地で暴露動画の拡散は止まらない。
 
 熊本県では、被害者の母親が被害届を提出し、加害した中学生が傷害容疑で逮捕。また高知県の名門私立高校野球部では、男性コーチが部員3人に「殺すぞ」「カス」と暴言を吐く動画が拡散され、処分に至った。

 事態を重く見た文部科学省は、都道府県や政令指定都市の教育長らを対象に、見過ごされている暴力行為やいじめがないか点検を求める通知を出すまでに至っている。

 SNSでの暴露を発端に、所属組織だけでなく警察や自治体まで動き出す事態となっているが、なぜこうしたいじめや暴力動画がいまトレンドになっているのか。

デスドルこと磨童まさを氏を直撃

「騒ぎにならないと大人たちは動かない」栃木県立高校の暴行動画を告発した“デスドル”こと磨童まさを氏を直撃。なぜ今、いじめ暴露動画が急増しているのか
へずまりゅう氏と、「DEATHDOL NOTE(通称:デスドル)」こと磨童まさを氏。(本人SNSより)
 週刊SPA!は今回、栃木県立高校の動画を最初に告発したアイドル暴露系インフルエンサー「DEATHDOL NOTE(通称:デスドル)」こと磨童まさを氏を直撃した。

「栃木の動画は過去の自分と重なり、なんとかしたいと思いました。私刑は悪だとわかっていますが、騒ぎにならないと大人たちは動かない。
誰かがこの活動をやらなきゃと思い、投稿を始めました」

 栃木の動画投稿以降、彼の下には1日600件以上のDMが送られてくるようになった。うち約100件は「いじめっこから謝られた」「いじめられなくなった」「先生が積極的に話を聞いてくれるようになった」など、当事者たちから応援の声だ。

 こうした反響を受け、磨童氏は1月に「いじめ撲滅同盟」を結成。メンバーはへずまりゅう氏、そして歌い手・配信者界隈で有名なインフルエンサーなポケカメン氏、地雷ちゃん氏を加えた4人だ。DMで寄せられるタレコミについて、撮影日時や被害者・加害者との関係性などを精査したうえで、世間に公表する体制を整えていると明かす。

「なかなか動かない学校や教育委員会、警察に発破をかけることで、組織の隠蔽体質を食い止めたい。すでに実績もあげているので、今後も積極的にいじめ撲滅を訴えていきたいですね」

 磨童氏は、いじめ被害者にこうエールを送る。

「被害者は、報復される恐れがあって周囲に相談できない状況だと思います。それでもまずは周りの大人に相談することが重要。その際は、録音や録画データを持って、警察や学校等に相談をしてほしい。それでも動いてくれないときに、最終手段として僕らに送ってほしいです」

加害者への行きすぎた社会的制裁が問題点に

 いじめ暴露動画の拡散は「抑止に繋がる」と好意的な意見もある一方で、加害者への行きすぎた社会的制裁が問題点になっている。過去、旭川のいじめ問題を積極的に取り上げたことで知られるみずにゃん氏は次のように指摘する。

「いじめ動画は最近になって突然生まれたものではなく、もともと昔から投稿されてきたジャンルです。
義憤に駆られ、正義感から発信する人もいますが、収益を目的としたアカウントも少なくありません。Xでは、バズっている投稿にコメントするだけでも、そのコメント自体のインプレッションが伸びる。話題の投稿に群がって数字を稼ぐ行為を“インプレゾンビ”と呼びますが、収益条件を満たすために、そうした行動を取る人が増えているのです」

 背景にあるのがXの収益分配制度だ。プレミアムに加入したうえで、過去3か月間のオーガニックインプレッションが500万回以上、プレミアムフォロワーが500人以上などの条件を満たすと、投稿の表示回数に応じて収益を得られる仕組みになっている。

 さらに、YouTubeやTwitchのサブスクリプションへ誘導するために、いじめ動画を投稿・拡散するケースや、投げ銭機能を備えた匿名質問箱サービス「mond」などを利用して、告発を“コンテンツ化”する動きも散見される。

いじめ暴露動画は「効率よく数字を稼げる素材」?

「騒ぎにならないと大人たちは動かない」栃木県立高校の暴行動画を告発した“デスドル”こと磨童まさを氏を直撃。なぜ今、いじめ暴露動画が急増しているのか
X上では日々、新たないじめネタが投稿されている(モザイク・伏せ字は編集部による処理)
 こうした収益構造のもと、いじめ暴露動画は「告発」ではなく、効率よく数字を稼げる素材として扱うのが、Aさんだ。

「普段は政治系の投稿が中心ですが、その時々でバズっているネタには基本全乗りします。いじめ暴露以外にも、フェミネタやLGBTQネタなどがバズりやすい。いいタイミングで乗っかれば、あっという間にインプレッションが数万、数十万になる。特にXは過激なポストがバズりやすいので、残虐な暴行シーンに『いじめ反対』『加害者に罰を』というコメントをつけて投稿します。簡単にインプレッションを稼げるネタなんですよ」

「騒ぎにならないと大人たちは動かない」栃木県立高校の暴行動画を告発した“デスドル”こと磨童まさを氏を直撃。なぜ今、いじめ暴露動画が急増しているのか
加害者に関連した真偽不明の情報も多く飛び交う。風評被害を受けたケースも少なくない(モザイク・伏せ字は編集部による処理)
  政治的信念はなく、いじめ問題への関心もない。彼にとって暴露動画は、フォロワーと収益を得るための燃料に過ぎないのだ。
一方で前出の磨童氏は、いじめ暴露動画については、もともと行っていたアイドルネタとは切り分けし、収益は得ていないという。本当にいじめ撲滅を願うアカウントと、インプレ目的で拡散させるアカウントの見分け方はあるのだろうか。

「トレンドを追って投稿内容を次々と変えるアカウントは要注意です。半年前は排外主義やクルド人批判をしていたのに、今はいじめ動画にシフトしているなど、話題を渡り歩きながら数字を稼ぐ共通の傾向が見られるはずです」(みずにゃん氏)

 そのうえで、ユーザー側のリテラシーの重要性を強調する。

「僕が旭川のいじめ事件を扱う際には、裏を取るために旭川市議会議員にまで取材しました。しかし、個人がタレコミを完全に検証するのには限界があります。例えば、本当はいじめられている側なのに、切り取り方次第で“加害者”に見せるフェイク動画を作ることも可能です。そうした動画が影響力のあるアカウントから拡散されれば、被害者がさらに追い込まれる危険性もあります。正義感から拡散に協力したい気持ちはわかりますが、一度冷静になって情報を取り扱いましょう。」(同)

 まず何よりも安易に“私刑行為”に加担しないことが重要だ。

取材・文/SPA! いじめ問題取材班

―[[いじめ暴露動画]急増の裏側]―
編集部おすすめ