―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

バラエティに引っ張りだこの新世代アイドルは、取材開始20分前に「前の仕事が巻いたので」と柔和な雰囲気で現れた。明石家さんまや所属事務所の先輩など大御所を次々と魅了する驚異的な“後輩力”の正体に迫った──
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後輩力で成り上がる

 バラエティでは物おじしない言動で爪痕を残し、ドラマや映画では確かな存在感を刻む。その一方で、先輩芸能人からは不思議なほど可愛がられる──。
木村拓哉主演の映画(※1)『教場 Reunion/Requiem』に抜擢された猪狩蒼弥は、STARTO ENTERTAINMENT所属のジュニアグループ、(※2)KEY TO LITの一員だ。事務所の先輩のみならず、大御所芸人からも評価の高い、今芸能界で最も愛される“後輩力の秘密”とは──。

――まずは映画『教場』への出演が決まったときの思いから聞かせてください。

猪狩:最初は「なんで俺なんだろう?」と思いました。ジュニアのなかで俳優をメインにした動きをしている人はほかにいますし、自分はバラエティ番組での色がついている。もちろん、ありがたい話だなと思いました。

――猪狩さんは、警察官を目指す生徒のなかで、観察眼に優れていて絵を描くことが得意な生徒の渡部流を演じています。

猪狩:最初に設定を聞いたときは、張りつめた緊張感がある教室のなかで勝手に絵を描くって、相当神経が太いなと思ったんですよ(笑)。強心臓で観察眼と行動力の両方を併せ持っているって、結構すごいキャラクターだなと。でもクラスのお調子者の生徒とふざけるようなシーンもあったので、つかみどころがない人物だなと思いましたね。現場でセリフを少し変えさせてもらったりして、自分が納得のいくキャラクターにしていきました。

主演・木村拓哉の姿勢から学んだこと

――セリフ変更は(※3)中江功監督に相談しながら、作っていったのでしょうか?

猪狩:いえ、実は監督に聞くのは野暮だなと思ったので、ほぼ自分で考えましたね。というのも、木村(拓哉)さんがご自身で考えて組み立てるような作り込み方をされるので、番手が下で事務所の後輩でもある自分が監督に頼ってしまうのは違うんじゃないか……と。
でも監督とは2回くらいごはんには行き、演出した後輩たちの舞台『大脱出~Escape Run~』のことや、ウチの会社の話などをしました。

――木村さん自身が組み立てるというのは、具体的には?

猪狩:リハーサルでまず木村さんが動いて、それを見て監督が絵を決める。主演は一挙手一投足に責任を持って作品を自分色に染めていくことが大事なんだな、とすごく勉強になりました。

木村(拓哉)さんは、時代をつくった神様です

――猪狩さんの世代にとって、木村さんはどんな存在ですか?

猪狩:本当に神様ですよ。時代をつくった人ですし、事務所に居続けてくださっているという意味でも土着信仰的な神様だと思っています。立派な存在すぎて最初はどう接したらいいのかわからなかったんですけど、ある日、僕がデカいアクセサリーをして撮影現場に行ったら「あんまりカッコよくないな」って話しかけてくださって。それ以来、そのアクセサリーは二度とつけていません(笑)。

――猪狩さんは(※4)中丸雄一さんをはじめ、事務所の多くの先輩からも愛されているイメージです。

猪狩:これは前時代的な考えかもしれませんが、僕は“先輩”っていうだけで偉いと思っています。小さい頃から縦が大事と学んでいたので、そういう感覚がある。その大前提をベースにしながら、すべてに服従するのではなく、納得できないことには抗議するのが信条です。でも、僕が話したいなと思う先輩は、ゲームでもヒップホップでもなんでもいいんですけど、自分と熱量が同じかつ、先方も「猪狩いいね」と好意的に思っていただける“両思い”の方だけです。誰にでもっていうわけではなく、相性が関係していると思います。


――あくまでも、リスペクトしている先輩から学びたいという姿勢なんですね。

猪狩:先輩が50歳だとしたら、50年分の知見をぎゅっとまとめて数時間で話してくださる、教科書みたいな存在だと思っています。同じ理由で哲学書を読むことが好きなんですけど、例えばニーチェを読んだときに、「自分が何年もモヤモヤ考えていたことを、この本でズバッと言語化されている!」と思うことがあるんです。そういうときに、もっと早く読んでおけば考えなくて済んだのに、と後悔するタイプなんです。だから、計算高いと言われればそうかもしれないですけど、先輩に教えてほしいという気持ちは本物なんですよね。

「まだデビューできていないから、1ミリも満足していない」バラエティに引っ張りだこの猪狩蒼弥が語った本音。驚異的な“後輩力”の正体とは
エッジな人々
――先輩とコミュニケーションを取るうえで、意識していることはありますか?

猪狩:最低限の礼儀として、「楽しんでいただきたい」と思っています。先輩に気持ちよくなってもらうために心がけているのは、嘘をつかないこと。似合っていないものを「似合っています!」とお世辞で言うのはよくないし、だからといって「似合っていないです」と言う必要もない。本当に自分がいいと思うところを探して、それを伝える。一度嘘をつくと矛盾が生まれて信用を失うし、結局一番大事なのは真心。縦社会は意識しつつも、時間は有限だから、後悔のないように自分から動いています。

――(※5)『ぽかぽか』に出演した際、伊集院光さんにサングラスをプレゼントしたことも話題になりました。
伊集院さんのラジオを聴いているそうですが、どんなところに惹かれていますか?

猪狩:物事を真っすぐな目で見ない、パンクなところです。自分自身もベースにレジスタンス的な部分があるので、大雑把に善とされているものに対して水を差したり、大衆に異議を唱えたりするスタイルがすごく好きなんですよね。いきなりプレゼントを渡したのは、「やってもやらなくてもいいことは、やったほうがいい」というモットーがあるから。

芸能の仕事は、加点方式の世界

――その判断を間違えることもありますか?

猪狩:やる・やらないに悩んでギリギリを攻めると、アドレナリンが出て気持ちいい。でも、結果的に失敗してしまうこともあります。それが楽しくなっちゃって、抑えられない瞬間があることは自覚しています(笑)。

――(※6)『踊る!さんま御殿!!』でも、物おじしない発言で注目を集めていますよね。

猪狩:最初に呼んでもらったときは、僕に何が求められているのかわからなかった。失うものはないから、躊躇なく発言しました。芸能の仕事は正解がないからこそ、加点方式だと思っています。というのも、芸能以外の多くの仕事は、明確なニーズを満たすための“正解”がありますよね。だから基本は減点方式。でも僕たちの仕事は、ビルを建ててくださいと言われて設計図どおりに造る側ではなく、シャチホコをつける役目だと思っています。
だからこそ、物おじするくらいなら辞めたほうがいいし、決められた枠のなかにいるだけでは、世の中の人は面白がってくれません。

デビューできていないので、すごく悔しい

――今、目指すところは?

猪狩:ありがたいことに、いろんな仕事をいただいているので、「もう満たされているんじゃない?」と言われることもあります。でも、まだCDデビューできていないから、1ミリも満足していないんです。第一関門を越えられていない感覚がずっとあって、いわばマラソンのゴールが見えているのに、そこに辿り着けていない状態。今は執念で走っている途中です。バラエティに出させてもらっても、その事実がずっと引っかかっている。ウチの事務所ではCDデビューしてからが一人前なので、自分のなかではまだ半人前だと思っています。その“判子”をもらえていないことが単純に悔しいですけど、試験があるわけでもないし、タイミングもある。KEY TO LITとしてデビューするために、目の前のことを必死にやっていきます。

「まだデビューできていないから、1ミリも満足していない」バラエティに引っ張りだこの猪狩蒼弥が語った本音。驚異的な“後輩力”の正体とは
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――改めての質問にはなりますが、さまざまな選択肢があるなかでアイドルを選んだのはなぜですか?

猪狩:最初に声をかけてくれたのがこの事務所だったから、というシンプルな理由です。育ててもらった場所にちゃんと結果で返したい。こう見えて、そういう義理堅さを大事にしています。
なので、誘ってくれたところが違っていれば俳優やラッパーになっていた可能性もあるし、この世界では仕事をしていなかったかもしれない。芸能界に入らなければ、検察官や弁護士になりたいと思っていました。

――お若いながら、そのブレない強さの根源となっているものは何でしょうか。

猪狩:祖父がスーツのテイラーの仕事をしていたんですが、パンクで豪快な生き方をした人で、口癖が「身だしなみを大事にしろ、カッコつけろ」だったんです。その影響もあって、ビシッと服を着こなしている人でありたくて。実は、今日着ているスーツも祖父が仕立てたものなんですよ。それに、この前たまたま書店に行ったら祖父を特集した本が売ってて、そこには僕も知らなかったルーツがいろいろ書かれていたんです。カッコいい生きざまだなと憧れると同時に、死んでからが勝負というか、こうやって語り継がれる伝説をいかにつくれるかが大事だなと痛感しました。そのために自分が思うカッコいいを貫き続けて、“猪狩蒼弥”という名前をデカくしていきたいです!

【Soya Igari】
’02年、東京都足立区出身。主な出演作にドラマ『恋の病と野郎組』、映画『先生の白い嘘』など。現在、日本テレビ系『ZIP!』内「キテルネ!」にリポーターとして出演中。4月25日からの舞台『AmberS -アンバース-』(EX THEATER ARIAKE)への出演を控えている

(※1)『教場 Reunion/Requiem』
未来の警察官を育成する学校=教場を舞台にした人気シリーズの映画版。
長岡弘樹のミステリー小説を原作に、木村拓哉が鬼教官の風間公親を演じて新たな代表作となった。前編の『教場 Reunion』はNetflixにて配信中。後編の『教場 Requiem』は2月20日より劇場公開される

(※2)KEY TO LIT
昨年2月に結成された、猪狩が所属する5人組のグループ。昨年、5都市20公演で初のアリーナツアーを成功させた

(※3)中江功監督
1988年、フジテレビ入社。’20年に放送された『教場』第1作より演出、プロデュースを兼任。『プライド』など木村拓哉主演のヒット作も数多く手がける

(※4)中丸雄一
KAT-TUNの元メンバーで、猪狩が慕う先輩の一人。YouTubeの「中丸銀河ちゃんねる」では、2人の温泉旅行の動画などが人気を集めている

(※5)『ぽかぽか』
フジテレビ系で放送中のバラエティ番組。昨年10月にゲスト出演した猪狩は、月曜レギュラーの伊集院光に誕生日プレゼントとしてサングラスを贈った

(※6)『踊る!さんま御殿!!』
日本テレビ系で放送中のトークバラエティ番組。猪狩は“謝罪の天才”として明石家さんまとトークバトルを繰り広げるなど、出演するたびに話題に

取材・文/細谷美香 撮影/鈴木大喜 ヘアメイク/浅津陽介 スタイリング/小林洋治郎

―[インタビュー連載『エッジな人々』]―
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