100人以上の社員・元社員が総額約31億円の詐取などの不適切な受領を行っていたことが判明した大手生命保険会社・プルデンシャル生命保険。
「ライフプランナー」と呼ばれる営業職員による猛烈果敢な営業スタイルで知られ、1987年の創業ながら保険料等収入は住友生命保険と並ぶ約3兆8000億円にも上り、大手国内生保の一角を占める存在となった同社。


 完全成果報酬制を導入し、成績上位の社員は億単位の年間報酬を得るなど、業界内では特異な営業モデルを導入することで多くの優秀な営業職員を引き寄せ、業界屈指の収益力を誇っていることでも知られる。そんな同社は、なぜ大規模な不正の温床となったのか。

年収2000万は当たり前…プルデンシャル生命「31億円不祥事...の画像はこちら >>

元社員逮捕で露呈した「31億円の巨額詐欺」

 事の発端は元プルデンシャル生命社員の逮捕だった。2024年6月、元社員が保険契約者などから投資の名目で金銭をだまし取った容疑で逮捕。被害者は34人、被害総額は計7億5000万円。同年9月には別の元社員も架空の投資話を持ちかけたとして詐欺容疑で逮捕。これを受け同社は全契約者への確認作業と社内調査を進めた結果、社員・元社員が計498人から総額約31億円を不適切に受領していたことが発覚。同社は今月16日、間原寛社長が2月1日付で退任する人事を発表。すでに金融庁は25年4月までに同社および持ち株会社プルデンシャル・ホールディングに保険業法に基づく報告徴求命令を出しており、25年10月には持ち株会社の浜田元房会長兼CEOが退任していた。

 主な手口としては、プルデンシャル生命の社員・元社員が保険契約者や見込み顧客などに元本保証や高いリターンを売り文句に架空の投資話を持ち掛け、口座に金銭を振り込ませるというもの。数千万円単位の被害を被った被害者もいるとされ、同社への訴訟も起こされている。

億単位の年収も可能だが…過酷な成果報酬の弊害か

 同社の営業モデルは生保業界では特殊だ。ライフプランナーは入社後一定期間を経過した後はフルコミッション制(完全歩合制)、いわゆる完全成果報酬制となり、多くの契約を獲得して高い成績を上げれば億単位の年間報酬を得られる一方、成績が振るわないと給与は低くなる。似たような報酬制度を導入している生保会社としてはソニー生命保険がある。
ソニー生命の営業職員もライフプランナーと呼ばれ、入社後2年間は固定給が支払われるが、3年目以降は顧客への貢献(販売実績・品質評価)に応じた報酬に移行する。プルデンシャル生命は16日に公表した調査報告書「信頼回復に向けた改革の取り組みについて」のなかで、次のように指摘している。

「業績に過度に連動する報酬制度は、金銭的利益を重視する志向を持つ人材を惹き付け、営業社員の収入の不安定さが不適切行為につながるリスクを増大させていました」

「『営業社員への過度な尊重』と『ビジネスモデルの絶対視』、『高業績者が大いに称賛される』という組織風土が醸成されておりました」

「営業諸制度などにおいて、営業社員は新規の契約のお預かりとその継続によって主に評価がされるため、業績が良く、より高い資格に認定され、多くの表彰を得ている営業社員は、お客さまからの評価や信頼も得られているものと認識がされやすく、結果、その発言権が大きくなりがちなところがありました」

元社員曰く「ノルマはない」「フェアな環境」

 元プルデンシャル生命社員はいう。

「私がいた頃は週1~2回ほどの出社が義務付けられている以外は縛りはなく、各営業担当者は自由に行動していた。知人や契約者からの紹介をつたって営業をかけていくというのが基本的なパターンで、国内の大手保険会社とは異なり、経営者や開業医、弁護士、外資系企業社員、そのほか特定の職業の人など、比較的高収入の人が契約者には多い。たとえば経営者であれば多くの経営者仲間とつながっていることが多いので、紹介をつたっていくなかで、その世界で強い人脈と専門性を手に入れて契約がとりやすくなる。

 社員の平均年収としては1000~2000万円は普通だが、毎週1本以上のペースで新規の契約を獲得し続けなければならないので、これは結構きつい。逆に言うと、それくらいの成果を出せない人は辞めてしまうので、生き残ることができるだけの能力がある社員はそれくらいの年収になる。

 誤解されがちだが、会社からノルマのようなものが課されることはあまりなく、成績が上がらなければ給料が低くなるだけで、会社から詰められるということもあまりない。生活できないほどの低い給料になれば辞めて転職すれば済む話なので、ある意味でフェアな環境だと個人的には感じる。先ほど働き方は自由と言ったが、金融機関なので顧客や保険募集に関係する第三者との金銭のやりとりにはシビアで、顧客などからお金を借りたりもらったりすることは社内規則で禁止されている。発覚したら解雇されても文句はいえない。教育制度は充実しており、金融知識のスキルアップを図りたい人にとっては良い環境だ。


 また、私がいた頃は年1回、成績上位者とその家族をハワイの高級ホテルで行う表彰式イベントに招待するという制度があり、会社のお金でハワイ旅行ができるというインセンティブも用意されていた」

「御用聞き」の信頼が招いた、予期せぬ落とし穴

 そんな同社で今回のような不正が起こった要因はなんなのか。

「保険の営業職に限らず、証券、住宅などの不動産、自動車の個人営業職の人は、一人ひとりの顧客とのつながりと信用を重視するので、たとえば保険の営業担当者が御用聞きのような立場で顧客から投資や不動産購入、旅行などさまざまな相談に乗り、信頼できるプロを紹介するといったケースは多い。なので、これらの業種の営業担当者が手を組んで、お互いに顧客を融通し合うことも少なくない。ちなみにその過程で内々にお互いに紹介数に応じてフィーの授受が発生することはプルデンシャルでは原則として禁止されている。

 そうしたなかで、プルデンシャルの営業担当者が協力関係にある投資関係の人物から依頼され、それが詐欺話なのかどうかよく分からずに、自分の顧客に投資話を持ちかけてしまったというケースは考えられる。これは保険商品の勧誘にからむかどうかという話以前に、個人による犯罪まがいの行為であり、裁判を通じて司法の判断を仰ぎ、個人が処罰を受けるべき話だろう」(同)

プライベートへの介入で、組織の活力が失われるか

 ここ数年、生保業界では不祥事が絶えない。20年には第一生命保険の元特別調査役による約19億円の金銭詐取事件が発覚。女性は計24人の顧客に架空の金融取引を持ちかけていた。23年には、日本生命保険の元営業職員が90代の女性に架空の保険契約を提案して約1532万円をだまし取っていた事案が発覚。24年6月には、明治安田生命保険の元営業職員が顧客10人から約1億3000万円をだまし取っていたことが発覚。25年3月には大樹生命保険が、元営業職員が顧客から約8130万円を詐取していたと発表。同12月には明治安田生命保険が、元営業職員が約2億円の詐取を行っていたと発表した。

 プルデンシャル生命は再発防止策として前出報告書内で「営業報酬制度等のインセンティブの仕組みの抜本的改善」「営業社員が、いつ、どこで、どなたに対し、どのような営業活動を行っているのか、を適時、適切に把握・管理する態勢を強化」などをあげているが、元社員はいう。


「プルデンシャルの競争力の源泉は完全歩合制に基づく高い報酬なので、その報酬制度が大きく変更されることになれば、社員のモチベーションは大きく低下することになるし、優秀な営業担当者は高い報酬が得られる別の会社・業界に転職していくだろう。

また、同社の営業担当者は顧客とゴルフに行ったり飲みに行ったりといったことも含めて、休日・深夜いとわず、さまざまなかたちで顧客との人脈を構築することで契約に結びつけているので、たとえばプライベートでの過度な交際を制限するなど、陰の営業活動を管理したり制限すれば、同社の競争力を大きく損なうことにつながる。

富裕層や高収入層の多くにはすでにプルデンシャル、そして他社の保険会社がべったり張り付き、なかなか新規顧客の開拓が難しくなりつつある。加えて、金融商品の多様化で生保商品以外の選択肢も増えるなかで、プルデンシャルの置かれる状況はますます厳しくなってくるのは確かだろう」

 近く行われる予定の会見でプルデンシャル経営陣が何を語るのかが注目される。

<TEXT/山田浩二>

【山田浩二】
飲食チェーンや学習塾、小売り企業を経てIT企業でシステム開発業務に従事。現在はフリーのライターとして主に企業・ITなどのジャンルに関する取材・記事執筆を行っている。
編集部おすすめ