―[貧困東大生・布施川天馬]―

「教育はコスパ最高の投資」と言われます。
 だからこそ、受験に対する期待値は上がり続けており、現代ではおよそ30%もの子どもが中学受験に参加するそうです。
ですが、本当に「中学受験➡中高一貫校➡名門大学」は価値があるのでしょうか?
 
 コンサルティング会社AFGの推計によれば、東大卒の生涯年収はおよそ4.6億。仮に現役合格・ストレートで卒業し、定年の60歳まで働いたとしても、平均年収額は約1180万円にすぎません。

 もちろん、これが平均年収より大幅に高いことは理解しています。

 ただ、仮に都内に居を構えるとすれば、年収1200万程度だと「お金持ち」にはなれません。できることといえば、せいぜい子どもを塾に通わせながら、年に一度家族で海外旅行をするなど「プチ贅沢」が関の山でしょう。

 批判されがちな「東京一極集中」ですが、東京に住むにはそれなりに経済力がいる。東大を出てすらも「小金持ち」に甘んじなければならない程度には、住めない街と化しているのです。

 であれば、わざわざ東大を選んで、東京に住む必要性はあるのでしょうか? 

 東大じゃなくても、もしくは東京じゃないほうが、「コスパ」は優れているのでは。今回は、教育における上京のメリットについて考えます。

「東大を出てもお金持ちにはなれない」東京に住む“異常なコスパ...の画像はこちら >>

高騰する東京の居住コスト

 先述の通り、東大卒の生涯年収は平均で4.6億。

 均せば毎年1,180万円もらっている計算となり、特に23区内に住んで、教育などに投資したい、あるいはちょっと贅沢がしたいなら共働きも検討したい数値です。

 ただ、これは東京の居住コストが異常に高騰しているためでもあるでしょう。

 わざわざ都内に居を構えずとも、大阪や札幌、福岡といった東京以外の都市部でも、かなり快適な生活が送れるわけで、わざわざ東京に住まいを持つ意味合いは薄いように感じる。


 都内に3LDKの部屋を賃貸で借りる場合、23区内の家賃相場は20万から50万以上までピンキリ。

 もちろん築年数など諸条件次第でもっと安い物件は見つかるでしょうが、とはいえ15万より安い物件はなかなか見つからないでしょう。

 一方で、大阪や福岡の場合は10万円前後から見つかりますし、札幌に至っては、「3LDK以上・中心区・築10年以内・駅徒歩5分以内」の好条件物件ですら9万円でみつかるほど。

「家賃の目安は収入の1/3」とはよく言われますが、家賃以外を切り詰めて暮らすにしても、東京で3LDK暮らしをするなら、最低でも手取り50~60万円は必要そうです。

 一方で、大阪・福岡・札幌は30万円もあれば足りる計算。

 手取り30万円というと、年収480万程度(ボーナス無しを仮定)でしょうか。一方で手取り60万となると、予想年収は1,000万の大台を突破し、なかなか難しそう。

 東京に暮らすには、大阪など他の大都市の2倍以上もの居住コストを覚悟したほうがよさそうですね。

東大➡東京就職と旧帝➡地方就職のコスパ差

 ただ、ここでは「教育の費用対効果」を検討しています。皆様ご存じの通り、学歴社会の日本では、名門大学に進学するほど、卒業後の進路の輝きは増していく。

 もちろん東大が稼げることは承知の上ですが、東京以外の大都市についても、大阪大学や北海道大学など、いわゆる旧帝国大学と呼ばれる名門国立大学がおかれています。そう言った大学群を出ても、それなりの収入を得られるはず。

 それでは、「東京に出てきて東大を出て東京に住む」か「地元の旧帝大に進学して、地元で就職する」のでは、どちらのほうが豊かになるのでしょうか。


 日経転職版による「大卒年収調査2025年度版」では、出身大学別年収ランキングが公開されています。それによれば、1位の東京大学(1266.9万)に対し、大阪大学(1064.8万)、九州大学(952.7万)、北海道大学(930.5万)も決して見劣りする数字ではない。

 もちろん、データに偏りがある可能性は否めませんし、旧帝大出身者が全員地元に就職したわけでもないでしょう。

 それでも、わざわざ住むだけで2倍以上の金がかかる東京に出るよりも、地元の国立大学でサクッと学歴をつけて、地元企業の就活で無双した方がコスパがよく見えます。

「稼ぐ金は少ないのに、相対的には豊か」なんてこともありうるかもしれません。

 特に、東京大学受験には、鉄緑会を筆頭とする中学受験組がひしめいており、中学1年生から異常量の勉強を経て、物量で突破を試みる文化が形成されています。

 もちろん、ペーパーテストですから、わざわざ物量を揃えずとも、市販の参考書と学校を活用して最低限のポイントを押さえれば、戦うことは可能です。ただ、それなりの才能と覚悟がなければ突破できない程度には、壁は厚い。

 むしろ、首都圏の異常勉強組が、東大や医学部、せいぜい京都大学に集中する現状をチャンスだと考えたほうがいいかもしれません。

 もちろん、首都圏組の中でついていけなくなった「都落ち」組が地方旧帝大に食指を伸ばす事例は多々報告されていますから、油断は禁物ですが。

「コスパ重視」が生んだ学歴社会の歪さ

 さて、ここまで「東京はコスパが悪い!東大よりも地方生まれは地元の国立大から地元企業に就職すべき!」と繰り返してきたわけですが、おそらく反論の声のほうが多いでしょう。

 旧帝大卒業生が東京で就職するケース、東大卒が地方で就職するケースは検討されていませんし、そもそも「大学と就職」を一緒くたにして考えるセンスのなさ。

 人生を歩むうえで「コスパ」ばかり気にしている人間の浅はかさ。


「東京はコスパが悪いから~」と繰り返すばかりで、「なぜ東京一極集中が起きるか」を考えない短絡さ。

 すべておっしゃる通りです。しかしこれは、学歴社会の歪さになされるべき指摘と同様なのです。

 確かに、明日の暮らしもおぼつかない小市民として、学歴のもたらす収入増の効果は無視できません。

 それでも私は、「金やコスパなんかで大学選びをするほど生活が困窮していないなら、行きたい大学に行くべき」と唱えたい。

加熱する受験戦争に意味はあるのか

 私自身、お金がないから地元の国立しか行けず、その中で一番ネームバリューがあった東京大学を選んだわけですが、別に東京大学の中身に用があったわけではありませんでした。

 妥協というと失礼ですが、私の生家に十分な金があったなら、東大なんてやたら受験科目が多くてハードルも高い面倒な大学をわざわざ受験しません。

 もちろん東大のおかげで「世帯年収300万円台家庭から東大に逆転合格」をコピーとした『東大式節約勉強法』など多数の書籍を執筆するきっかけをいただけたわけですが、それは結果論にすぎず、なんなら本当は音楽大学に進学したかった。

 今だからわかりますが、受験でひいこらいって社会階層を上げるなんて、貧乏人のすることです。

 金銭的にも精神的にも、満たされていないから、そうするしかないんです。

 確かに、教育によっていい大学に行けば、医学部に入れば、恵まれた暮らしが手に入るのかもしれません。

 ですが、私たちはパンだけで、パンのために生きるわけではなく、むしろパン以外の精神的な充足こそ目的になるべきでしょう。


 学歴社会は、人に努力を教えたかもしれません。ただ、教育や学問研究と不可分なほどに金を絡ませてしまった。金がなければ生きられないが、金は本質ではない。

 私は貧乏人には「頑張って受験しなさい」と勧めますが、それは生きるために受験しかないからです。

 ですが、実際には親のすねをかじって生きていけるような人々ばかりが、「努力」によって受験戦争で勝ち抜いている。果たして、教育は、学問は、誰のために在るべきなのでしょうか。

<文/布施川天馬>

―[貧困東大生・布施川天馬]―

【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。MENSA会員。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)
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