車でも、ロボットでもない。日本が世界に誇る技術――それは、トイレだ! AI、各種センサー、データ解析、ロボット技術——人々の「できたらいいな」を実現する最新Techが注がれるのが、トイレの個室。
下腹部の非常事態救う最新トイレをご覧あれ!

行列問題を“やさしさ”で解決

“やさしさ”でトイレの行列問題を解決?ロボット技術、町おこし...の画像はこちら >>
 まずは、国も問題視する行列問題。それをおたがいさまな“やさしさ”で解決する技術が、トイレ混雑抑止サービス「AirKnock」だ。入室をセンサーが察知し、個室の混雑状態や滞在時間を設置されたタブレットで可視化する。長時間利用といっても理由はいろいろ。体調不良で長時間こもらざるを得ない人もいる。退出を強制するのではなく「トイレの空き情報」を伝えることで、次の人の存在に思いを馳せさせる。

「開発には利用する方が、快く次の人に譲る気持ちになれることを大切にしました。開かずの扉の前で今か、今かと冷や汗をかきながら待った経験は、多くの人にあるはず。その切迫感を知っているからこそ、みなさん、アクションに移してくれるのだと思います」(株式会社バカン・金子譲治さん)

プライベート空間をAIの“目”が見守る

 トイレは公共の場にあっても、完全なプライベート空間であるため、人の目が届かないからこそ事件や事故の現場となりうる。そのリスクをいち早く察知するシステムも登場している。トイレ内異常検知システム「Xeye(エックスアイ)」だ。天井に設置したセンサーが「人」であることを認識すると、まずは骨格の動きを捉える。AIによる行動解析で、「人が倒れている」「長時間の居座り」「破壊行為」などを判定し、即座に通知する仕組みだ。

“やさしさ”でトイレの行列問題を解決?ロボット技術、町おこしまで…進化しすぎた「日本のトイレ」最前線
「Xeye」は駅や商業施設のトイレのほか、駅構内の授乳室への導入事例も。急病なトラブルの際には警備会社と連携してすぐに対応するシステムで安心を提供
「骨を透視するわけではなく、頭、肩、膝、足首など24の関節ポイントをつなぎ、姿勢推定アルゴリズムで行動パターンを解析しています。
記録されるのはいわば“棒人間”の動きだけ。プライバシーが守られるのでトイレの個室にも設置できるのです」(三協エアテック・古橋憲治さん)。

 開発には、排泄の動作に加え「コートを掛ける」「清掃を行う」といったトイレでの通常行動も学習。そのうえで、転倒や暴力行為などの異常行動を大量に学ばせ、正常/異常の識別精度を高めている。

「導入いただいたある施設では、破壊行為があった際に出入り口の防犯カメラ映像とXeyeのデータを照合して犯人特定につながりました」
 
 抑止効果も期待できるほか、急病の早期発見のために導入をする高齢者施設や工場もあるそうで、『Xeye』がトイレにもたらしたのは安心感、そのものなのかもしれない。

少子高齢化はトイレにも。ロボット開発できれいを維持

“やさしさ”でトイレの行列問題を解決?ロボット技術、町おこしまで…進化しすぎた「日本のトイレ」最前線
「狭小部清掃ロボット」。狭い部分に対応する清掃ロボットは市場になく、ネクスコ中日本が独自開発に着手。24時間利用者がいるSAのトイレでどう効率的に清掃ロボットを稼働するかが課題だとか
 中日本高速道路株式会社(NEXCO中日本)は、どこよりもいち早くトイレ美化に挑んできた企業だ。サービスエリアは、長時間移動の疲労やストレスを癒す場所。トイレも単なる排泄の場ではなく、心身のオアシスであるべき———。同社は民営化以降、こうした考えのもと、トイレ環境の質の向上に力を注ぎ、清掃管理に対しても次世代技術の開発や導入が進んでいるという。

 例えば、「スマートSAマネジメントシステム」は、トイレの利用状況に加え、トイレットペーパーや水石鹸、除菌クリーナーの残量、さらには臭気や温湿度、CO2までセンサーで検知。利用状況はリアルタイムで共有され、最適かつ効率的な補充タイミングを導き出す。


 そして、目下独自開発中なのが、「狭小部清掃ロボット」だ。設定時間になると充電ステーションから出動し、男子トイレの小便器下やその床を自動清掃する。そう、的を外したおしっこや勢いよく飛んだ飛沫で汚れたあの、箇所である。

「男子トイレの小便器の下は狭く、『エリアキャスト』と呼ぶ清掃スタッフが床にしゃがみ手鏡を使って手で掃除をしています。キャストの高齢化は進んでいますし、将来的には雇用の確保も難しくなる。そうした課題感から開発が始まりました」(NEXCO中日本・吉谷直人さん)

 少子高齢化の波は、我々が望む「きれいなトイレ」の存続にも影響を及ぼす。

「トイレも“目的地”であってほしい。そのためには匂わず、清潔感安心感があることが大切です。現在のサービス水準は高めていく必要こそあれ、下げることはできないというのが我々のスタンスです」

 人は一生のうち約3年をトイレで過ごすという。だからこそ、この小さな個室に、やさしさに導かれたテクノロジーが集まる。トイレのDX化は、必然だったのだ。

トイレは人を呼ぶ・トイレはおもてなし

“やさしさ”でトイレの行列問題を解決?ロボット技術、町おこしまで…進化しすぎた「日本のトイレ」最前線
長崎市にある「浦上駅前公衆トイレ」。どこからも死角ができない設計で、多機能トイレに加え、少し広めの男女共用トイレを設置するなどジェンダーにも配慮
 最後にトイレを町おこしに活用している事例を紹介しよう。
長崎市は’10年に市民団体「みんなにやさしいトイレ会議」が設立。その働きかけで、同市は、トイレを使う「市民」、設置する「行政」、トイレの専門家「メーカー」の3者の視点で、トイレの使い勝手に取り組むことになる。長崎市は、市内の公共トイレの改善をソフト」ハードの両面で進めている。
 
 使いやすく誰にでも使いやすい公共トイレをと、「倒れても押せるよう緊急ブザーを上下につける」「ペーパーホルダーを左右両側につける」「男性用トイレへのサニタリーボックス設置」といった基本マニュアルを作成。公共トイレの改修には会議のメンバーも参加し、「浦上駅前公衆トイレ」「長崎市庁舎のトイレ」は、日本トイレ協会の「JTAトイレ賞」を受賞している。市がトイレ施策に注力したそもそものきっかけは、市街地のにぎわい創出プロジェクトの一貫だという。

「街を歩いて回ってもらうにはトイレが必要。プロジェクトの軸のひとつにトイレを掲げたのです」(長崎市まちなか事業推進室)
 
 活動を始めて15年。定量的な効果は出ていないが、「『どこにでも公衆トイレがあるね』『公衆トイレなのにくさくない』という声をいただいている」と、好評を得ている。みんなにやさしいトイレ会議の竹中晴美委員長はこう語る。

「トイレはお出かけ先の安心感そのものなんです。安心できれば、みんなが来てくれ、ひいては街の賑わいになる。
ハイテクのトイレ、おしゃれなトイレもすごいし素晴らしい。でも、なにより大切なのはそこにやさしさがあるか。トイレは基本、愛なんです」

 かの、ビル・ゲイツはこう語っている。”テクノロジーは、私たちが他者に対して持つ、生来の思いやりを解き放つ“。世界トイレ機関によれば、人は一生のうち約3年間をトイレで過ごすという。「いやいや、3年では足りない」という人も多いだろう。だからこそ、その空間に愛とやさしさ、思いやりに導かれたテクノロジーが注がれる。トイレのDX化の流れは必然なのかも、しれない。

取材・文/小山武蔵
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