東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件で、東京地裁(中尾佳久裁判長)は22日、大会組織委員会元理事側への贈賄罪に問われた出版大手「KADOKAWA」(東京都千代田区)の角川歴彦(かどかわ・つぐひこ)KADOKAWA前会長(82)に対し、懲役2年6月、執行猶予4年(求刑・懲役3年)の判決を言い渡した。実質的な経営トップとして贈賄を主導したとする検察側に対し、前会長は全面無罪を主張していたが、判決はこれを退けた。

角川氏は記者会見で「検察特捜は大物が必要だった。令和の袴田巌さんにするなという声が裁判官に届かなかった。上訴して、真実が明らかになるよう闘っていく」と表明。弘中惇一郎弁護団長は「大変残念で、到底受け入れることはできない。無罪を確信していたので、控訴の準備をしていなかったが、明日(23日)、控訴する」と表明。角川氏は23日、地裁判決を不服として控訴した。

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「五輪汚職の中枢」とされた贈賄構図

起訴状によると、角川氏は、部下の元専務と元五輪担当室長の2人=いずれも贈賄罪で有罪確定=と共謀。元電通専務の組織委元理事、高橋治之被告(81)=受託収賄罪で公判中=にスポンサー選定での後押しを依頼し、その見返りとして2019年9月~21年1月の間に9回にわたり、元理事の知人が代表のコンサル会社に送金したとされる。

これまでの公判で、弁護団(弘中惇一郎弁護団長)側は「スポンサー就任に向けた社内検討は元専務を中心に始まった。元会長に贈賄につながる報告をしたという元専務などの証言は、具体性に欠ける不自然な内容で信用性はない」と無罪を主張していた。角川氏は、昨年9月の公判(結審)で「会長になって以降、会社の経営に直接関わっていない。(部下から)報告を受ける立場になかった。起訴事実は、全く身に覚えのないことで、無実であり無罪だ」と最終の意見陳述をしていた。


五つの贈賄ルートに及んだ五輪汚職事件では、贈賄側と収賄側であわせて15人が起訴され、これまでに角川氏の元部下2人を含む12人の有罪判決が確定している。

角川氏は22年9月に逮捕され、23年4月に保釈された。否認したことで勾留(身体拘束)が長期化し、身体的・精神的苦痛を受けたとして、国に2億2千万円の賠償を求めて24年6月、「無罪主張をする人ほど保釈されにくくなることで、冤罪の温床を作り出している。これは、日本の憲法にも、国際人権条約にも違反している」として、東京地裁民事第6部(大津多香裁判長)に人質司法違憲・国賠訴訟を起こし、これまで5回口頭弁論が開かれている。刑事被告人が公判中に捜査や勾留中の違法性を巡って国賠訴訟を起こすのは極めて異例だ。国賠訴訟の訴訟代理人(主任)は、袴田事件で再審開始を最初に認めた元静岡地裁裁判長の村山浩昭弁護士だ。国賠裁判については後述する。

「令和の袴田にするな」怒りの会見

角川氏と弁護団は判決後、都内で記者会見した。喜田村洋一弁護士が司会した。ニコニコニュースが動画を掲載している。

角川氏は「検察特捜は大物が必要だった。令和の袴田巌さんにするなという声が裁判官に届かなかった。上訴して、真実が明らかになるよう闘っていく」と表明し、捜査をこう振り返った。


「4回目の任意の取り調べが高級ホテルのツインルームであった。1時間という約束だった。ところが検事3人がいきなり手錠、腰縄を掛けて、ホテルの厨房を抜けて、車で東京拘置所に連れて行かれた。ホテルで手錠を掛けられ、身体拘束するのは、被疑者にもっとひどい目に遭うぞという警告だと思った。納得できないことで、拘禁されて学習し、日本国憲法と国際人権法に反していると確信した。私は誰かを傷つけたりしたことをしたという容疑ではない。どうしてこういうホテルでの身柄拘束から始めたのかから始まった私なりの人質司法論だ。

私の226日の勾留は、袴田事件の袴田巌さんや、大川原化工機事件で治療を受けられずにがんで亡くなった相嶋静夫さんらの苦しみに比べると、序の口なかもしれない。日本には多数の冤罪難民がいるのに、社会は放置している。逮捕後に差し入れなどで寄り添ってくださった方々に感謝する。拘置所で厳しい寒さに耐えていたことを思い出しながら、裁判長の判決を聞きながら、今日の判決を一つの糧として、学び直し、高裁で闘っていくと決意した。今後もご支援をお願いする」

「証拠なき有罪」弁護団の反撃

【東京五輪贈賄事件】KADOKAWA前会長、226日勾留の“人質司法”を告発。「証拠なき有罪」弘中弁護士が徹底批判
弘中惇一郎弁護士は判決について「客観証拠が皆無で、供述だけをつなぎ合わせた認定だ」と厳しく批判した。共謀事件では、誰が、いつ、どのように共同意思決定を行ったのかを裏付ける必要があるが、判決は「いつ共謀が成立したのかを何一つ認定していない」という。


・検察が主張したポイントだけを拾い集めている
・全体として合理的かどうかの検討が欠けている
・検察に不利な事情は排除されている


上記の点を指摘し、「証人の供述が“自然”“納得できる”といった感覚的な評価で有罪を認定している」と疑問を呈した。

また弘中氏は、捜査手法そのものにも問題があると述べた。検察が関係者を繰り返し取り調べ、シナリオを押し付けているとし、次の点を挙げた。

・取り調べの録音、録画(約100時間)を裁判所が十分に検討していない
・任意の取り調べについては録画が残されていない
・「証人テスト」と称し、実際の尋問時間の10~20倍をかけて証言内容を指導、教育している実態がある


こうした過程を経た供述を、裁判所が「特にうそをついていない」と前提に判断している点を問題視し「到底受け入れられない判決だ」と述べ、即日控訴する考えを表明。過去に控訴審で無罪を勝ち取ったロス疑惑銃撃事件(三浦和義氏)の経験に触れ、「二審で勝ちたい」と語った。

弁護団の一人で、元裁判官の村山浩昭弁護士も、「有罪にするために、そこまで弱い証拠を使うのかと驚いた」と述べた。

客観的な裏付けが乏しい点や、供述がどのように形成されたのかの検討が不十分で、供述心理学の知見も無視されているとし、「元裁判官として嘆かわしい」と批判。控訴審で判断を覆すため、弁護団として総力を挙げるとした。

「第二の検察だ」角川氏の反論

角川歴彦氏は、不利な証言をした元部下について問われると、「編集者としては優秀だが、社会人としてどうかという面はあった」とし、「事件を通じて、彼の長所と欠点が表れ、権力に付け込まれてしまったのではないか」と述べた。また、自身のスケジュール帳に「高橋」と記されていた点をもって、「会ったことがないというのはうそだ」と認定されたことについて、「秘書が書いたもので、自分は高橋氏を知らない」と反論。森喜朗元首相に会いに行った際に偶然居合わせただけだとし、判決認定に抗議した。

・会見で無実を訴えたことを理由に逮捕された
・逮捕、勾留そのものが憲法、国際法違反だ


と主張し、「司法制度の問題点を社会に訴えるため、人権裁判を起こした」と語った。

弘中氏は、「国策捜査に引きずられて裁判所が有罪にしたのか」との質問に対し、「裁判所が国策判決を下したとは思わない」と前置きしつつも、今回の判決については「司法官として、共謀成立の裏付けを検討していない質の悪い判断」と断じた。


「無罪判決を明確に書ける裁判官が少ない」、「多くの事件で有罪が前提になっている」という司法の構造的問題にも言及。「人質司法がうまく使われたと思うか」との質問に、弘中氏は「悪影響は間違いなくある」と断言。

・身柄拘束により情報が操作される
・周辺関係者が逮捕を恐れ、検察に迎合する
・弁護人の十分な活動が妨げられる


上記の理由から「弊害が極めて大きい」と述べた。

最後に弘中氏は、「法律を変えることも重要だが、構造を変えるのは容易ではない」とし、「個々の事件で、被疑者・被告人と弁護士が闘い続けるしかない」と強調した。

否認した唯一の被告、226日の勾留

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いち早くネット時代に着目し、メディアミックスを推進した角川歴彦氏は、父・角川源義氏が創業したKADOKAWA(前身・角川書店)を、講談社、集英社、小学館に対抗する大手出版社へと発展させてきた。

その角川氏は、自身が「国策捜査の標的にされた」と受け止めている。2022年8月8日から3回にわたり、東京地検特捜部の久保庭幸之助検事から任意の聴取を受けた後、同年9月14日に突然逮捕された。当時79歳で、不整脈の持病を抱え、11月には3回目の手術を控えていた。

にもかかわらず、保釈請求は「証拠隠滅の可能性」を理由に却下された。東京拘置所では氏名ではなく「八五〇一」と呼ばれ、名前で呼ばれることはなかったという。

角川氏は、検察調書には一通も署名・押印しなかった。その結果、五輪汚職事件で逮捕・起訴された他の15人が公訴事実を概ね認めて次々と保釈される中で、ただ一人、「証拠隠滅の可能性」を理由に長期勾留され、「あなたは囚人になった」と検事から告げられた。勾留期間は226日に及んだ。


この提訴に合わせて、角川氏は『人間の証明 勾留226日と私の生存権について』(リトルモア)を出版している。国に賠償を求める人質司法違憲訴訟については、弁護団が専用サイトを開設し、経過を発信している。

同書の中で角川氏は、海外から「中世のなごり」と批判される日本の司法制度に触れ、「制度を近代化し、自分と同じ犠牲者を生まないために死力を尽くす。それは、出版人としてメディアに生きてきた者の責務であり、生涯最後の仕事として取り組むに値する」と強調している。

リークと逮捕の因果関係を問う

著書では、自身も身を置いたメディアへの批判が展開されている。「人質司法の恐怖を最初に体感したのはマスメディアによる犯人視報道だった」「特捜検察はメディア報道を利用して被疑者や被告人を『犯罪者』に仕立て上げ、世論の後押しを得て強引に捜査を進める。これはまさに現代の『人民裁判』である」

この国賠裁判で、国側は答弁書で「角川被告が、マスコミ記者の前で無実の主張をしたことで、証拠隠滅の恐れが生じたため逮捕した」という主張をしている。

角川氏の刑事・民事の両裁判を支援している伊達百合氏(角川文化振興財団事務局員)は私の取材にこう述べた。

「久保庭検事が2回目の任意の取り調べの時に、家の前にメディアの人がいっぱい来て、ポンポン、ポンポン押して、凄く困っているということを言ったら、久保庭氏が『ああ、悪い、悪い。上の方がリークしちゃったんだよ』と言った。その後に新聞報道も出て、真夜中まで100人以上が集まってきて、角川は、近所迷惑だということで、代表質問を受けた。それが22年9月5日で、9月6日にまた久保庭検事から呼ばれて『まずい、まずい、あんなことしちゃだめですよ』と言って、メディアに発言しないように求めた」

その翌週の9月14日に角川氏は逮捕された。当時79歳で、不整脈の持病があり、11月に3回目の手術を受ける予定だ。
保釈請求は「証拠隠滅の可能性」を理由に却下された。

国側は国賠訴訟の答弁書で、「角川氏が代表質問を受けて自分が無実であることを語ったので、罪証隠滅の恐れがあると判断して逮捕した」と記述している。国側の訴訟代理人(検察官出向の法務省事務官)は「被疑者が無実というと、部下など関係者がそれに引きずられ真実を言わなくなる。証拠を隠す恐れも出る」と主張している。

伊達氏は「自分たちがメディアにリークしておいて、取材を受けたことが罪証隠滅になるといって逮捕。これがメディアと権力の癒着の実態だ」と指摘する。

「無実を語ると捕まる国」への告発

報道各社は、角川歴彦氏が訴える「メディアが権力に利用され、無実を主張すると逮捕・長期勾留につながる構造」について、十分に伝えていない。

現在の争点は、国側が答弁書で「記者団に無実を訴えたことで証拠隠滅の恐れが生じたため、逮捕・勾留した」と主張している点だ。国側はさらに、社内関係者との口裏合わせの可能性も挙げているが、弁護団は「根拠のない言いがかりだ」と反論している。

この点について、弘中惇一郎弁護士は「無実を訴えたこと自体を証拠隠滅と結びつける発想には、裁判官も呆れているのではないか」と批判した。

また、記者から「刑事事件で一審有罪となったことが人質司法国賠訴訟に影響するか」と問われた村山浩昭弁護士は、「論理的には影響しない」としつつ、「冤罪の温床で無実の人が一審有罪になる例は多く、事実上の影響は否定できない」と述べた。

一方、角川氏は保釈条件について「接触禁止の対象者が緩和され、余生でやりたかった仕事に取り組めるようになった」と語った。国賠訴訟をめぐっては、弁護団とともに地裁近くで学習会を重ね、「人質司法が無実の人をも有罪にしてしまう構造」を訴えている。

勾留中の体験については、「人間として扱われていないと感じた。こうした状況を変え、同じ思いをする人を出したくない」と語り、「刑事事件の有罪・無罪を超えて、人質司法をなくすために闘い続ける」と強調した。

筆者の取材に対して角川氏は、5月に埼玉県所沢市で日中アニメ祭を開催する準備を進めていることを明らかにし、「政治的に難しい状況だからこそ、民間の文化交流として成功させたい」と語った。

「裁判の結果にかかわらず、惨めな逮捕や勾留が他の人に起きないよう努力する。闘いは続く」と前向きな姿勢を示した。<取材・文/浅野健一>

【浅野健一】
1948年、香川県高松市生まれ。72年、共同通信社に入社。84年『犯罪報道の犯罪』(学陽書房)を発表。ジャカルタ支局長など歴任。94年に退社。94年から2014年まで同志社大学大学院メディア学専攻教授。人権と報道・連絡会代表世話人。『記者クラブ解体新書』(現代人文社)『安倍政権・言論弾圧の犯罪』(社会評論社)『生涯一記者 権力監視のジャーナリズム提言』(社会評論社)など著書多数。あけび書房から2月、『自民党は解党・解散せよ 統一協会・裏金・軍拡の政党は不要』と『安倍元首相銃撃・山上徹也さん裁判傍聴記』を緊急出版する。現在、予約を受け付け中。詳細はあけび書房のHPを参照。 Xアカウント:@hCHKK4SFYaKY1Su
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