外資系生命保険大手・プルデンシャル生命保険の社員や元社員ら100人以上が、顧客に架空の投資話を持ちかけるなどし、総額約31億円を不正に受領していた問題が波紋を広げている。会社側は記者会見で謝罪し、被害者への全額補償を表明したが、そこで語られたのは主に「組織としての反省」と「再発防止策」だった。

だが、世間の関心はそこではない。だが、それで腑に落ちる人はどれほどいるだろうか。会見で繰り返されたのは、組織としての反省と再発防止策。だが、被害者が本当に知りたいのは、そんな“総論”ではない。

・社名や肩書きを“信用の盾”にして顧客をだました営業社員たちは、刑事責任としてどこまで追及されるのか。
・消えた31億円の裏で、個々の“詐欺師”は実刑を免れるのか。

「組織的な関与はない」「手口の共有はなかった」と会社は説明するが、それで個人の責任は軽くなるのだろうか。企業が補償に動く一方で、不正に手を染めた社員個人の行為は、刑法上どのように評価され、どんな結末を迎える可能性があるのか。刑事責任という観点から、この事件を整理していく。

プルデンシャル生命“31億円詐欺”営業社員の刑事責任は?「短...の画像はこちら >>

社名を使った“架空投資”は即アウト。詐欺罪が真正面から成立する

まず問題となるのは、営業社員個人がどのような罪に問われるのかという点だ。

アディーレ法律事務所の南澤毅吾弁護士は、「今回のように架空の投資話で顧客から金銭をだまし取った場合、営業社員個人は刑法246条の詐欺罪に問われる可能性が極めて高い。
嘘をついて金銭を受け取っているわけですから、警察官や家族を装ってお金をだまし取る特殊詐欺と、構造的には何ら変わりません」と断言する。

ただし、今回の不正騒動には「実態がある投資話に勧誘したケース」も含まれているという点には注意が必要だ。

「顧客が投資の実態を把握し、リスクを理解・納得した上で投資していたのであれば、社内規定や保険業法上の問題はあっても、詐欺罪に当たらないケースもあり得ます」

不正に関与した社員・元社員が100人以上にのぼると報じられているが、全員が一律に詐欺罪に問われるわけではないという。

数百万円でも実刑は避けられない。3~5年が“最低ライン”

では、この“詐欺”に、刑事司法はどれほど重い答えを突き付けるのか。被害額が数百万円規模と数千万円規模が混在する今回のケースについて、南澤弁護士はこう見る。

「一般論として、被害額が大きいほど量刑は重くなります。ただし今回は、有名保険会社のネームブランドを使って詐欺に及んだという悪質性が共通しています。そのため、金額差によって極端な量刑差が生じるとは考えにくいでしょう」

そのうえで、かなり踏み込んだ見通しを示す。

「数百万円規模であっても、適切な賠償が行われなければ、実刑3~5年は最低ラインと想定されます。被害者が多数に及ぶ場合や、被害額が数千万円規模であれば、本人や会社による弁済・補償があったとしても、5年以上の実刑判決も現実的です」

会社が全額補償しても無罪にはならない。社員の刑事責任は別物

会社が被害者に全額補償する方針を示している点は、刑事責任にどのような影響を与えるのか。


「被害回復が図られている点は、量刑上、一定程度考慮される可能性はあります。しかし、それによって社員個人の刑事責任が消えることはありません」

実例として挙げるのが、ソニー生命保険の社員による不正事件だ。

「会社資金をビットコインに投資した事件では、懲役9年の実刑判決が下されました。詐欺罪の上限が懲役10年であることを考えれば、極めて重い判決です。この事案では、ビットコインの値上がりによって会社が最終的に利益を得ていたにもかかわらず、168億円という被害額と、業界への影響が重く評価されました。被害回復がされているかどうかよりも、保険業界の信用を失墜させた点が厳しく問われたのです」

「知らなかった」では逃げ切れない。上司・管理職も共犯の可能性

会社側は「組織的な関与はない」「手口の共有はなかった」と説明しているが、この主張は刑事責任の面でどこまで通用するのか。

「管理職や上司が、不正行為を認識しながら黙認していた、あるいは便宜を図っていたと認定されれば、共犯や幇助として刑事責任を問われる可能性は十分にあります。社内チャットやメールなどに、不正を黙認するやりとりが残っていれば、直接金銭を受け取っていない管理職であっても、詐欺の共犯・幇助が成立し得ます。

もっとも、現実は簡単ではない。

「顧客とプライベートな関係を築いたうえで行われるケースが多く、詐欺をする側も“会社にバレない”よう巧妙に動きます。管理職や上司の関与を立証するハードルは高いでしょう」

1990年代の詐欺は「時効」という壁

今回の調査では、1990年代の事案も含まれているとされるが、刑事責任を問えるのか。

「詐欺罪の公訴時効は7年です。
1990年代の事案については、刑事責任を問うことはできませんし、民事責任についても、詐欺行為から20年が経過していれば、時効が成立している可能性が高いです。正直に言えば“逃げ得”ですが、これが現行司法制度の限界でしょう」

ただし、時効が経過していたとしても、会社が任意に補償する可能性もある。

「信頼回復の観点から、時効成立のケースでも補償が行われる可能性はあります。被害者としては、会社に補償を求めるのが現実的な救済手段です」

「稼げなかったから」は通用しない。裁判でむしろ不利になる事情

会見で同社の次期社長は、不正の背景として「報酬の変動が大きい」「短期間で大金を得やすい」といった組織構造を挙げた。これが裁判で仮に被告側証言から出された際、情状酌量として考慮される余地はあるのだろうか。南澤弁護士は「結論として、情状酌量どころか、むしろマイナス評価になる可能性が高いと思われます」と断じる。

「プルデンシャル生命は『外資系・フルコミッション・高収入』というイメージで社員を集めてきました。その実態を理解したうえで入社し、お金欲しさに犯罪に手を染めたのであれば、動機のすべてが利己的です。会社に騙されたという言い訳は通じません。私欲に基づく犯罪は、裁判所からも厳しく非難される傾向があります」

低賃金で搾取される環境とは違い、転職や起業という選択肢もある中で、犯罪という“近道”を選んだ点は、個人の責任と評価されやすいというわけだ。

「反社に脅迫され、逃げ場のない環境で詐欺に加担させられたケースとは全く異なります。
自らの意思で人をだまし、贅沢をしてきた行為に同情の余地はありません。その感覚は、量刑にも反映されるでしょう」

企業が補償で幕引きを図ろうとも、人をだまし、信用を食い物にした行為そのものが消えるわけではない。社名を背負った“営業”から転落した“詐欺師”たちが、刑事司法の場でどんな裁きを受けるのか。この事件の本当の決着は、これから始まる。<取材・文/日刊SPA!取材班>

プルデンシャル生命“31億円詐欺”営業社員の刑事責任は?「短期で大金を稼げる」社風だからこその罪の重さ
アディーレ法律事務所 南澤毅吾 弁護士
「パチスロで学費を稼ぎ、弁護士になった男」という異色の経歴を持つ。司法修習時代は、精神医療センターにて、ギャンブルを含む依存症問題について研修を受けた経験があり、一般市民の悩みに寄り添った、庶民派の弁護士を志す。アディーレ法律事務所・北千住支店長として対応した法律相談数は、累計数千件に及び、多様な一般民事分野の処理経験を経て、現在は交通事故部門の責任者となる。
編集部おすすめ