成績は「270人中250位」
叶斗さんは現在、23歳。これまで、2022年に宅地建物取引主任者の資格を、2024年に行政書士の資格を、それぞれ取得している。中学を卒業後は土木作業員や解体工などの肉体労働に従事し、頭脳労働の経験がほとんどないというが、いわゆる”地頭”が良かったのではないか。そんな疑問を口にすると、彼は「とんでもない」とかぶりを振った。「小学校、中学校は地元の公立に通っていました。中学のときは270人の生徒がいましたが、成績は250番台をうろちょろしていました。当然、勉強ができる部類ではありませんし、自分でそう思ったこともありません。成績表は5段階評価でしたが、だいたい3分の2は“1”がついていましたから」
勉強からは早々にドロップアウトし、中学生くらいになると地元の悪友とつるんで非行に手を染めた。その背景として、家庭環境も無関係ではないだろう。
「母は高校3年生で僕を出産しました。けれども、本当のお父さんと住んだのは僕が1歳になるかならないかくらいまでで、そのあと数年して現在の養父と再婚しています。当たり前ですが、僕には本当の父親と過ごした記憶はありません」
再婚家庭で感じた「疎外感」
叶斗さんの下には4人のきょうだいがいるが、いずれも母親と養父の間の子どもだ。「養父から差別的な扱いを受けたことはない」としながらも、一方で「どこか遠慮して、家庭に居心地の悪さを感じていた」と振り返る。「たとえば、何かを買ってほしいなと思って母に伝えても、『お父さんに相談してみて』と言われてしまうと、なかなか言い出せなかったですね。養父は現在でこそ事業が成功して、家族は裕福な暮らしをしていますが、結婚した当初はなかなか経済的にも厳しいことが子どもの僕にもわかりました」
一般的に子どもが待ち望むクリスマスなどのイベントにおいても、「祖父母からのプレゼントはありましたが、考えてみると両親からプレゼントをもらったことはないかもしれないです」と叶斗さんは力なく笑った。
非行に走った背景は…
「中学3年生のころ、僕はいわゆる非行少年でした。養父からは『私立高校に行かせてあげられるお金はない』とあらかじめ言われていましたが、先ほどお話した僕の学力では、公立高校への進学は無理でした。受験はしましたが、当然結果は不合格。ただ、実は一校だけ、私立高校を受験して合格していたんです。けれども日頃の生活態度が悪いこともあり、また授業料も支払えないということで、結局進学はできませんでした」
そのまま非行に突き進んだ叶斗さんは、警察や弁護士の世話になるほどの事件を数件起こしてしまう。最初の方こそ気持ちに寄り添ってくれていた両親も、まるで更生に向かわない叶斗さんの姿をみて、徐々に困惑の色を強めた。当時の気持ちを、叶斗さんはこう語った。
「家庭や学校という、身近な社会に対して、常にわだかまりを持っていましたよね。たとえば、学校では友だちと一緒に悪さをしても、自分だけ厳しく怒られるなぁとか。家庭なら、父の事業が成功していくにつれて、経済状況も良くなっていったので、下のきょうだいたちが当たり前にしてもらっていることも自分のときはなかったなぁとか。
養父に「見放される恐怖」で心が動いた
養父もまた、何もせずに放置していたわけではない。不動産関係の事業を展開していたため、叶斗さんを見かねて宅建に挑戦させた。「養父の会社の社員にしてもらって、『宅建の勉強をしたら1時間1000円やるぞ』なんて言ってもらったこともありました。けれども、お金が目的で勉強するというのができなくて。結局、他の仕事で稼いで、勉強はやらなくなってしまったんです。そうしてのらりくらりしていた矢先、また事件を起こしてしまって……。『次は非行に走らない』と約束を破る形になってしまったんです。何かを言われたわけではないのですが、『このままでは養父に見放される』と思いました。そこで、宅建の勉強を再開して合格し、自分の覚悟を見せたんです」
養父を失望させたくない――そんな思いで20歳の叶斗さんが勝ち取った国家資格だった。
弁護士になって得たいものはお金ではなく…
「まだ少年だった僕の事件を担当してくれた弁護士の先生が『君は弁護士に向いていると思う』と言ってくれたんです。でも当時は、弁護士になれるとは夢にも思いませんでした。
だが叶斗さんが法曹を目指したきっかけを聞いたとき、「向いている」理由が筆者には少しだけ理解できたように感じた。
「僕には、みずからの“ヤンチャ”で家族を心配させた過去があります。自分自身、社会に役立つ人間ではなかった自覚もあります。そしてこの社会には、現在、同じように何かしらのきっかけで能力を活かすことができない人、自らの能力に気がつくことさえできない人、恵まれない環境にいてなかなか将来を描けない人がたくさんいるのだろうと思います。
正直、弁護士になって得たいものは、経済力ではなく、影響力なんです。影響力を持つことができれば、こんな僕でもひとかどの仕事ができるようになったという生き方を伝えることができます。今は思い通りにならなくても、人生を諦めずに進んでいきたいと願う人たちのために、力を注ぎたいと思っています」
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合格を知らせるため、叶斗さんが最初に電話をかけた相手は養父だったという。「裏切りたくない人がいれば、人は生まれ変われる」。彼のその言葉に、立ち直りのヒントがきっとある。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。
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