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 高市早苗首相が衆議院を電撃解散し、27日衆議院総選挙が公示され、本格的な選挙活動が各地でスタートした。2月8日の投票日とする今回の衆議院選挙。
減税、物価高対策、社会保障、外交……さまざまな争点があるが、その前に立ち止まりたいのが、やはり今回の高市首相の「解散権行使」に対する疑問の声だ。予算審議や特例公債法の山場を前に、なぜいま解散が選ばれたのか。高市首相の狙いと中道改革連合をはじめとした野党の対応、そして有権者が問うべき本質的争点は何なのか。日本の行く末を左右する重要な選挙について、倉山満氏が読み解く(以下、憲政史研究家・倉山満氏による寄稿)。
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高市首相の解散は合憲か違憲かと言えば合憲

 高市早苗首相、衆議院を電撃解散。

 これに対し、「理論的根拠がないとの批判」がある。はて、どの理論か。どうせ、日本国憲法の条文と睨めっこしか、してないのでは?「衆議院選挙で総理大臣を選ぶとは書いていない」くらいの、目の前の文字しか読めない、不十分な国語力しかない論者の意見だろうが。

 総理大臣の解散権は憲法七条に書かれている。天皇は内閣の助言により衆議院を解散するが、立憲君主国において、内閣の助言は決定権である。しかも憲法学の通説と政府見解は「天皇ロボット説」だ。事実、総理大臣は好き勝手な理由で解散権を行使してきた。「僕は小学校の通信簿でも正直者と書かれたのに、嘘つきと言われるのは耐えられない」「野党の幹部の不倫がバレたので、今なら選挙に勝てそうだ」「闇将軍が裁判で有罪になったので、気分が悪いから解散しろと命じられた」などなど、およそマトモと言えない解散理由は過去に多々ある。
帝国憲法の時代もひどくて、「政府は代議士への懲戒解雇の様に解散している」と評された。

 総理大臣が衆議院を解散すると言えばできるようになっている以上、高市首相の解散が合憲か違憲かと言えば合憲だ。

 ただし、立憲か非立憲かは別である。立憲とは「憲法の求める政治を行ったか」のこと。だから「合憲だが、非立憲」は、当たり前にある。

「合憲ならば何をやっても良い訳ではない」

 そして立憲政治には常道がある。これを「憲政の常道」と称する。立憲政治の常道、憲法政治の常道の略だから、「憲政の常道」。何を隠そう(隠したことは無いが)、私は「憲政の常道」の専門家である。

 高市首相のやり方を「憲政の常道」に則っていると言えば、私は憲政史研究者の看板を下ろさねばならないだろう。「このやり方」の部分だけを切り取れば。ただし、部分で全体を否定するのは短絡的だ。「憲政の常道」は、そんな単純な話ではない。


「憲政の常道」とは、広義には民意に従う政治のことである。狭義には、「戦前の二大政党による議院内閣制」を指す。戦前日本人は、「合憲ならば何をやっても良い訳ではない」と立憲政治の確立を求めた。そして慣例が積み重ねられ、「憲政の常道」が確立した。

 ただし、バラ色ではない。むしろ戦前の二大政党の政争は激しかった。戦前は政権交代したら、平気で1月に解散した。しかし帝国憲法はよくできていて、予算が成立しない場合は、「前年度予算執行」という制度があったので、政府が崩壊することはない。だから安心して(?)政争を行えた。

“こんな時期の解散”に理由はなかった

 現行憲法では、そのような制度は無い。仮に予算が成立しなければ、暫定予算を組み続けねばならない。暫定予算では支出は限られ行政が停滞するし、その暫定予算も成立しなければ政治そのものの崩壊である。だから、通常国会が始まる1月から予算が成立するまでの3月は「政争を仕掛けてはならない」が、戦後政治の暗黙の了解だった。


 だから、「首相、解散の意向」との記事が流れてから、「こんな時期に解散する奴がいるか?」と方々から批判が出た。枝野幸男氏は「どうしても1月に解散したいなら、3日までに国会を召集すべきでは」と批判していたが、こればかりは頷ける。

 そこで、高市首相の会見に注目した。「3日まででもなく、予算成立後でもなく」の理由に。

 結論。見事に無かった。

 中身は立派なのだが、要するに、「今なら勝てる。やりたいことをやれる基盤をつくりたい。野田さんとどちらが首相にふさわしいか、選んでほしい」だった。最後に至っては脅迫だ。私も「野田佳彦首相」なら、どんなに不満でも高市自民を選ぶ。

高市首相が「憲政の常道」の蹂躙なら反対党は…

 一応、「なぜ、この時期なのか」は外交日程と予算審議の都合とか。言うに事欠いたか。
外交日程は自分で決められる。選べないのはサミットくらい。予算審議を考えるならば、この時期に解散する理由は無い。むしろ今年は、5年に一度の特例公債法も可決しなければならない。参議院が可決してくれなければ、赤字国債を出せない。衆議院で三分の二の多数を獲れば別だが、単なる過半数では参議院で苦労する状況は変わりない。だから勝利条件は与党で三分の二だが、首相は「与党で過半数」と低すぎる条件。それ、現状維持にすぎないのだが。さらに、今年は日銀人事もある。

 以上、「憲政の常道」の蹂躙である。

 しかし、部分で全体を決めつけてはならない。高市首相が「憲政の常道」の蹂躙なら、反対党は存在そのものが「憲政の変態」だ。
「憲政の常道」の反対を「憲政の変態」と呼ぶ。立憲民主党と公明党が合併してできた新党、中道改革連合は、存在そのものが「憲政の変態」ではないか。

いとも簡単に基本政策を捨てた立憲民主党

 立憲民主党は、「安保法制は違憲なので反対」と国を挙げて大騒ぎを起こした人たちの末裔であり、「原発ゼロ」を掲げて国民民主党と分裂し、最近まで「消費増税」を訴えていた。直近の首班指名選挙でも玉木雄一郎国民民主党代表を担ごうとし、「基本政策が合わないのに組めない」「本気で組むなら、自分たちの過去を総括すべきだ」と拒否されたばかりだ。

 ところが、いとも簡単に、基本政策を捨てた。「新党をつくりたいから玉木代表には党首になっていただきたい」と頭を下げるべきでは。

 首班指名では「候補は野田でなくていい」と言い切った事実を無かったことにして、公明党と両党で新党の話を進めていた。そして、いとも簡単に「安保法制は違憲」「原発ゼロ」を捨て、「消費減税」を旗印にする。

 公明党はともかく、立憲民主党の言動は、筋が通らなさ過ぎる。

どの政党が中革連に取って代われるか

 中革連が減税だからと、自分も減税を打ち出す自民も如何なものだが。

 かといって、「代わる第三の選択肢は?」となると、どの政党が中革連に取って代われるか。マトモな政党が第二党でなければ、自民党政権は永遠だ。選べない。


 政治の決着は、選挙で決める。憲法を守らせる力は、選挙で示された民意だ。

 白紙委任は、したくないもので。

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【倉山 満】
憲政史研究家 1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『噓だらけの日本中世史』(扶桑社新書)が発売後即重版に
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