俳優業だけでなく、初の長編監督作が国内外の映画祭で8冠を獲得するなど、 表現者として評価を高める斎藤工。さらに業界の環境改善にも力を入れているが、「僕ら世代が駆逐されないと本当の健全さは生まれない」と辛らつに語る。
発酵するように、年をとりたい
取材部屋の椅子に腰かけた斎藤工は、拍子抜けするほど穏やかな表情を浮かべていた。ウルトラマンのようなヒーローにも、禁断の愛に身を焦がす間男にも、名もなき誰かにもなってきた彼は、常に「自分とは何者か」を役を通して問い続けてきた表現者だ。演じる側であり、作る側でもあるその視点は、今回、Netflix映画(※1)『This is I』で演じた実在の医師・和田耕治を通して、「誰かのために生きること」の輪郭をより鮮明に浮かび上がらせた。「自分の生きる意味」を見いだした人間の強さに触れたと語る一方で、自身については「今の自分は老害予備軍」と自嘲気味に笑う。日々、自らにアラートを鳴らし続けているという表現の“鬼才”が、「目指す中年の生き方」を語った。──『This is I』は、タレントの(※2)はるな愛さんと、彼女を支えた和田医師をモデルにした物語です。最初に脚本を読まれた感想は?
斎藤:お話をいただいたときはまだタイトルが仮の状態で、和田先生と奥様が書かれた(※3)原作通りのなかなかキャッチーなタイトルになっていて、それこそ「エッジ」なプロジェクトだなと思いました。読み進めるうちに、僕に与えられた役割は、ただ実在した先生を真似ることではないとわかってきて。先生が向き合った闘いそのものや、「個人の本来あるべき理想の姿や形」を追い求める人々のお手伝いをするという、“天命”に気づいた先生その人を、どう形にするかが肝だと感じました。
「誰かのために」自分よりも優先すべきもの
──“天命”ですか。斎藤:「誰かのために」という言葉でまとめられると思います。自分よりも優先すべきものを見つけた人ですね。先生は、治療したその瞬間だけでなく、患者さんがクリニックを出た後の人生の時間をいかに輝かせるかということを見据え、徹底されていた。はるな愛さんご本人とは以前からご縁はありましたが、本作では完全に和田先生のフィルターを通して参加しました。
思いとニーズが一致したとき、「生きる意味」が見える
──そのことは表現者としての斎藤さんに、どのような気づきを与えてくれましたか?斎藤:すべての職業に言えるのかなと思うんですけど、僕自身の仕事も、ニーズがなければただの自称役者でしかありません。でも先生のように自分の思いとニーズが一致したとき、それこそ大げさじゃなく「生きる意味」が見える。
作り手側にも立つ人間として、自分に酔いしれるのではなく、誰かのきっかけをつくり続け、役割を与え続けられる人でありたい。芸能界というのは特に、本当の「支えている人」っていうのは視聴者からは見えない、そういう世界だなと感じます。先生は芸能界とは違いますが、まさに「本当の縁の下の力持ち」。そこに光を当てようとする、このプロジェクト自体にも強く惹かれました。
僕らの世代は一度、駆逐されるべきだ
──芸能界における「支えている人」の話が出ましたが、一方で本編にはいわゆる昔ながらの業界の様子も登場します。斎藤さんは(※4)業界の環境改革に取り組んでいることでも知られていますが、そんな斎藤さんでも改めて振り返ると、流されていた時期はありますか?斎藤:僕らの世代というのは、古き良きとは言えない業界の体制が残っていました。それを「こういうもんだな」と受け入れてきた時間はあると思います。本当の意味で業界をクリーンにするなら、旧態依然を受容してしまった僕らが駆逐されないと、新しい健全さは生まれないと思います。あとはもうどうにか意識を変えていくしかない。
斎藤:僕はいま、年の半分は表の仕事をしつつ、もう半分は裏方の仕事にスケジュールを割り振っています。それまでは「業界たるもの」といった考えに僕も見て見ぬふりをしていた瞬間があったと思うんです。
Netflix作品(※5)『ヒヤマケンタロウの妊娠』で男性妊娠という役に向き合い、重りをつけた妊婦体験を重ねるうちに、撮影のない日でも街を歩く視点が大きく変わっていったんです。女性は結婚か出産っていう喜ばしいタイミングで、なぜ、キャリアと距離を置かなければいけないのか。映像業界は多くの女性の才能に支えられてきながら、そういった才能が去っていってしまう。ならば、小さなお子さんがいるスタッフのために、現場に託児スペースを設けられないかと考えました。
現場での食事改善も同様で、撮影現場では数か月同じお弁当を食べ続けるのに、予算の中で一番先に削られ、栄養バランスは度外視されてしまうのはなぜだろうと思って。まずは、栄養士に相談し、納豆やお味噌汁を現場に置くことから始めました。
刺激を受けたのは、9歳の天才子役
──若い世代に刺激を受けた経験は?斎藤:若い世代というか……。(※6)永尾柚乃さんなんですけどね。彼女は5歳から脚本を書いていて、しかも長編。ドラマ『誘拐の日』(テレビ朝日)で共演したよしみで台本を読ませてもらったとき、本当に驚愕しました。
僕ら大人が「導く」なんて、あまりにおこがましい
──すごい内容ですね……。斎藤:「人間が人間のために作っているものとか、電力や原子力のせいで他の生態系がおかしくなっている。だから人間さえいなくなれば」といった視点をすでに持っている。そもそも「利他の心」ですからね(笑)。彼女がこれを書いたのは、確か6歳とか7歳ぐらいで、自分の幼少期と比べるとバグっちゃいますよ(苦笑)。
そういう「ハイブリッドな次世代」に対して、僕ら大人が「導く」なんていうのはあまりにおこがましい。だから「9歳なのに」というのではなく、この子の純度の高い思いを壊さずに、どう世の中へ届けられるか。そのための「風よけ」になることが、今の自分ができる役割だと思っています。彼女を見ていると、ジェネレーションギャップというより、いつも希望をもらっています。
僕は明らかに老害予備軍。“発酵”していきたいと思います
斎藤:僕は明らかに老害予備軍なので、その自覚を持って、腐敗ではなく“発酵”していきたいと思っています。
──その自覚はどこから?
斎藤:ええ。悲しいかな、人間って年齢やキャリアを重ねるごとに注意してくれる人が減るんですよね。そうすると、気づかないうちに、どんどんどんどん腐敗という名の老害になってしまう。だから僕は、周りにいる人たちの小さな変化を見逃さないよう、常に自分自身に対してアラートを鳴らしています。
老害予備軍として日々、戦々恐々
斎藤:めちゃくちゃ感じます。周りを見ていて、発酵にしろ、輝いている発光にしろ、“はっこう”し続けている先輩方は、皆さん自分に厳しい。何かを成したとか、達成したとか1ミリも思っていない。いつも巨大な山を登り続けていて、どこかに鎮座したり、あぐらをかいたりしていない。そういう先輩たちの背中をずっと追っていたい。若かりし頃、本当にお世話になった諸先輩もたくさんいるんですけど、正直、反面教師でしかなかった人もいます(苦笑)。だから、気を抜かないように「自分もアイツらになってないか?」「老害になるぞ!」と、日々アラートを鳴らしているんです。
斎藤:あと最近、国会中継をよく見るようになりまして。いろんな政治家の方がいらっしゃいますが、僕はその人が政治家を志した当初の自分が、今の姿を見たらどう思うのかを勝手に想像しているんです。そんな見方で、それぞれの方を“シリーズ化”して眺めています(笑)。
──面白い見方ですね(笑)。
斎藤:人によって相当ドラマチックだったりするので。「あのときのお前はどう思うかな」って。「こんなはずじゃなかった」っていうのって、なかなか気づかないんですけどね。見ながら、はたから優雅に眺めてる場合じゃないぞ、と思うわけです。つまり、和田先生も柚乃さんもヒントをくれましたが「自分のために」ということには限界があるんです。そして「誰かのため」になった瞬間、可能性や出力は何倍にもなっていく。自分のためっていう限界は、意外と遠くにない。
【Takumi Saitoh】
俳優・フィルムメイカー。主な出演作に映画『昼顔』、『シン・ウルトラマン』、Netflixではドラマ「ヒヤマケンタロウの妊娠」ドラマ「極悪女王」映画『新幹線大爆破』に出演している。映像制作にも積極的に携わり、初⻑編監督作『blank13』では 国内外の映画祭で 8 冠を獲得。児童養護施設のドキュメンタリー『大きな家』 では企画・プロデュースを務め、昨年の日本批評家大賞ドキュメンタリー賞を受賞した。また、被災地や途上国での移動映画館 cinéma bird 主宰、Mini Theater Park、撮影現場での食の改善や託児所プロジェクト、白黒写真家など、活動は多岐にわたる
アイドルを目指すアイ(望月春希)と、アイと出会い、当時タブーとされていた性別適合手術の扉をともに開いていった医師(斎藤)の実話を基にしたヒューマンドラマ。1980~’00年代の名曲たちが映画を彩る
1972年、大阪府出身。’08年にエアあややの口パクモノマネで一世を風靡した。’09年、「ミス・インターナショナル・クイーン 2009」で日本人として初めて優勝に輝く
(※3)原作
和田耕治医師と深町公美子さん共著の『ペニスカッター:性同一性障害を救った医師の物語』(方丈社)と、はるな愛さんの『素晴らしき、この人生』(講談社)を参考にしている
(※4)業界の環境改革
「持続可能な映画制作」という信念のもと、託児所の設置、食環境の改善、フリーランスのスタッフに対する公正な労働環境の提供などを推進している
(※5)『ヒヤマケンタロウの妊娠』
「もし男性が妊娠したら?」をテーマにした同名コミックスを実写化したドラマ。現代社会の問題をコミカルながらも浮き彫りにし、高い注目を集めた
(※6)永尾柚乃
現在9歳で1歳半より活動している子役。バカリズムが脚本を手がけて高い評価を受けたテレビドラマ『ブラッシュアップライフ』の出演で一躍人気に。斎藤主催の「cinéma bird in 石川県奥能登」にも参加
取材・文/望月ふみ 撮影/鈴木大喜 撮影協力/バックグラウンズファクトリー
―[インタビュー連載『エッジな人々』]―
【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi
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