先日、東京大学大学院医学系研究科教授の佐藤先生が収賄容疑で逮捕されました。
「2時間8万円の高級風俗で性接待」「できればテクニシャンが希望です」などパワーワードが並んだ一面は、さすがに苦笑いしか出ません。
ただ、私が情けないと感じたのは「性接待三昧に溺れて逮捕されるマヌケさ」もありつつ、「2時間8万円の風俗で満足する程度にしか稼いでいないのか」と思わされたこと。
「教授ならそんなもの」と言われればそれまでですが、学歴社会と呼ばれる日本において、東京大学大学院の医学部の教授なんて、この学歴ピラミッドの頂点に君臨する存在でしょう。
ただ、実際にはそこまで上り詰めてようやく1,000万を超す程度。そこまでの能力を持っている方なら民間就職すれば30手前で稼げる額でしかありません。明らかに、この学歴ピラミッドにはゆがみがあります。
そこで、ふと「日本の研究者たちは、いくらもらっているのだろう」と疑問が生じたのです。
今回は、東京大学の大学院生数人にインタビューしてわかった「令和の世の中で研究職に就く困難さ」をお伝えします。
勉強したのに働き口がない
「確かにお金は稼げませんが、働き口がないので四の五の言っていられないのが現状でしょう。どこかの研究室付きのポスドクをするより、大学のポストに入り込める方が、キャリア的に有利でしょうから。
研究職はそもそもお金をもらうための仕事ではありません。趣味やライフワークのついでにお金がもらえるといったほうがよい。
ですから、そこまでたくさん稼げないのも当たり前ですし、公開されているから今になって騒ぐ話でもないですね」(Aさん)
現在東京大学大学院の理学系研究科に通うAさん(20代)が見せてくれたのは、東京大学大学院理学系研究科の助教授のポストでした。
そのうえ、「裁量労働制」なので毎日いくら働いても残業代などは出ません。ちなみにAさん曰く「これは任期が制限されていないから非常に条件がいい」のだそう。
博士になってもポストがない
博士といえば、通常なら大学4年間を経て学士を取り、大学院修士課程を2年通って修士号を取り、そこから博士課程を3年通って卒業できれば取得できる難関資格。筆者が東大を卒業した際に、研究室で卒業証書授与がなされました。
学士課程修了者、修士課程修了者が呼ばれた後、おもむろに先生が最後の1枚を取り出しながら「みなさん。これは世にも珍しいものが見られますよ。博士課程の修了証書です」と仰っていたのが印象的でした。
基本的に、修士まではともかく博士はまず出ません。研究成果をしたためた博士論文がなかなか通らないからです。だからこそ、これを通ったというだけで、常人とは比べ物にならないほど優秀である証明となります。
ですが、「そこまで行けば、ガッツリ稼げる」とはなりません。就任ポストがないのです。大半の学生は、難関の博士を突破してなお「着任する大学がない」ことに悩みます。
これは「ポストドクター(ポスドク)」と呼ばれ、優秀でやる気のある若者が多数いるにも関わらず、活躍の場が与えられず日の目を見られないと問題になっているのです。
文部科学省の「研究者のライフステージについて」という資料によれば、平成27年時点でポスドクは15,902人おり、平均年齢は36.3歳。結婚・出産どころか子どもの学校選びまで考え始める時期ですから、なおさら安定した収入は必要でしょう。
だからこそ、月額34万円でもポスドクからすれば夢のような仕事。それどころか「時給2100円・非常勤・任期あり」のポストでも応募が殺到するのです。
「研究者になろうと思えない」大学院生の声
同じく東大大学院の理系修士課程に通うBさん(20代)は、「この現実があるから、研究者になろうとは思えなかった」とこぼします。「やっぱり、結婚とか考えたら難しいでしょう。まず儲かりませんし、ポスドク問題が解決しない限りは、仮に博士課程を修了できても生活の安定が見えない。
一応、学振制度といって博士学生やポストドクター向けの支援金を受け取れる制度はあります。額もそれなりにあって、ポスドク向けなら約36万円の収入が期待できる。
ただ、もちろん枠は極わずかしかありません。通るかどうかは賭けですし、研究奨励金は給与所得の扱いになるので、きっちり税金も引かれる。翌年からは住民税もかかる。
実績のために研究しないといけないのに、実際には研究だけでは食っていけないので、副業しなくてはいけない。
大学もわかっているんでしょうね、最近副業規定がかなり緩くなってきて、研究に関係しないことでも許可が出るようになったんです。
でも、結局食えるかどうかはわからない。私なんかよりずっと優秀な先輩も『給与がしょっぱい』とこぼしていました。やる気が削がれていく様子が、手に取るようにわかりましたよ」(Bさん)
もともと好きだった理科数学の勉強が高じて、修士課程に入学したというBさん。このまま博士課程に進学するのは確実ですが、「博士を出たら一般就職すると決めている」と断言していました。
確かに、ここまでの能力を持つ方に「30歳半ばまで頑張って、額面30万をもらえるかどうかの道と、初年度から年収600万超えで、うまくいけば20代で1,000万を超える道と、どちらを選ぶ?」と聞いたなら、よほど強い信念がなければ後者を選ぶのでは。
実家が太い人しか研究者になれない国
私は、研究職にもっとお金を払うべきだと感じます。研究力が落ちれば、国の強みは鳴りを潜め、徐々に国際競争力が低下し、傾いていく。国防の文脈からも、研究費にある程度の投資は必要です。
このままでは、日本は「援助が必要ないほど実家が太い人」しか、研究者になれない国になります。
「職業選択の自由」として開かれているとしても、実質的に経済的なラインがひかれているならば、それは制限されているといって差し支えなくなってしまう。
現状では、「大学近くに実家があり、大人が一人ぶら下がったとしても十分食わせていけるほどの安定した収入で、結婚や出産などのライフステージより研究を選ぶ人」くらいしか大学院進学を考えられません。
それにもかかわらず、「大学院進学者が少ない」と「修士課程までの一貫コースを作りました!」などとんちんかんな施策をもってくる。単純に出口が魅力的でなければ、よほどの物好きか考えナシでなければ飛び込みません。
大学は金が欲しい。研究者も金が欲しい。だから目先の「2時間8万円の風俗」につられてしまうのでしょう。
ただ、今回の不祥事によって、文科省主催の「国際卓越大学」の認定はさらに遠のいたといえそうです。
「短気は損気」といいますが、これがどれほどの「損気」につながってしまうか、今後の動向から目が離せません。
<取材・文/布施川天馬>
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。
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