その経歴は極めて異色である。早稲田実業野球部で春の甲子園ベスト8を経験し、三井住友信託銀行に入行。しかし、将来を嘱望されたエリートコースをわずか1年半で外れ、独立を決断した。その後、日給8000円のゴルフ場キャディとして食いつなぐ時期も経験したという。
どん底から這い上がり、なぜこれほどの資産を築くことができたのか。その裏にある投資哲学と波瀾万丈な半生に迫った。
昭和的な気合と根性に満たされた野球界に嫌気がさし、人生初の「損切り」
「春の全国大会出場を経て、夏の予選でも強豪に勝利。
そんななか、私が正直に『受験勉強と野球を両立させたい』と伝えると、その場で『やる気がないなら、今すぐ辞めろ』と、まさかの退部宣告。監督からすれば『それでも野球をやらせてください』という言葉を引き出したかったのかもしれません。ですが、私は『話の通じない相手に頭を下げてまでしがみつく必要があるのか』と思い、その場でユニフォームを返すことに決めたのです」
「せっかくここまで頑張ったのだから」という感情的な執着を捨て、今の自分にとって何が一番大事かを天秤にかける。そして、見込みがないと判断した場所からは潔く撤退する。15歳の武藤さんが下したこの合理的な決断は、まさに人生初の「損切り」だった。この判断が功を奏し、武藤さんは見事、難関・早稲田実業への合格を勝ち取ることになる。
名門校・早実で甲子園の土を踏みしめるも……
しかし、武藤さんの野球人生は決して順風満帆ではなかった。2年生の秋、新チームでレギュラーの座を奪取した矢先、重度の肉離れが武藤さんを襲った。それでもポジションを譲るまいと痛み止めを飲んで試合に出場。甲子園への切符を掴むまでは執念でレギュラーを張り続けたが、無理がたたって怪我が悪化し、深刻な不調に陥ってしまう。奪い取ったはずのポジションは、甲子園を目前にして無念にもライバルの手に渡った。
「3年生の夏には、レギュラー復帰を諦めて二軍のキャプテンとしてチームを支えると腹を括りました。その時、人間には『適材適所』があるのだと身をもって知ったんです。同世代には、のちにメジャーで活躍する菊池雄星選手のような『野球の才能100点』の怪物たちがゴロゴロいた。彼らと比較したとき、自分は全科目80点の『バランスタイプ』だと悟りました。
ですが、突出した才能がなくともレベルの高い環境に身を置き、適切な努力を継続しさえすれば甲子園にだって手が届く。この早実時代の教訓が、その後の人生を大きく左右することになりました」
武藤さんは、早稲田大学入学を機に野球を引退。遊びに耽る同級生たちを尻目に、大学4年間を「次の勝負場所への準備期間」と再定義した。
期待に胸を膨らませて銀行員デビューも、1年半で二度目の「損切り」
就職活動の軸は、「お金持ちになりたい」という極めてシンプルなもの。富裕層ビジネスを一番近くで学べる信託銀行こそが、お金持ちへの最短ルートに違いない。そこでノウハウを吸収すれば、おのずと富を築けるはず――。そんな期待と確信を胸に、三井住友信託銀行への入行を決める。そこで武藤さんは、投資家としての第一歩を踏み出す。「新卒1年目、私が最初に取り組んだのは会社の自社株積立制度でした。月2万5000円の投資に会社が8%の補助を出してくれる。つまり、実質月利8%のようなものでした。利益は月2000円程度と微々たるものですが、ノーリスクで月利8%を上回る投資先など市場には存在しません。複利の力を味方につければ、この一歩がいずれ大きな資産になる。そのためにも、投資を早く始めることが大切だと自分に言い聞かせ、制度をフル活用していきました」
銀行員とはいえ、若手の年収は300万円弱。
「仕事は楽しいけど、組織に所属している限り野球部時代と同じ理不尽からは逃れられない。これが、定年まであと40年近くも続くのか……」
疲弊する上司の姿に自身の未来を投影した武藤さんは、入行からわずか1年半で銀行を去る決断を下す。組織に時間を売るのではなく、投資家として自立する道を選んだのだ。「とにかく3年間がむしゃらにやって、それで無理なら一から出直そう」。そう覚悟を決め、24歳で安定した地位を捨てた。
日給8000円のゴルフ場キャディを経て始めた「就活塾」
独立後は日給8000円のゴルフ場キャディとして食いつなぎ、冬場は月収8万円まで落ち込む極貧生活。それでも生活を切り詰めながら、金利18%のキャッシングを利用してまで投資塾や起業塾に通い、勉強を続ける日々を送った。そうして培った知見を武器に、まずは投資の種銭を作るべく、株式会社VisionCreatorを立ち上げる。「資産形成の最短ルートは、小手先のテクニックではなく、『労働で種銭をつくり、投資で増やす』という両輪を回し続けることです。起業後、コツコツと貯めた軍資金で米国株を購入し、得られる配当もすべて再投資に回しました。10億円を超える現在の資産も、始まりは1株77ドル(当時のレートで1万円弱)の買い付けからです。ランチは500円、服はユニクロ。キャディで必要最低限の生活費だけを稼ぎ、就活塾などの事業で得た利益は、そのほとんどを投資に充てる生活を徹底したんです」
武藤さんの投資の真髄は、ひとえに「時間を味方につけること」にある。
「大切なのは『時給思考』です。毎日チャートにかじりついて年間10万円しか稼げなければ、時給は数十円程度。それならバイトをしたほうがマシです。私が選んだのは、10年以上持ち続けられる現物株を買い、あとは放置するという戦略。これなら『労働時間』をほぼゼロにできるので、実質的な時給を最大化できるんです。もちろん資金は余剰資金の範囲内。
事業とバイト、節約、そして愚直な入金を繰り返した結果、独立から4年後の28歳で資産1億円を突破。資産10億円を超えた現在も生活レベルをむやみに上げることなく、「資産を最大化させる」という点において一切の妥協はない。かたい財布の紐を緩める際には、「その出費に価値があるかを判断軸とし、いかに自分の成長につながるかを大切にしている」という。そんな武藤さんが身銭を切って購入した数少ない高級品の一つが、「フェラーリ」だった。
「信頼するメンターから『高級車を買えば、ステージがワンランク上がる』という助言を受け、フェラーリを購入しました。一見、成金の道楽のように思われるかもしれませんが、私にとっては明確な目的がありました。
それは、オーナー限定のイベントなどを通じて、普通に生きていたら出会えないような層との人脈を築くことです。実際、そこで出会った成功者の方々は驚くほど謙虚で、彼らがどう富を築いてきたかという『お金持ちの思考』を直接学ぶことができました。私にとってフェラーリは単なる車ではなく、一流の環境へ身を置くための貴重な『投資』だったんです」
投資の本質は、暴落が来ても退場させられない「仕組み」作りにある
また、武藤さんのポートフォリオは極めて個性的だ。現金45%、米国株40%、仮想通貨・金・債券が各5%。一般的に、30代の現金比率は高くても40%程度がセオリーとされ、キャッシュを持ちすぎるのは運用効率が悪いとされるが、武藤さんの考えは違う。「現金は、暴落時に誰もが恐怖で投げ売りするなか、冷静に買い向かうための『最大の攻撃武器』になります。投資の本質は予測を当てることではなく、暴落が来ても退場させられない『仕組み』を持って、市場に居座り続けることです。もちろん、納税額の増加という現実への備えもあります。フェラーリも、いざという時のための換金性の高い実物資産。大切なのは、自分の目標に応じてポートフォリオを柔軟に組み替えることです」
武藤さんに今後の目標を尋ねると、「自分の人生を自分でデザインできる人間を増やすこと」と返ってきた。そのために、現在はマネースクールを運営しているという。
「貯めることしか知らずに老後を迎えた母を見て、お金の使い方の重要性を痛感したんです。お金は使った瞬間こそが『真の利益確定』であり、死ぬときに一番の金持ちになっても意味がありません。稼ぐだけではない、お金という『ツール』の使い道を伝えていきたい」
億り人への近道は、一攫千金を狙ったギャンブルではない。高いレベルの環境に身を置き、自分への投資を惜しまず、複利の波に乗り続ける。このサイクルの愚直な積み重ねでしかないのだ。
<取材・文/桜井カズキ>
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