『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのはシウマイ弁当。
孤独のファイナル弁当 vol.21 「6年越しに褒めたいシウマイ弁当」
もちろん「崎陽軒のシウマイ弁当」は好きだ。もう30年ぐらいは、何かにつけ食べてきた。30代半ばから50代までは、東京駅から新幹線に乗る際、弁当はそれしか買わなかった。完成度が高くて、オリジナリティがあって、でも親しみやすい。そして飽きない。弁当から「どうだ!」という強いアピールがないのも奥ゆかしくてつい贔屓にしたくなる。理想的な「普通さ」。それは明らかな類似品弁当を食べたときに、よりはっきりわかった。類似品は、かまぼこがダメだった。漬物がダメだった。食べている時には気が付かなかったところに、崎陽軒の見えない努力があると思い知った。そういう人になりたいと思った。
そこまで褒めちぎった弁当は過去にない。
そんなボクだが、この5年ぐらい崎陽軒のシウマイ弁当から遠ざかっていた。
なぜか。コロナの時期に、外食ができないことから、週刊で弁当食いの連載を始めたからだ。毎週何か弁当を食べて、原稿を書かねばならない(つまりそれがこの連載に引き継がれているのだが)。
毎週毎週違う弁当を食べる、というのはやってみるとなかなか大変だ。毎週旅に行くわけじゃないし、近所の店の弁当は種類が限られる。好みじゃない弁当はやっぱり買いたくない。それで、新幹線に乗るときは、先の連載も見越してとにかく目新しい弁当を買って食べていたのだ。
すいません、崎陽軒さん。
行きつけだった居酒屋に、すぐ近所に住んでいるまま、何年も顔を出さなかったような感じだ。崎陽軒さんに「不義理」をしてしまった気さえしていた。
それで先日、上越新幹線に乗る機会があったので、顔を出したんですよ。じゃない、買ったんです。
久しぶりの黄色い包み紙。そこに書かれた宣伝コピーが、小さな細い明朝体で、「毎度有難うございます」だけ、なのも変わらない。それも前に褒めた。
普通「元祖」とか「創業○年」とか書きたくなるのが人情だ。それがない。潔い。ただ感謝の気持ちだけを、小さい声で述べている。なかなかできぬ。頭が下がる。
この青い円に白で、建物が切り絵のように描かれてる図案も同じ。
こうしてまた褒めちぎっているうちに原稿の定数がきた。変わらないおいしさだった。どこもここもやっぱりウマイ。もはやボクの人生に寄り添ってきた弁当だと思った。これが一生の最後の弁当だったら、もう何も言わない。ただ笑顔で食べる。そしてこれを一番好きな弁当だった自分、に誇りさえ感じるだろう。
―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi
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