国立大学の最高峰・東京大学で「研究」とは到底呼べない不祥事が明るみに出た。
皮膚疾患の共同研究をめぐり、東京大学大学院で医学系研究科教授の佐藤伸一容疑者(62)が、研究相手の業者から高級クラブや性風俗店での接待を繰り返し受け、収賄容疑で逮捕・送検されたのだ。


捜査関係者によると、接待は月2回のペースで約30回。1日あたりの接待費が85万円に上るケースもあり、累計額は900万円近くに達する可能性があるという。しかも接待先は、高級飲食店にとどまらず、東京・吉原のソープランドまで指定されていたとされる。

「共同研究」「社会連携講座」という名目の裏で、何が行われていたのか。

産学連携が当たり前となった今、「研究」と「癒着」の境界線はどこに引かれるべきなのか。

この事件を、刑事責任の観点から読み解いていく。

風俗接待900万円「東大教授“収賄”疑惑」の罪の重さ。高級店...の画像はこちら >>

「東大教授は“公務員”」収賄罪が真正面から成立する理由

今回の事件で逮捕された東大教授は、刑法上どのような罪に問われる可能性があるのか。アディーレ法律事務所の南澤毅吾弁護士は「収賄罪に関しては、刑法上、『公務員性』『職務関連性』『対価性』という3要件が定められています」と解説する。

国立大学法人に所属する大学教授は、刑法上の「公務員」に該当するとされる。一方、私立大学の教授は「公務員」ではないため、収賄罪は問題になり得ないという。同じ「大学教授」でも、所属が国立か私立かで、刑事責任が決定的に変わる。この違いは一般にはあまり知られていないが、今回の事件では、その“見えにくい線”が、教授の運命を大きく左右することになる。

次に「職務関連性」だが、今回のケースでは、接待を受けた教授が「社会連携講座の設置・運営」や「共同研究の受け入れ」「研究上の便宜供与」に関して、職務権限またはその影響力を持っていたかが問題となるが、「今回逮捕された教授は『皮膚科長』にあり、十分な職務権限を持っていたことは明らかです」と南澤弁護士は指摘する。


最後の「対価性」に関しては、「便宜を図ってもらう見返り」であったかどうかがポイントになるという。

「懇親会・軽食レベルの安価な接待であれば、社交辞令の範囲内として、対価性がないという評価になりますが、少なくとも累計900万円相当とも報じられている接待額からすれば、対価性を否定することは困難でしょう」

高級クラブから吉原ソープへ…“研究接待”の名を借りた欲望の暴走

今回の事件では、高級クラブだけでなく風俗店での接待も問題となっている。こうした接待内容の違いは、刑事責任に影響するのだろうか。

「刑法上、収賄罪が成立するかどうかは、金銭かサービスか、あるいは接待内容の種類そのものによって形式的に区別されるわけではありません。飲食接待であっても、性風俗店での接待であっても、収賄罪の要件を満たす限りでは、『財産上の利益』に該当します」

ただし、量刑判断や悪質性の評価においては、接待内容の性質が考慮される可能性が高いという。

「性風俗店での接待については、私的・享楽的性格が極めて強く、職務との正当な関連性が説明しづらい点で、『単なる会食』よりも悪質と評価される余地があります」

国立大学は税金によって支えられている公共機関だ。その教授が、研究の名のもとに性風俗店で接待を受けていたとすれば、それは「個人の嗜好」の問題にとどまらず、税金の使途や大学の公共性そのものを揺るがす行為でもある。

特に今回の事案では、「吉原の風俗店」という世間的に「高級店」に該当するソープランドでの接待が行われていたことが報じられている。南澤弁護士は「多様な営業形態のある風俗の中でも、高級ソープランドというのは、特に最上級のサービスです。教授らの私欲がそれだけ大きかったことの証左でしょう。量刑が重く判断されるには十分な事情といえます」と指摘する。

さらに、「テクニシャンを希望」など、教授側がかなり主体的に風俗を楽しんでいたという報道もあり、こういった点も、倫理観が欠如しているとして、刑事責任を重くする要素となるとのことだ。

月2回・約30回の継続的な接待。
実刑の可能性は高いのか

収賄罪の量刑において、接待の回数や期間はどのように評価されるのだろうか。

「収賄罪の量刑においては、総額・期間・回数が重要な考慮要素となります。月2回程度の頻度で約30回にわたり継続していた場合、『たまたま』『うっかり』という言い訳は通用しません。『常習性』『制度的な癒着』と評価される可能性があります」

実刑の可能性に関しては、接待の内容や便宜供与の程度、損害の発生有無なども重要な要素になるという。

「今回のケースについては、上記のとおり、風俗接待という極めて、大学への信頼を失墜させるもので悪質です。また、報道によれば、本来協会が負担すべき研究費について、代わりに大学側が肩代わりをしていた疑惑があり、この意味で大学に損害が生じている可能性もあります。これらの事情から、執行猶予にとどまらず、十分に実刑が視野に入る事案だといえます」

仮に実刑判決が下されれば、教授としてのキャリアは事実上終わる。長年積み上げてきた研究実績や肩書きは、一度の判断で失われることになる。

教授ひとりで終わらない──“甘い蜜”に群がった周辺人物の責任

今回の事件では、主犯格の教授だけでなく、その部下や接待を調整していた人物の刑事責任も問題となる。

「部下の医師についても、仮に同様に接待を受けていたり、この調整に加担したりしていたのであれば、教授同様に収賄罪が成立する可能性はあります。部下に教授ほどの裁量がなくとも、刑法上の共犯は成立します。

ただし、仮に多少接待を仲介していたとしても、上司・部下という関係上断れず、自身が直接接待を受けていたわけではない、という場合には、立件が見送られることもあるかもしれません」

一方、接待を行った側については、贈賄罪(刑法198条)が問題となる。

「一般論として、収賄罪と比べて、贈賄罪は立証の難易度が高く、ハードルが高いとされていますが、本件では、かなり具体的な証拠が出てきていますので、立件されることも現実的です」

どこからが「研究」で「癒着」なのか。
危うすぎる境界線

産学連携が進む中、企業と大学研究者の間で、どこまでの接待が許容され、どこからが違法となるのか。その線引きについて、南澤弁護士は対価性の観点から解説する。

「先ほどの『対価性』との関係でいえば、一定の接待や会食が、慣行の範囲内かどうか、金額や反復性がポイントになります。

具体的には、たとえば、研究打合せ後の通常の会食や、儀礼的な懇親会程度であれば、ただちに『対価性』は認めにくいでしょう。キャバクラやスナックなど、いわゆる『夜の店』での接待は、金額が低ければ懇親会の範囲内ともいえますが、程度によっては『アウト』となります。かなりグレーゾーンな印象です」

そのうえで、今回のケースのように、接待が高額であることに加え、『風俗店をおごる』という社会逸脱性が明白な事案に関しては、「『アウト』と評価せざるを得ません」と断言する。

「コンプライアンスを遵守するのであれば、社会的に非難されるような『夜の店』は利用せず、高くとも一万円程度の会食に留めるのが良いと思われます」

「東大」の権威失墜――産学連携のあり方を根本から考え直す必要性

最後に、南澤弁護士は今回の事件の社会的影響と今後の課題について言及した。

「日本を代表する『東京大学』で起きてしまった事件ということで、社会に与えた衝撃は計り知れません。昨年度にも東京大学の准教授が逮捕されており、相次ぐ不祥事によって、『東大』の権威が失墜したとの印象を世間に与えてしまっています」

今回の事件の背景として、「東大発ベンチャー」など、大学を起点としたビジネスが過熱したことも一因ではないでしょうか。大学の公共性・中立性が軽視された結果、民間企業に流されやすい風土が生じていないか、大学側としての検証・内省が必要であると感じます」

「産学連携」という言葉の下で、何が正当化され、何が見過ごされてきたのか。今回の事件は、ひとりの教授の不祥事にとどまらず、日本の大学と企業の関係性そのものに、厳しい再検証を迫っている。研究の名を借りた接待が、どこまで許されるのかーーその答えは、司法の場で明確に示されることになりそうだ。
<取材・文/日刊SPA!取材班>

風俗接待900万円「東大教授“収賄”疑惑」の罪の重さ。高級店、サービス内容…“嗜好の強さ”も量刑の判断に
アディーレ法律事務所 南澤毅吾 弁護士
「パチスロで学費を稼ぎ、弁護士になった男」という異色の経歴を持つ。司法修習時代は、精神医療センターにて、ギャンブルを含む依存症問題について研修を受けた経験があり、一般市民の悩みに寄り添った、庶民派の弁護士を志す。アディーレ法律事務所・北千住支店長として対応した法律相談数は、累計数千件に及び、多様な一般民事分野の処理経験を経て、現在は交通事故部門の責任者となる。
編集部おすすめ