『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは天むすび弁当。
孤独のファイナル弁当 vol.22 「北九州黒崎の天むすび弁当の中身」
九州市の黒崎に取材と講演の仕事で行った。会場の黒崎ひびしんホールの楽屋で出たのが「音羽屋の天むすび弁当」。音羽屋は地元で40年ほど愛されてきた天むすび専門店ということだ。天むすというと名古屋だが、ここの天むすびはそれと似ていて少し違う。
小さなおにぎりの中に海老の天ぷらが入っているのは同じだが、海老の尻尾はごはんから飛び出していない。
そして一個がもっと小さく、ほぼ一口サイズ。そのごはんを細い海苔2枚で巻いているのがユニークだ。それが8個、卵焼きや白身フライといったおかずとともに入っている。
ところが問題は、中身が海老天だけではない、というところだ。しかも外からそれはわからない。死なないロシアンルーレット。
だけど一個にわさびや唐辛子の塊が入っていたらどうしよう。
これが一生の最後の弁当だったらどうだろう。
そのゲームを楽しむ余裕はあるか? むしろ頭にくるんじゃないか? 「人の今際の際の飯で遊ぶな!」って。
まずは端の一個を恐る恐るつまみ出して半分齧ってみた。……なんだこれ? いきなり海老じゃないものが出てきた。天ぷらではある。なんだこれ? 小さくて味がよくわからない。じーっと見つめたが、白い軟らかいものの正体がわからない。そのまま残りを口に入れて咀嚼した。あ、イカのようだ。イカ天。いかすバンド天国。
お茶を飲んでもう一個。お、海老。おいしい。いや、イカもわかったらおいしかったのだが。わからないと少し不安。
知人が中華料理店で酢豚を食べていて、何か口の中で硬くて軟らかいナニかをグリッと食べて「!?」となって、飲み込むのが怖かったそうだ。でも円卓で口のものを出すこともできず、冷や汗をかきながら飲み込んで、周りの人に恐る恐る聞いたら、ナマコだったそうだ。それはわからない! そりゃ不安だ!
この天むすびは、ごはんも海苔もおいしい。おかずの中に大根と人参のナマスがあり(ナマコではない)、うれしい。
もうひとつ食べたら明太子だった。
卵焼きをひと齧り、カボチャをひと齧り、また天むすびに戻ったらまた海老天だった。中身は何種が何個ずつ入っているのだろう?
と、ここで講演の時間が来てしまった。弁当に蓋をしてステージに向かったが、そのまま私が続きを食べることはなかった。残りの天むすびの中身がものすごく気になる!
これがファイナル弁当だとしたら、この世に未練を残しすぎ! おいしいだけに恨めしい。でも、人生にはこういう最後もあることへの覚悟はできた。としよう(泣)。
―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。
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