高市早苗首相の電撃解散で衆議院議員総選挙が始まり、先日、朝日新聞の報道によれば「300議席超をうかがう勢い」だという。支持率に頼る短期決戦では、与党が三分の二を取れるかどうかが今後の政治の分かれ目になる。
選挙は勝った者が正しい
ここ数年、予想に意味が無い大型選挙が続いている。一昨年の石破茂前首相が勝利した自民党総裁選と自民党が大敗した衆議院選挙。記憶に新しい昨年の、自民党が大敗した参議院選挙と高市早苗首相が勝利した自民党総裁選。メディアやSNSの、前日の予想にすら意味がなかった。今回の高市首相の解散、完全に支持率頼みだ。確かに、この支持率だと解散したくなる気持ちはわかるが、なぜこの時期に、がわからない。高市支持者でも、よほどの“信者”以外は弁護できない。ただ、戦が始まったからには、その戦の正義だけを説いても意味が無い。選挙は勝った者が正しい。正義や大義を説くことも、一つの選挙戦術にすぎなくなる。
そっちが不意打ちなら、こっちは野合とばかりに、野党第一党の立憲民主党と、与党を出て行った公明党が、新党を結成。中道改革連合として結集した。代表も幹事長も政調会長も、両党から共同で出すとの、急ごしらえ。首班指名候補は野田佳彦共同代表になるらしい。
「高市」と「野田」どちらを首相に選ぶかの選挙
基本的な構図は、自民対中道である。要するに、首相が記者会見で述べたように、「高市早苗と野田佳彦の、どちらを首相に選ぶかの選挙」だ。およそマトモな感覚の日本人ならば、高市首相のやりかたに多少の疑問があったとしても、「再び野田首相」など選べない。ただし、それは平常の場合。今回は短期決戦で、構図が単純ではない。実は今回の選挙、単純な足し算と引き算だと、自民党に有利な要素はほとんどない。
まず、約30年間の友党関係にあった、公明の票が無くなるだけでなく、反対党の立憲に行く格好だ。公明党票は各選挙区に1~2万票と言われるので、基礎票が1万票減る覚悟で臨まねばならない。その上で、参政党と国民民主党が多くの選挙区で候補者を立ててきているので、保守票が削られる。
以上のマイナスを、高市首相の人気で補えるか。浮動票からかき集めてくるしかない。
立憲を落とせば、組織が瓦解しかねない
一方の中道の、旧立憲陣営は、各選挙区に5千票強と言われる共産党の票はなくなる。しかし、公明党の票が入り、上回る。単純計算で、前回の選挙で2~4万票差の選挙区なら、逆転が可能だ。しかし、旧立憲の陣営は「本当に票を入れてくれるのか」と疑心暗鬼のようだ。支持率も今のところ、上がっていない。また討論会での、野田共同代表の失言も痛々しい。こんな有様だから、結局のところ、中道は議席を減らすのではとの見方もある。
一方で、旧公明党と支持母体の創価学会の士気は高い。少なくとも上層部は。
中道の比例上位には公明党。28人。現有の24人から上乗せ確実である。仮に中道が大敗しても、「公明党としては微増だから勝ち」と外野は言う。
だが彼らの組織益を考えてみよ。ここで立憲を落とせば、組織が瓦解しかねない。必死になる理由があるのだ。
ネトウヨと創価学会、いずれが勝利するか
過去に本誌連載で何度も指摘してきたが、創価学会・公明党は日本最強の圧力団体である。自分の選挙を必死に戦うのは当たり前。他人の選挙をサボるどころか真剣に戦う、手伝い戦こそが彼らの本領だ。少なくとも私が得ている情報では、幹部の意思は中堅には徹底されている。あとは、末端の会員(党員)が、どれほど動くかだ。
SNSでは、「中道の支持率は合併前の立憲と公明の支持率の合計より低い」「創価学会の若い人は、野田佳彦や立憲になど投票しない」などと揶揄する動画が拡散されている。
また自民党筋からも、「今までの関係がある」「彼らも本当は連立に戻ってきたいはずだ」などの声が聞こえてくる。
油断しない方が良いと思うが。今回の選挙、高市首相の支持率と公明党の組織力の戦いだ。ネトウヨと創価学会、いずれが勝利するか。
増税を押し付けられた安倍晋三元首相の二の舞に
選挙とその後の展望である。第一のケース。高市大勝。
与党で三分の二の議席を確保する。この数字があれば、参議院の過半数割れを無視できる。今でも高市“信者”のネトウヨどもがSNSで大はしゃぎしているが、連中の増長は手が付けられなくなるだろう。
それでもマトモな政策を推進してくれるなら我慢もできるが、だったら、もっと早く解散して、防衛増税くらい潰してほしかったが。
安倍晋三元首相は長期政権を築いたが、財務省に増税を押し付けられて、景気回復すらマトモに成し遂げられず、「何一つ歴史に残る偉業を残せなかった」と批判されている。
二の舞にならないよう、心の底から祈る。
第二のケース。与党で過半数。
高市首相が掲げる勝利条件である。どの程度の数を取るにもよるが、自民と維新の二党で過半数を超えねばならない。首相が「連立政権の是非を問う」と解散理由を明言した以上、両党で過半数割れの際、高市首相が他の党を入れる訳にはいかない。それでも自民党は、高市首相を退陣させてでも、権力にしがみつくだろう。
与党が三分の二を獲れなければ、政局は大荒れ
いずれにしても、三分の二を取れない場合、参議院をどうするのか。これが、「なぜこの時期に解散?」と疑念を呈される理由である。第三のケース。与党で過半数割れ。
中道は候補者が202人と足りていないから自身で過半数は獲れないが、善戦の可能性はある。
いずれにしても、与党が三分の二の多数を獲れない場合、政局は大荒れになる見込みだ。
ところで立憲民主党は、原発・安保・消費減税と主要政策で公明党の主張を呑んだ。現実政策に転換したのだが。ここで野田共同代表が「一つくらい聞いてほしい」と女系天皇論を打ち出したら、公明党は止めてくれるのだろうか。斉藤鉄夫共同代表は、皇室に関しては立派な識見を有していると聞いているが……。
―[言論ストロングスタイル]―
【倉山 満】
憲政史研究家 1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『噓だらけの日本中世史』(扶桑社新書)が発売後即重版に
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