米軍によるベネズエラへの軍事行動や台湾海峡の緊張がニュースを騒がせる中、日本は、これらの状況を注視しつつ、公式な立場を表明している。
 日本の平和と安全を守る自衛隊は“戦争を起こす力”ではなく、他国の武力による現状変更を阻む最後の盾だ。


 憲法と現実のギャップ、そして自衛権の基礎と日米同盟のリアルについて、経済や国際政治のリアリズムに基づいた憲法論議をする経済評論家・上念司氏が説く。

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※本記事は、『経済で読み解く地政学』(上念司著/扶桑社刊)より一部抜粋・再編集したものです

自衛隊は戦争をするための戦力ではない

「自衛隊は戦争のためじゃない」憲法と現実を混同する日本人の“危うい勘違い”
※画像はイメージです(以下同)
 日本が防衛力を高めることに対して、「日本は戦争をしてはいけない」と訴える声が聴かれることもあります。

 ただ、多くの方が勘違いしているのですが、戦争とは「武力による現状変更」を意味します。自分が攻撃された時に自国を守るのは、戦争ではなく自衛権の行使です。

 ウクライナ侵略は、ロシアにとっては戦争ですが、ウクライナにとっては自衛権の行使であって戦争ではありません。

 また、日本は「戦力の不保持」が憲法で定められていますが、戦力とは、「WarPotential」の訳語です。その意味では、ロシア軍や北朝鮮軍、人民解放軍は、「War Potential」です。

 これらの国々は武力による現状変更を実際に行ったり、それを行うことを公言している国だからです。

 これに対して、日本の自衛隊は武力による現状変更から自国を守るための軍隊です。これは、「戦力(War Potential)」には当たりません。

 自衛隊は「Professional Military」であって、戦争を仕掛けられた時に自衛権を行使するための実力組織です。

「日本人はやられても抵抗してはいけないのだ」と憲法に書かれていると解釈

 日本の左翼の人々が、過剰なまでに自衛隊や防衛に反応するのは、実はロシアのナラティブに支配されているからです。ロシアは戦争をしても日米同盟には勝てないので、日本人を扇動して、自ら日米同盟を破棄させる論調をつくり出しているのです。

 そのナラティブの典型とも言えるのが、東大憲法学です。
東大憲法学は、簡単に言えば、英米法でつくられた日本国憲法を、無理やり百年前のドイツ国法学風に解釈するという無茶な学問です。

 東大憲法学の最大の無茶は、戦争を「戦うこと」と読み替え、戦力を「武器」と読み替えている点です。つまり、「日本人は武器を持ってはいけない」と解釈している。

 つまり、「日本人はやられても抵抗してはいけないのだ」と憲法に書かれているのだと解釈しているのです。ただ、日本国憲法には、そんな文言は全く書かれていません。

 あくまで国連憲章と日米安全保障条約と日本国憲法はすべてワンセットであり、これらの条約を守るべしと明記されているのです。

 憲法では、戦争と自衛権は明確に分かれており、戦争は放棄しても、自衛権を持ってはいけないとは書かれていません。

 自衛権は誰しもが有する権利です。日本がどこかの国に戦争を仕掛けられたら、当然、自衛権を発動するべきなのです。

国連憲章でも自衛権は認められている

「自衛隊は戦争のためじゃない」憲法と現実を混同する日本人の“危うい勘違い”
国際会議のイメージ
 自衛権については、国際社会における平和と安全の維持を目的とする団体である国際連合が定めた、国連憲章の第51条にもこのように書かれています。

 この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。

 この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。

 また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。


武力侵攻は国連が許さず、だが初動を守るのは自国

 つまり、どこかの国が戦争を仕掛けてきた場合は、国連は武力による国境変更は決して許さず、国連も安保理決議などの手続きが終われば、援軍に駆けつけてくれます。

 ただ、安全保障理事会が動くまで、その国が自衛力で持ちこたえる必要があるのです。その間に占領されてしまっては元も子もないので、自助努力でなんとかしてほしいと訴えているのです。

 だから、万が一、他国に攻め込まれてしまった場合は、国連や同盟国だけに頼らず、自衛する意識が必要なのです。現在の日本は、日米同盟が戦争の抑止力として大きな存在感を持っています。

ウクライナ侵攻の裏に日米安保 中立論こそ最大のリスク

「自衛隊は戦争のためじゃない」憲法と現実を混同する日本人の“危うい勘違い”
日米友好のイメージ
 2020年の段階で、ロシアの保安局であるFSB(連邦保安庁)が、日本かウクライナで紛争を起こそうと検討した際、「日本を攻撃したらアメリカが出てくるから駄目だ」と紛争を断念したという報道がありました。

 日本には日米安保があるので断念し、最終的にはウクライナがターゲットになったと言われています。

 現在でも「日米安全保障条約をやめて、武装して中立の立場を取れ。日本独自の路線を追求すべきだ」との声は極左や極右どちらからも上がっていますが、仮にアメリカとの同盟を日本がやめた場合、日本独力で太平洋方面まで守らなければなりません。

 そうなれば、世界中、見渡す限りが敵だらけとなり、第二次世界大戦時のABCD包囲網の二の舞になる。極めて非現実的な話であり、それは日本にとって非常にリスキーな状況でしかありません。

〈文/上念 司〉

【上念司】
1969年、東京都生まれ。
経済評論家。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、 臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一名誉教授に師事し、薫陶を受ける。リフレ派の論客として、『日本経済防衛計画』(扶桑社)、『経済で読み解く日本史 全6巻』(飛鳥新社)、『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済』(講談社+α新書)など著書多数。テレビ、ラジオなどで活躍中。
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