健康診断以上の項目を全身隅々までチェックする人間ドックは、サラリーマンも個人事業主も、社会の第一線で長く働いていくならば是非とも受診しておきたい。一方、人間ドックと言えば「受けたほうが良いんだろうけど、面倒で……」「個人負担の費用が……」「そもそもドコでどういう項目を受ければ……?」という心理的ハードルも若干高めである。
これを踏まえて、当記事では日本橋人形町消化器・内視鏡クリニックの院長・石岡充彬氏に話を伺い、人間ドックでの推奨オプションと低優先度オプションの見分け方など「40過ぎたら一度は受けたほうが良い人間ドックのコツ」を紹介していく。これが積極的な人間ドック受診の助けとなれば幸いである。
人間ドックは主に「大病院受診」「クリニック受診」の2種
石岡院長は前職において、がん研有明病院の健診センターで副医長を務め、人間ドックの最前線に長く携わっていた経験を持っている。かなりディープな内容を聞けそうだが、その前にまずは人間ドックの概要から入っていきたい。人間ドックの主な項目は身体計測、血液検査、尿検査、心電図、胸部X線、胃カメラ(またはバリウム)、腹部エコー、便潜血など。一般的なコースなら半日(3~4時間)ほどかかり、オプションなしの基本セットなら4~6万円程度が相場目安となっている。また、通常の健康診断でも言えることだが、受診前日の夜9時頃からの「絶食」も必須だ。
石岡院長いわく、「大きな病院」と「専門クリニック」で、実は人間ドックの中身がかなり違うようだ。
「大きな病院で受診する場合は、あらゆる専門科が揃っていることがメリットです。『1日で全身をまるっと調べて終わりたい』という効率重視の方向きですね。
例えば、胃カメラで「鎮静剤でぐっすり眠っている間に検査してほしい」と希望しても対応が難しかったり、大腸カメラは別日に……という場合もある。また、不要な検査がセットに含まれることが多く、費用も少し割高の傾向だ。
「次に専門クリニックの場合は、『胃腸が心配だから消化器内科で徹底的に』『心臓が不安だから循環器科で』というように、必要項目だけ選んで専門医による検査が受けられます。検査項目を絞るため、余計な待ち時間や食事制限などの負担が少なく、費用も安く抑えられるのが魅力です」
だが、逆に言えば必要項目を自分で選べるだけの知識が必要という事でもある。加えて、そのクリニックの専門外となる領域について外部専門医と連携しているか、ただ検査して終わりにしていないかの見極めも欠かせない。人間ドック受診を本格検討するとき、まずは「大病院か、クリニックか」の2タイプの特徴を知るのが正解である。
40代以上を脅かす「魔のカーブ」
冒頭の通り、私たち日本人にとって40代は健康の曲がり角。この時期に人間ドックを受けるべき、もしくは受けないままでいるリスクは何だろうか。「40代は『生活習慣病』が『臓器のダメージ』に変わる分岐点だからです。その理由は大きく分けて2つあります」
石岡院長は、まず健康統計上の「魔のカーブ」について指摘する。
「国立がん研究センターの最新のがん統計では、男女ともに40歳を境として、がんの罹患率(病気にかかる率)グラフが明確に上昇カーブを描き始めています。20~30代の若年性がんは遺伝などの特殊な要因が多いですが、40代以降のがんは長年の飲酒・喫煙・不摂生などの結果が、臓器のダメージとして表面化している事が多いです」
もう一つの理由は、会社の健康診断だけでは検査が「足りない」こと。
「会社で行う法定健診(定期健康診断)は、法定の『労働可能か』を見るための最低限のチェックであり、がんや臓器異常の早期発見には不十分。
「一番おすすめ」のオプションは?
「40代で一度は受けるべき推奨オプションとして、まずは最も優先度が高いものとして、大腸内視鏡(大腸カメラ)を強く推奨します!」
その具体的な理由を石岡院長に尋ねた。まず、大腸内視鏡(大腸カメラ)は大腸がんに警戒するためのものだ。大腸がんは日本人のがん罹患数で第1位、死亡数では第2位(女性では第1位)。また、他のがんと比べても比較的若い年代からの発症が多いのが特徴である。
「一方で、大腸がんは『最も予防しやすいがん』でもあります。40代からできやすくなる『前がん病変(ポリープ)』を、大腸内視鏡で発見と同時にその場で切除してしまえば(※施設による)、将来のがん化リスク自体を限りなくゼロに近づけられます。『がんの芽』を摘み取って、将来のがんを未然に防げる唯一の検査が大腸内視鏡なのです」
この大腸内視鏡は、上記3検査の中でも最も優先度が高いという。多くの人は、会社健診の「便潜血検査(検便)」を受けていれば安心と思いがちだが、ここには大きな落とし穴がある。便潜血検査と大腸内視鏡の2つは、役割が全く違うのだ。
「検便には『早期発見』において苦手な部分があります。
(1)進行がん(手術が必要):約80%以上が反応
(2)早期がん(内視鏡で治せる):約50%(2回に1回)しか反応しない
(3)10mm以下のポリープ(がんの芽):約10%しか反応しない(9割は見逃す)
「つまり、検便は(1)進行がんを見つけるのには優秀ですが、(2)早期がんや(3)ポリープの段階では、1回の検査だけではすり抜けてしまう可能性が高いのです。だからこそ、リスクが上がり始める40代で精度の高い大腸カメラを受け、見逃されているポリープや早期がんがないか徹底チェックしてください」
石岡院長は誤解を招かないようにと、「便潜血検査も、それ自体は非常に有益な検査」と説明している。ただし、これは毎年繰り返し受けることで精度が担保されるもの。1回だけの検査で見逃しても、毎年の受診でがん死亡率を下げる効果は実証されている。40歳を過ぎたら大腸内視鏡で「異常なし」を確認し、その後数年は毎年の便潜血検査でチェック継続……というのが最強の組み合わせだという。
「腹部超音波(エコー)」「胸部CT」も受けておきたい
大腸内視鏡検査以外で、優先順位の高い人間ドックのオプションについて、まず石岡院長は腹部超音波(エコー)を挙げた。これは「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓をはじめ、膵臓・腎臓・胆のうを痛みも被曝もなくチェックできる。これら臓器の異常は、初期段階では症状がないばかりか通常の血液検査だけでは数値に出ないことも多く、画像検査で見ないと気づけない。「ただし、超音波は脂肪で減衰してしまうため、肥満体型の方や内臓脂肪が多い方は、画像が不鮮明となり、検査精度が落ちてしまいます。その場合は、医師と相談してCT検査などを検討してください」
次に重要なのは胸部CTである。通常のレントゲン(X線)は「影絵」なので、心臓や太い骨の裏に隠れた小さながんが見えない。対してCTは体を輪切りにして見るため死角がなく、画像も鮮明で診断精度が非常に高い。最近は被曝量の少ない「低線量CT」を用いている施設も増えているので、X線の影響が心配な場合は導入しているか確認すると良い。
「特に過去の喫煙歴がある方、現在喫煙中の方、受動喫煙の環境にある方は、40歳という節目で肺の精密な『ベースライン(基準)』を確認すべきです。また、施設選びでここが重要なのですが……胸部画像は読影能力(画像を見て診断する力)が、専門医と非専門医で大きな開きがあることがわかっています。受診する際は、日本医学放射線学会や日本呼吸器学会など認定資格を持った医師が、診断に携わっているか必ずチェックしてください」
また、胸部CTについては胸部レントゲン(X線)の情報をすべて含む完全上位互換なので、オプションで胸部CTを受ける場合、基本コースのレントゲンと両方受けるメリットはない。可能であればレントゲンの方を省略することを推奨する。
「40代以前」でも受けておきたい検査
以上のように、人間ドックの際は大腸内視鏡検査、腹部超音波(エコー)、胸部CTをオプションに加えるのがおすすめだ。なお、石岡院長は40代になる「前」から、できれば年齢を問わず今すぐ受けておきたい検査についても触れている。「まずはABC検診(胃がんリスク検診)です。血液検査で『ピロリ菌感染の有無』と『胃粘膜の萎縮度』を調べるのですが、ピロリ菌がいなければ胃がんリスクは極小のため、胃カメラの必要性を判断する『一生に一度のクラス分け』として早期受診が賢明です」
加えて、女性の方であれば乳がん・子宮がんも40代以前の若いうちからリスクが高まるため、「40歳になったから」ではなく、未受診ならすぐにでも必ず受けた方が良いという。ABC検診も含め、健康のためには20~30代でも油断は禁物である。
「腫瘍マーカー」は偽陽性・偽陰性に要注意
ここまでは人間ドックのオプションについて、なるべく受けるべき高優先のものを紹介してきた。だが、これとは逆に優先順位が低い、もしくは通常ならば受ける必要がないオプションはあるのだろうか。「単独で行う『腫瘍マーカー』と、医学的根拠がまだ乏しい『線虫がん検査』などの簡易検査です。これらは手軽さが売りですが診断価値は低く、場合によっては混乱を招くだけのノイズになりかねません」
まずは、単独での「腫瘍マーカー(※PSAを除く)」について。本来、腫瘍マーカーは「すでにがんが見つかっている人の、治療効果や再発を見る」ためのものである。
「がんではないのに体質や良性の炎症で数値が上がり、無駄な精密検査と不安を招く『偽陽性』というケースや、その反対に早期がんでは数値が上がらないことが多く、数値が正常だから大丈夫だという誤った安心感を与えてしまう『偽陰性』のケースが考えられます」
こうした腫瘍マーカーのオプションをあえて付けるとしたら、「すでにがんの治療歴がある人の再発チェック」や「画像診断とセットで行う場合」だ。例えば、親族に膵臓がんが多く、腹部エコーやMRIとセットで膵臓系のマーカーを測るならアリだと、石岡院長は説明する。
「また、例外として、男性の『PSA(前立腺特異抗原)』だけは別です。これは臓器特異性が高く、前立腺がんの早期発見に非常に有用です。40代後半以降の男性なら、これだけは追加する価値があります」
「お手軽検査」よりも「堅実・確実な検査」を選ぼう
もう一つの線虫がん検査は、最近のCMやネット広告で「尿一滴で全身のがんリスクがわかる」といった簡易検査キットを見かけるようになったが、「現時点では推奨しません」と石岡院長は警鐘を鳴らしている。「こうした簡易キットで『リスクが高い!』と判定されても、体のどこに病気があるかまでは分かりません。その結果、高額な検査などをあちこちで受けても結局何も見つからない『検査難民』になってしまうケースが後を断ちません。安直な手軽さよりも、効果の実証された確実な画像検査(カメラやCT)を選んでください」
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以上、人間ドックの推奨&非推奨オプションについて詳しく解説した。人間ドックのみならず、健康検査は時に人生をも左右する。それだけに検査内容は若干の手間と費用がかかったとしても、可能な限り堅実で信頼性の高いものを選んでいこう。
<取材・文/デヤブロウ 写真提供/日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック>
【デヤブロウ】
東京都在住。
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