「わからないことはChatGPTに聞く」というスタイルが定着した2025年。その便利さにどっぷり浸かり、もはやAIなしでは献立一つ決められない私たちに、冷や水(あるいは現実)が浴びせられようとしています。
開発元のOpenAIが、ついにChatGPTへの「広告導入」という禁断の果実を口にしたのです。
​これまで「中立で全知全能な相談役」だったAIが、ビジネスの論理という名のネクタイを締め始めた今、私たちのデジタルライフにはどんな変化が起きるのでしょうか。

​■AIとの会話に「CM」が混ざる日

​2026年1月、OpenAIは米国で広告の試験運用を開始しました。ここで重要なのは、「誰の画面に広告が出るのか」という点です。対象となるのは、以下のユーザー層だと明示されています。

​無料版ユーザー
これまで通りタダで使いたいなら、広告を見るのがルール。

​「ChatGPT Go」ユーザー
月額20ドルは高いが、タダは嫌だという層向けに新設された「月額8ドルの格安プラン」利用者。

​つまり、「タダ、もしくは安く済ませたいなら、企業の宣伝にも付き合ってね」という、テレビやYouTubeと同じビジネスモデルがAIの世界にも本格上陸したわけです。

​例えば、「週末、都内でコスパの良いデートプランを教えて」と相談すれば、AIのスマートな回答のすぐ隣に、特定のレストラン予約サイトや、なぜか特定のジュエリーブランドのリンクが「スポンサー」として並ぶことになります。

​OpenAIは「広告が回答の内容そのものを歪めることはない」と潔白を主張しています。しかし、「一番のおすすめ」を聞いたとき、AIがこっそり広告主の商品に忖度して(気を利かせて)、さも客観的なふりをして勧めてくるのではないか……という疑念は、どうしても拭えません。

AIが”人間の消費行動”を支配する?ChatGPTの広告導入...の画像はこちら >>

​■広告業界が鼻息を荒くするアメリカ

​先行導入されたアメリカでは、反応が真っ二つに分かれています。

SNSなどでは、「AIの良さはGoogle検索と違って広告に邪魔されない『清純さ』だったのに!」という、アイドルのスキャンダルを嘆くような失望の声も少なくありません。一方で、「年間2兆円超えとも言われる電気代やサーバー代を考えれば、いつまでもタダで使わせろというのは無理な相談だ」という現実的な受け止め方も広がっています。


​一方で、広告業界の鼻息は荒い。これまでのネット広告は、ユーザーが打ち込んだ「単語」に反応するだけでしたが、AI広告はユーザーの「悩み」や「現在の文脈」を読み取ります。

「最近、寝不足で仕事に集中できないんだ」という切実な告白に対し、AIが共感しつつ、絶妙なタイミングで安眠枕を提案する。この「親身なフリをした営業活動」は、これまでのどんな広告よりも私たちの財布の紐を緩める破壊力を持っているからです。

​■日本への影響は「情報格差の定着」と「ググる」の消滅

​この波が日本に上陸した際、懸念されるのは「情報の格差」の定着です。

​今後は、「お金を払って『中立な知能』を買う人(月額20ドル以上の課金勢)」と、「無料で使える代わりに、AIに企業の意向を刷り込まれる人」の二極化が進むでしょう。無料版ユーザーは、自分がAIを使いこなしているつもりでも、実はAI(と広告主)によって「特定の消費行動」へスマートに誘導されている……なんていう、ちょっとしたディストピアが現実味を帯びてきます。

​また、日本特有の「ググる(検索して比較する)」文化も、さらに衰退するでしょう。AIが提示した「広告付きの回答」だけで満足して完結する人が増えれば、私たちがこれまで情報源にしてきた個人のブログやニッチな比較サイトは、誰にも見られぬままネットの海に沈んでいくかもしれません。

​■AIは「営業してくる一人のビジネスマン」と思うべき

​広告が入ったからといって、ChatGPTが「使えないツール」になるわけではありません。大切なのは、「AIも、裏では商売をしている一人のビジネスマンである」という視点を持つことです。

​テレビにCMがあり、雑誌にタイアップ記事があるように、AIの回答にも「大人の事情」が含まれる時代がやってきました。AIが熱心に何かを勧めてきたとき、「これは本当に俺のためか? それともスポンサーのためか?」と、一歩引いてニヤリと笑える余裕が欲しいところです。


​「AIが言っているから」と盲信するのではなく、最後は自分の鼻を信じる。デジタルが進めば進むほど、そんなアナログな「疑う力」こそが、損をしないための最大の武器になるはずです。

【福原たまねぎ】
シアトル在住。外資系IT米国本社のシニアPM。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後にベンチャー企業を経て2016年に外資系IT企業の日本支社に入社。2022年にアメリカ本社に転籍し現職。noteでは仕事術やキャリア論など記事を多数発表。X:@fukutamanegi
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